競馬記者が見た『ザ・ロイヤルファミリー』(2)初回以上に工夫を凝らしたレースのカメラワークに瞠目!
『ザ・ロイヤルファミリー』第2話の1シーン©TBSスパークル/TBS
俳優、妻夫木聡が主演を務めるTBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(日曜後9・0)が放送中だ。競馬の世界を舞台に夢を追い続けた熱き人間と競走馬の20年にわたる壮大なストーリー。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞をダブル受賞した、作家・早見和真氏による同名小説が原作のドラマをキャリア30年超の競馬記者が毎週の放送に合わせてレビューする。
※以下、『ザ・ロイヤルファミリー』のネタバレが含まれます。
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初回同様、今回も原作よりドラマチック仕立てとなっていた。山王耕造と対立する息子の優太郎(小泉孝太郎)は、今年中に中央競馬で1勝もできなければ会社の競馬事業を撤廃すると山王耕造(佐藤浩市)に提案し、妻・京子(黒木瞳)は自身が責任者である外食事業の担当として栗須栄治(妻夫木聡)を引き抜こうと揺さぶりをかけてきた。
優太郎との「勝負」に山王耕造は「おもしれえ、やってやろうじゃないか」「うちの馬をなめるんじゃないよ」と受けて立った。しかし、夏競馬は終わり、残された時間は4カ月ほどしかない。しかも所有馬で勝利が期待できるのは、夏の新潟競馬の未勝利戦で2着だったロイヤルファイトだけ。出走回数を増やしたい山王はロイヤルファイトの出走を前倒しするよう管理する調教師に頼むが、首を縦に振らないため転厩(別の調教師の厩舎へ移動)することになった。
原作で転厩が出てくるのは第二部になってから。原作以上に早く転厩が出てきたのは、今後〝ロイヤルファミリー〟の一員となる調教師の広中博(安藤政信)を登場させるためだが、これによって第2話は大きな山場を迎えることになる。
今回、スポットが当てられた山王の愛馬はロイヤルイザーニャ。ロイヤルファイトとともに林田ファームから合計3000万円で購入した際、左の前脚は少し曲がった芦毛の馬だ。第2話放送でも回想したイザーニャのエピソードは、原作(新潮文庫)ではおよそ6ページで語られている。さらに短いのはイザーニャのレースについての部分。2ページほどしかないのだ。ドラマではそれを広中博厩舎への転厩と「年内1勝」の賭けを絡め、ドラマチックな展開に発展させていた。
その途中で頻繁に出てくる美浦トレーニングセンターは、一般のファンは見学ツアーなどに当選しない限り入れないところなので、競馬場の検量室内やパドックの内側と同じようにバックヤードを覗(のぞ)いている気分になったのではないか。
ロイヤルイザーニャにまたがったのは戸崎圭太。初回の武豊に続きJRAの現役騎手が実名で登場した。競馬場のパドックで山王と栗須に「よろしくお願いします」と挨拶するときの真剣なまなざしがよかった。
中山芝2000メートルを舞台に行われたイザーニャのレースシーンは、初回のロイヤルファイトが出走したシーン同様、実際のレース映像にイザーニャの走りを重ね合わせたように思えた。ゲートを出るところはジョッキー目線の映像だったり、最後の直線では中山の急坂がよく分かるように正面からレースを撮っていたり(そこでのスローモーションは幻想的で印象に残る)、初回以上に工夫を凝らしたカメラワークが目を引いた。
同じレースに出走したオーンレジスの勝負服から当たりをつけて実際のレースを探してみたが、残念ながら見つからなかった。オーンレジスは初回に登場した椎名善弘(沢村一樹)の所有馬だが、ロイヤルファイトと対戦したときと勝負服が違っているのは、その間に変更したためか?(エルコンドルパサーの馬主やキタサンブラックのオーナーら勝負服のデザインを変更する馬主は少なくない)。
ちなみに、ドラマの途中にほんの数秒挿入されたレース(各馬がゲートを出るシーン)は、牝馬のウオッカが制した2007年の第74回日本ダービーだ。
余談だが、このドラマには食事シーンが頻繁に出てくる。食事の仕方によって2人が信頼しているのかそうでないのかを表そうとしているのだろうか。演出の意図を知りたい。
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おまけで第1回放送のおさらいを。録画し忘れても、今は「Tver(ティーバー)」という便利な動画配信サービスがある。見逃していたネタになるものはないかとチェック。この連載の話題作りに最適なのはエンドロールだということを実感した。
出演馬(Horse Actors)が紹介されていることには競走馬へのリスペクトを感じた。ウインガナドルからファウストまでの12頭は、ウインガナドルが2歳コースレコード(2分2秒1)で逃げ切った2016年10月16日の新潟2R・2歳未勝利戦(芝2000メートル)の出走馬。ロイヤルファイトが、逃げるウイングドイルに迫るシーンは「どうやら」このレースが使われた「ようだ」とつづったが、「どうやら」も「ようだ」も必要なかったというわけだ。
「実在の誘導馬も登場する」として挙げたトラキアンコードの名前がなかったのには、馬名を間違えたのかと焦った。改めて見ると、栗須栄治の元恋人、野崎加奈子(松本若菜)が牧場の仕事をしながら見ている競馬中継のテレビ画面に誘導馬としてしっかり映っていたので安堵(あんど)した。演技ではなく、本業の誘導馬としてテレビに抜かれたものなので「Horse Actors」のカテゴリーに入らなかったと筆者は推測する。
SNS上で話題となっているのは、武豊騎手が本人役で出演して騎乗したウイングドイル役のマイネルファンロンと、菅原隆一騎手が騎乗したロイヤルファイト役のオースミムーンだ。いずれも競走馬を引退後、新潟競馬場で誘導馬として活躍している。
オースミムーンは2013年の小倉サマージャンプ(J・GⅢ)、阪神ジャンプS(J・GⅢ)、東京ハイジャンプ(J・GⅡ)、2014年の京都ジャンプS(J・GⅢ)、2015年の東京ジャンプS(J・GⅢ)、阪神ジャンプS(J・GⅢ)の障害重賞を5勝した名ジャンパー。2017年に競走馬を引退後、馬事公苑で乗馬となり、19年から新潟競馬場で誘導馬となった。
マイネルファンロンは21年の新潟記念(GⅢ)の勝ち馬。24年9月に競走馬を引退して新潟競馬場へ。翌25年に誘導馬デビューを果たした。父ステイゴールド、母マイネテレジアという血統で、ビッグレッドファームの生産馬だ。3歳下の半妹に牝馬限定重賞の最高峰の一戦である牝馬クラシックレースのオークスを制したユーバーレーベンがいることから、マイネルファンロン兄貴、略して「ファニキ」の愛称でファンに愛されている。ドラマの公式Xでも「第1話登場のファニキ!!」と題して武豊騎手がまたがったマイネルファンロンの写真が掲載されたことも話題になった(https://x.com/royalfamily_tbs/status/1978385501884223874)。ちなみに、ウインガナドルもステイゴールドの子供で、母タイムフェアレディは01年フラワーC(GⅢ)の勝ち馬。20年5月31日のむらさき賞では、実際に武豊が手綱を取ってウインガナドルを勝利に導いている。
連載1回目に山王耕造の社長室に1995年の第13回中山牝馬ステークス(GⅢ)の優勝レイが飾られていることを伝えたが、「10」の数字とロイヤルハピネスと印刷された深緑色のレースゼッケンも飾られていた。深緑は「重賞GⅢ、その他の重賞競走」で使用されている色だ。ちなみに実際の95年中山牝馬Sを勝ったときのアルファキュートの馬番も「10」だった。
さらにエンドロールの最中に出てくる数々の写真の中に、第1話放送でロイヤルファイトの騎手が着ていたものとは違う勝負服で競走馬にまたがるジョッキーの姿があった。馬主・山王耕造は勝負服のデザインを変えるのか? それはいつ? その理由は? 楽しみだ。(鈴木学)