【コラム】中印ロがトランプ関税で急接近、政略結婚続かず-バスワニ

1990年代に米国の影響力に対抗する枠組みとして構想されたロシア・インド・中国(RIC)の連携が、トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争を乗り切る手段として再び注目されている。

  しかし、根強い相互不信を抱く3カ国の枠組みが長続きする可能性は低い。3カ国は対米不満を共有しているが、いわば政略結婚に過ぎない。

  その現実が、中国の天津で今週開かれる上海協力機構(SCO)首脳会談で浮き彫りになるだろう。ロシアは、長らく待ち望んでいた3カ国首脳会談の実現を目指している。

  もしこの枠組みが本格始動すれば、米国の圧力に直面する中で、地政学上の大国が足並みをそろえつつあるという強いメッセージになる。ただ、インド・中国間の緊張や、3カ国の経済構造の違いを考えれば、そうした展開となる公算は小さい。

  特に圧力が強まっているのはインドだ。つい最近まで米国の主要パートナーだったが、トランプ政権による関税引き上げが直撃。ロシア産原油の購入に対する報復として、インド産品への関税は、8月27日に2倍の50%へと引き上げられる予定だ。

  もともと米国の主な標的だった中国は、一時的に米国との対立で猶予を得ているものの、長期的な戦略的競争からは逃れられない。制裁で打撃を受け、ウクライナで自ら始めた戦争によって苦しんでいるロシアは、孤立を和らげてくれる友好国を求めている。

  RIC構想は、ロシアが90年代に最初に打ち出したものだ。エリツィン政権で外相や首相を務めたエフゲニー・プリマコフ氏が、米国の世界的影響力に対抗するための枠組みとして提唱した。

  紙の上では巨大な経済力と人口を誇る3カ国による強力な連携に見えたが、現実には主にインドと中国の間の不信感が足を引っ張り続けてきた。

  最大級の障害が、長年にわたる国境問題だ。ヒマラヤ地域にある約3488キロの不明確な国境線を巡り、中国とインドは対立。62年に戦争に発展した。2020年にはラダックのガルワン渓谷で流血の衝突が起き、過去数十年で最悪の戦闘となった。

  これを受け、インドは中国人観光客へのビザ(査証)発給を停止し、テクノロジー製品の輸入にも制限を課した。

  だが、トランプ政権の関税措置が両国を接近させつつある。インドと中国は係争地の境界線の画定を検討することで合意し、領土問題の解決に向けた前進が見られた。ビザを巡る緊張も緩和し、中国はインドの輸出に関して連帯の意を示した。

  とはいえ、将来的な衝突のリスクが消えたわけではない。戦略防衛研究評議会(CSDR)の創設者でディレクターのハッピーモン・ジェイコブ氏はインド紙ヒンドゥスタン・タイムズへの寄稿で、両国の関係には根本的な矛盾が残ると指摘した。

  現在は深刻な暴力を回避できているが、恒久的な和解は困難だろう。中国による南シナ海や台湾周辺での軍事的な強硬姿勢を目の当たりにしたインドが、中国を完全に信頼するのは難しいとみられる。

砂上の楼閣

  さらに、中国はインドが警戒するパキスタンと極めて緊密な関係にあり、冷戦終結以降、パキスタンにとって最も重要な防衛パートナーとなっている。インドとパキスタンが5月に衝突した際、パキスタンは中国製戦闘機「殲10C(J10C)」でインド機5機を撃墜したと主張した。

  インドによれば、中国が防空システムや衛星支援も提供していたという。こうしたパキスタンとの関係が、インドの安全保障を巡る懸念を一段と強め、中国は信用できないという認識を深めている。

  安全保障を離れ、経済的に見ても、インドにとって利は少ない。インドは米国のテクノロジーや資本、サプライチェーンに依存しており、ロシアや中国がその代わりになることはできない。

  米国はインド製品の最大の輸出先で、米市場の大きさは圧倒的だ。24年度に米国の消費者がインド産品775億ドル(約11兆4600億円)相当を購入したのに対し、中国とロシアへの輸出はごくわずかだった。

  一方、ロシアは中国との関係を深めている。14年のクリミア併合に伴う欧米の制裁実施以後、両国の貿易額は急増し、昨年は2000億ドルを超えた。企業間の金融取引も人民元決済やユニオンペイ(銀聯カード)の利用を通じて中国の金融システムに依存するようになっている。そのため、インドにとっては弱い立場での3カ国連携参加になりかねない。

  それでもロシアは、この枠組みの活用を諦めていない。5月にはラブロフ外相が、「今こそ3頭立てトロイカ復活の時だ」と発言。中国も、世界の平和と安定、安全保障を守る枠組みになり得ると呼応した。

  もしこの連携が実質的な協調行動につながれば、米国にとって脅威となり得る。だが、3カ国を結び付けているのは必要性であって、信頼ではない。

  天津でのSCO首脳会談は、関係改善を演出する場にはなるが、実質的な進展にはつながらないだろう。この枠組みは本質的にもろく、米国の圧力が弱まればすぐに瓦解(がかい)しかねない。

(カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Why the Russia-India-China Reboot Won’t Last: Karishma Vaswani (抜粋)

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