千載一遇の大リーグ日本開幕戦 商機捉えるしたたかさ
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前年度はワールドシリーズ優勝。大谷翔平は2年連続、3度目のMVP(最優秀選手)を受賞。佐々木朗希の加入。米大リーグ・ドジャースの日本開幕戦はタイミングを考えたとき、これ以上はない――という要素にあふれている。
よくもここまで条件がそろった。日本での開催が内定した1年前には、具体的なことが何一つ、決まっていなかったのだから。マージャンに例えるなら、配牌(はいぱい)は良くないが持ってくる牌がことごとく役を広げてくれるという感じか。
一方、マリナーズの日本開幕戦や「イチロー凱旋」も、本来なら絶好のタイミングだった。2003年の話である。
イチローさんが加入した01年、マリナーズは116勝を挙げ、リーグのシーズン最多タイをマーク。イチローはMVPの他、新人王、盗塁王、首位打者など、多くのタイトルを獲得。02年も最後までポストシーズンへの出場権を争った。2000年からの4シーズンというのは、短いながらもマリナーズの黄金期だった。
その真っただ中の03年3月、マリナーズの日本開幕戦が予定されていたのだが、直前に米国の対イラクへの武力行使をめぐって情勢が緊迫したことから、テロの懸念が高まって開催が中止になった。当時、マリナーズのオーナーだった任天堂の故・山内溥取締相談役は球団の来日を楽しみにし、選手一人一人にグローブをかたどった金の記念品を用意していた。しかし、それらは、行き場を失った。
その後も大リーグ機構は、毎年のようにマリナーズに日本開幕戦開催を打診。ようやく実現したのは12年のことだ。
なぜ、ここまで間隔が空いたのか。
04年はヤンキースが日本で開幕戦を行った。08年はレッドソックスが来日している。ヤンキースには前年に松井秀喜が、レッドソックスには07年、松坂大輔が加わった。毎年のようには開催できないという事情があるにせよ、9年という時間を要したのは、山内氏の抵抗があったという。
「いまのようなチーム状況では、恥ずかしくて呼べない」というのである。マリナーズは04年から長い低迷期に入る。08年と10年には101敗を記録。山内氏にしてみれば、不完全な商品を世に出すわけにはいかない、という思いだったか。
あまり知られていないものの、山内氏は、毎日のようにマリナーズの試合をテレビで観戦。勝てば、その日の会議は機嫌のいい中で始まる。負ければ、ムスッとした表情で会議に現れる――そんなこともあったそうだ。
1992年にマリナーズの筆頭オーナーとなったときは、出資を請われて応じただけ。本社がシアトル郊外にあった関係で、地元への恩返しという意味合いが強かった。しかし、気づけば、野球に興味を持ち始め、イチロー獲得は彼の悲願となった。その後、イチローの活躍も相まって、さらに野球に魅了されていく。
残念ながら、2012年に日本で開幕戦が開催されたとき、山内氏が東京ドームに姿を見せることはなかった。翌年9月に死去。すでに体調が思わしくなかったよう。最後にその目でマリナーズの試合を見たかったはずだが、それはかなわなかった。
余談が長くなったが、日本開催はやはり、そうしたオーナーの意向が強く働く。
実は冒頭で、タイミング的にこれ以上はない――と書いたが、一つだけ懸念があった。昨年の韓国での開幕戦に続く、アジアでの2年連続開催である。前例もなく、体への負担も大きい。よって抵抗がなかったわけではないのだ。
ただ、ドジャースのオーナーグループであるグッゲンハイム・ベースボール・マネジメントこそが強く日本開催を望み、自らが冠スポンサーにもなった。
彼らにとって免罪符となったのは労使協定だった。そこには、現在の協定期間(22〜26年)において海外開催や特別イベントに1チームが3回以上参加することはできない、とある。「2年連続の参加」は禁止されていない。彼らはこの文言を盾に、選手会を納得させた。
もちろん、大リーグ機構も開催を後押し。彼らにとっても、格好のビジネスチャンスなのである。
前年に優勝したことなど冒頭で触れたような条件は、それを加速させた。大谷フィーバーによって、グッゲンハイム、大リーグ機構による〝ビジネスチャンス拡大〟という大人の事情は、結果としてその色合いが薄まり、願ったりかなったり。裏ではじくそろばんの音は、表には響かない。
それにしても、彼らには運があり、戦略のしたたかさも透ける。
前回の日本開幕戦となった19年は、イチローさん引退へのレールをうまく敷き、それに乗っかって興行に最高の付加価値を設けた。そして今回は、大谷人気にうまくあやかると、周辺のビジネスも巻き込み、ウィンウィンの関係に持ち込んでいる。
昨年の韓国開催は、ビジネスとして成功したかどうか、という以前に、大谷の元通訳による違法賭博問題で評価がうやむやに。ただこれまでのところ、その悪夢を上書きするのに十分な話題にあふれている。
15日の巨人との親善試合で放った大谷の本塁打が、それを象徴していた。
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