コラム:高市自民党大勝、市場の反応をどう読むか=熊野英生氏

国会議事堂。都内で2025年10月21日撮影。REUTERS/Manami Yamada

[東京 13日] - 衆院選で高市自民党が圧倒的な勝利を収めた。日経平均株価は、選挙後の2営業日だけで3396.86円も上昇した。円安・長期金利上昇はそれほど進んではいない。このマーケットの反応をどう読むかは、慎重に分析する必要がある。なぜ、もっぱら株価上昇だけが進む結果となったのだろうか。

まず、自民党大勝の背景には、長期政権による経済安定への期待があると考えられる。大敗した中道改革連合に対しては、有権者はほとんど期待を示さなかった。ひところ語られていた二大政党制のシナリオは、これで当面は消えた。有権者はむしろ、高市首相が自主的に判断して外交・経済政策運営を切り盛りする方が好ましいと判断したのであろう。野党は減税一本槍で有権者の気を引こうとしたが、それも裏目に出た。自民党が急きょ、食料品の消費税率を2年限定で8%からゼロにする方針を掲げると、他の野党の政策として独自の主張がほとんど伝わってこなかった。高市氏が減税方針を掲げると、野党には独自に有権者が入れたくなる政策が見当たらなくなるというのは致命的な弱点である。その中身の薄さによって敗北したと筆者は理解している。

<円安と長期金利上昇>

さて、なぜ円安と長期金利上昇へとマーケットが動かなかったのだろうか。この部分は筆者が事前に読み違えていた点で、もう一度吟味をしておく必要がある。

まず、インフレ予想が強まっていれば、ドル高・円安は進んでいたはずだ。しかし、高市氏が表明している積極財政以上の歳出増は、具体的に材料がない。

今後のスケジュールは、6月に骨太の方針、8月に概算要求、秋頃に2026年度の補正予算、12月に27年度予算案の予定となるだろう。夏頃に向けて消費税減税について議論が進む。野党を含めた国民会議が開かれるが、今回、野党の力は著しく衰えた。今までと違って、発言力はより小さなものとなる。

焦点は、2年間食料品の消費税率8%をゼロにする扱いがどこまで担保されるかにある。これにより、財源には年マイナス5兆円×2年間=マイナス10兆円の穴が空く。一方、過去3年間の消費税収の増加ペースを調べると、だいたい2年間で5-6%ペースで伸びていた。一般会計だけに限定して考えても、2年間で実額プラス2.7-プラス3.3兆円くらいの増収が期待される。つまり、きちんと2年後に税率を戻せれば26.7兆円(26年度)の税収規模が30兆円前後にまで増える公算になる。それであれば、2年間の財源の穴でさえ3年程度の自然増収で穴埋めできることになる。

また、日銀は円安リスクに対して何度か利上げすることになるだろう。高市氏は、外為特会について「円安でホクホク状態だ」と口を滑らせた。うっかり本音が出たものだと理解できる。高市氏はこの発言を深く反省して、円安歓迎の意図はなかったと強調している。日銀は、高市氏に忖度することが一時的にはあっても、追加利上げ自体を止めることはないだろう。

こうした見方によって、円安と長期金利上昇は、思惑が先走るかたちで動くことはなかった。

<経済界の望みは「安定」>

おそらく、経済界からの要望は減税ではない。社会保険料負担の軽減でもない。経済的な安定、外交関係の安定、そしてそれを長く続けることである。

高市政権であれば、トランプ政権とあと3年間はしっかりと対峙できる。野党政権には無利だろう。対中国外交は、誰がやっても難しい。11月の高市発言は軽率だったとしても、今のところレアアース問題などで最悪の事態にはなっていない。

国内的には、原発再稼働によってエネルギーの安定供給が徐々に進んでいる。この点は、自民党に政権を維持してもらう根拠の一つと言える。企業の研究開発支援については、高市政権は熱心である。ここも歓迎できる。

唯一、注文がつくとすれば、外国人労働力の問題であろう。排外主義は、インバウンド戦略を含めて全く日本経済のためにならない。現状、ベトナムからの労働力でさえ、日本が円安になっていることで徐々に日本を敬遠しつつあると聞いている。もっと門戸を広げて、労働力不足を補える姿勢を取った方がよい。外国人の不動産取得が、一部地域の不動産価格の高騰を引き起こしている点については規制がもっとあって良い。ただ、それが一部のミニ政党が唱えるような排外主義にまで至ると困った主張になる。この不動産高騰も底流にあるのは、円安によって日本人の購買力が著しく低下しているという現実である。

高市氏は、海外と交易・交流している日本人が円の購買力低下に困惑していることに無関心であるように思う。通貨の安い国には、強い経済は成り立たない。日本と海外の相対関係については、もっと認識を深めてほしいものである。

編集:宗えりか

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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