可愛らしさのために冒される「ペットの健康リスク」。人間の好みによって犬と猫がそっくりに?
かわいいが正義じゃないこともあるのか…。
愛らしい犬や猫は、私たちにとって身近な存在。野生では似ても似つかない異なる2つの種が、人間の「好み」によって驚くほど似た姿に進化しているかもしれないという、とても興味深い研究結果が発表されました。
現代の犬と猫、実は似た者同士
新たな研究結果によると、ペルシャ猫やパグといった丸顔で鼻ぺちゃな品種は、頭の形がまるでコピペしたかのように似ているのだとか。
この現象は、動物たちの進化が私たちの「かわいい」に大きく左右されている可能性があることを示唆しています。そして、その進化が動物たちの健康に関わる見過ごせない問題を引き起こしていることも浮かび上がってきました。
驚きの発見をしたのは、コーネル大学のアビー・グレイス・ドレイク氏や、セントルイス・ワシントン大学の進化生物学者ジョナサン・ロソス氏の研究チーム。この研究成果は、科学誌PNAS(米国科学アカデミー紀要)に掲載されています。
パグとペルシャ猫の頭蓋骨は似ている
研究チームは、スイスの博物館に保管されている100犬種以上に及ぶ2,800個という膨大な数の頭蓋骨コレクションと、動物病院などから集めた様々な猫のCTスキャンデータの3D解析を行なって比較しました。
その結果、予想もしなかった事実に直面したそうです。ドレイク氏はそのときのことをこう振り返ります。
当初は、猫と犬の(頭蓋骨の)形状空間を同じグラフ上にマッピングして、猫がどれくらい多様かを確認しようと考えていました。まさか、形状空間が重なるとは予想していませんでした。結果を目の当たりにしたとき、「何が起こっているの? すごい!」と思いました。
解析結果によると、犬と猫の祖先である自然界のオオカミとアフリカヤマネコの頭蓋骨が異なる形をしているのに対し、パグやペキニーズとペルシャ猫の頭蓋骨は似た形をしているといいます。
ロソス氏もこの発見に驚きを隠せなかったそうで、次のようにコメントしています。
「パグやペキニーズの頭蓋骨とペルシャ猫の頭蓋骨は、どちらもそれぞれの祖先であるオオカミやアフリカアヤマネコよりも互いに似ています。誰も予想していなかったと思います」
収斂進化 = 系統の異なる生物が似てくる現象
では、約5000万年も前に異なる進化の道を選択した犬と猫が、なぜ再び似た姿になってきているのでしょうか? 研究チームは、人間が特定の見た目を好んで交配を重ねてきた結果だと指摘します。
ロソス氏は、人間が犬と猫の進化に与えた影響について、以下のように述べています。
犬と猫は、5000万年前に進化的に(イヌ科とネコ科に)分岐しました。自然界にいるイヌ科とネコ科の動物を見れば、その違いは一目瞭然です。
こんにちのブリーダーたちは、犬と猫に大きな目、小さな鼻、丸い頭といった人間の赤ちゃんのような特徴を持つ個体を選択して繁殖させています。
5000万年にわたって蓄積されてきた違いを、こうした特徴を選別するだけで大幅に消し去ることができるなんて、誰が想像したでしょうか?
このように、元々関係のない種が類似した選択圧のもとで同じような特徴を持つ現象を「収斂進化(しゅうれんしんか)」と呼ぶそうです。
今回の研究は、自然界の力だけでなく、人間の「かわいい」も強力な選択圧になり得ることを示しています。ロソス氏とドレイク氏は、犬と猫のブリーダーがそういった共通する特徴を基準として選択してきたのが原因と述べています。
「かわいい」の裏にあるペットの健康リスク
人間が本能的に「かわいい」と感じる、赤ちゃんのような丸い顔、小さな鼻、大きな目。でも、このかわいさを求めることによって、動物たちが大きな代償を払うおそれがあると研究者たちは警告しています。
ロソス氏とドレイク氏は、人間がそのような特徴を好む傾向を明確に批判しています。人間が赤ちゃんのような顔をした動物を人工的につくりだすことで、ペットが深刻な健康問題に直面していると指摘しています。
ロソス氏は、「獣医師が主導する一部の団体によって、そういった極端なタイプの繁殖を非合法化する動きがあります。そして、それは動物の福祉のために必要です。猫や犬は、頭蓋骨の形状を人間によって改変されために、さまざまな問題を抱えています」と訴えます。
イギリス政府の動物福祉委員会も、2024年の報告書において、犬と猫の品種改良の影響に対して深刻な懸念を表明しています。
私たちの「かわいい」が動物たちを苦しめているかもしれないというのは、猫たちと暮らしている者としてちょっとショック。これからも人間は犬や猫を飼い続けていくでしょうから、この辺でペットとの関わりかたを改めて考える必要がありそうです。
Source: Washington University in St. Louis, The Conversation
Reference: Drake et al. 2025 / PNAS