業績悪化で社長交代の日産、社外取締役は全員留任の流れに疑問の声も
業績低迷などを受け社長交代を発表した日産自動車の独立社外取締役全員が留任する方針が示されたことに対し、同社を担当するアナリストらからは疑問の声が上がっている。
日産は11日、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)が3月末で退任し、後継には商品企画などを担当するチーフ・プランニング・オフィサーのイバン・エスピノーサ氏が就任すると発表した。一方、社外取締役は全員留任の方向で調整していると木村康取締役会議長が会見で明らかにした。
日産は会社法違反(特別背任)の罪などで起訴されたカルロス・ゴーン元会長の問題を受け、企業統治(ガバナンス)強化のため社外取締役が中心となって組織改革を進めた。現在も取締役12人中8人を社外が占めている。同社は19年6月から指名委員会等設置会社に移行しているが、指名・報酬・監査の3委員会には社長を含む執行側の人間は入っておらず、トップ人事などで社外取締役が強力な権限を有している。
シティグループ証券の吉田有史アナリストは英文リポートで、社外取締役を全員留任させるという決定には、「いささか当惑する」とコメント。取締役会の構成に大きな変更がないため「日産が株式市場を納得させるような経営戦略を推し進めることができるかどうかは不明だ」とした。
日産の取締役会は19年10月、ゴーン元会長の逮捕で揺れる同社の立て直しに向け、内田氏を社長に選んだ。最高執行責任者(COO)としてアシュワニ・グプタ氏、副COOとして関潤氏が補佐する「三頭体制」としたものの、関氏は就任まもなく退社。事業構造改革の策定や実行などに取り組んでいたグプタ氏も23年に会社を去り、最後まで残った内田氏も今回退任が決まった。
現在の取締役会には内田社長の就任時にいたメンバーも残っており、エスピノーサ氏をトップとする新たな経営体制発足後も残留することに対して厳しい目が注がれている。
木村氏は11日の記者会見で、業績低迷に対する取締役会の「責任は非常に重大だ」と理解しているとした上で、「それを打破するために新体制を構築して、皆さん方に判断していただきたいということを選択した」と説明した。日産の広報部門を通じて木村氏に記事へのコメントを求めたが現時点では得られていない。
東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、「三頭体制が崩れたところから内田氏だけではやれないのは明らかになっていた」が、取締役会はその状態が続くのを許してきたと話す。また、社長交代の判断やリストラなどでも「後手後手になったのには社外取にも責任がある」と指摘する。
内田氏が社長に就任して以降の株主総会では全ての取締役候補が9割以上の賛成を集めて可決されてきた。だが、米国や中国での販売不振やリストラ費用などにより今期(2025年3月期)は800億円の純損失を見込むなど業績が急速に悪化する中、6月開催予定の定時株主総会ではそうした株主の姿勢が変化する可能性もある。
ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは、今年の株主総会では社外取締役に対する株主の見方が変わってくるだろうと話す。現在の日産の苦境を招いた責任は内田氏など経営陣にもあるが、「取り締まる立場の人たちの見逃し」もあったという判断になるとの見方を示した。