トランプがいようといまいと、アメリカは「持てる者たち」のための国(ニューズウィーク日本版)
12月9日にフロリダ州マイアミで市長選挙があり、民主党系候補として約30年ぶりにアイリーン・ヒギンズが約60%の票を得て当選。トランプ米大統領が担いだ共和党系候補は敗退した。11月4日のニューヨーク市長選でも、過激な富の再分配を掲げる民主党のゾーラン・マムダニが大差で当選したばかり。 【動画】衝撃の墜落シーン、機体は空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」が空から落ちてくる恐怖の瞬間 ウクライナ戦争の調停は堂々巡り。大騒ぎで世界各国に「指定した」高関税率は、国内で物価をつり上げたとして、国民から抗議の声が上がっている。そもそも関税率決定は大統領の権限にあらずとの見方を裁判所が示し、年末にも最高裁が最終評定を出す構え。トランプは就任1年を待たずして、はや転換点に差しかかった。来年は中間選挙の年だ。 すわ、民主党の逆襲が始まった。国は共和・民主の対立で内戦状態に......というのは、2024年の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の筋書きで、実際はそうなるまい。というのは、共和、民主両党とも「持てる者」の党というか、少なくともその政治資金を大企業に依存しているからだ。かつては製造業の労働者と労働組合に資金を依存した民主党は、製造業の国外流出でこれらの資金を失い、2000年代初頭には政治資金の大半を金融・ITを中心とする大企業に仰ぐようになった。
この民主党のひそかな資本家層への擦り寄りは、2011年にあらわになる。この年の9月、ニューヨークのウォール・ストリートに生活に困窮した市民が集まり、「ウォール・ストリートを占拠せよ」運動を繰り広げた。しかし民主党のオバマ大統領は、警官隊がデモ隊を力で解散させるのを看過した。またヒラリー・クリントンは16年の選挙集会で、トランプの下に集まる困窮した白人層を「嘆かわしい人たち」と呼び、民主党離れを決定的にした。 ■結局、世界はひっくり返らない アメリカでは所得上位1%の者が、GDPの25%弱を稼ぎ、国の資産の30%強を所有する。所得上位10%の富裕層が株式の90%強を所有する。連邦歳入の50%弱は個人所得税だが、その40%は所得上位1%の層、72%は上位10%の層が納めている。だからアメリカは、肉体労働ではなく頭脳で儲ける「持てる者」たちが支え、彼らのために国が動いていると言える。その他大勢は、古代アテネの「平民」のように貴族より一段格下の人間として生きる。 こうして「持てる者」たちの金が共和・民主両党を牛耳り、持たざる者たちは選挙のたびに良さそうに見えるほうに投票して、「政治を変えた」つもりできたのだ。 だから、共和も民主もしょせん「同じ穴のムジナ」。左右の過激派勢力が散発的に暴れても、州を単位とする南北戦争のような内戦は起こるまい。 というわけで、アメリカは崩壊しない。では国外の軍事覇権、ドル覇権はどうか。いま起きていることは、1971年のニクソン・ショックに酷似している。アメリカは国外の米軍の数を大幅に削減したが、ソ連が欧州に侵攻することはなかった。ニクソンはドルを金に固定相場で交換する義務を廃止し、ドルは大きく減価したが、国外に漏出していたドルは「ユーロダラー」として決済・投資に用いられたから、基軸通貨の地位を失うことはなかった。08年のリーマン危機の時は、ユーロダラーの供給が瞬時に止まり、世界中の中銀はFRBにドルのスワップでの供給を求めて門前列を成し、FRB=世界の中銀の様相を呈した。 結局のところ、世界がひっくり返ることは、当面ないだろう。正月は中国のおかげで観光客が激減するであろう京都にでも行き、ゆっくり楽しむことにしよう。
河東哲夫(外交アナリスト)