ロボットの手に人の感触。これまでで最も人間に近い合成皮膚を開発
目をつぶっていたら間と握手をしているかのよう。だがそれは人間ではなくロボットだった。とかいう驚きの体験が将来的には実現するかもしれない。
これまで、ロボットに人間のような触覚を与えるべく、さまざまなセンサーが考案されてきたが、それらは高いうえに、正確でなく、一度に1種類の感覚しか検出できないといった弱点もあった。
だが、イギリスのケンブリッジ大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが新たに開発した人工皮膚なら、触覚や温度、損傷まで感知できるという。
まさに人間の皮膚に近い感覚をロボットに与えることができるのだ。
この研究は『Science Robotics』(2025年6月11日付)に掲載された。
ロボット工学の表面をセンサーを組み込んだ合成皮膚で覆ってしまおうという研究は以前からあった。
たとえば、それによって手や指先に小型の圧力センサーを組み込めば、ロボットは触れた物体の形状や質感を認識できるようになることだろう。
だがこうした仕組みの難しいところは、この世の中にはいくつもの種類の違う刺激が存在することだ。
たとえば、私たちの手は、圧力も熱も感じることができる。それをロボットの手で実現しようとすると、それぞれの刺激専用のセンサーが必要となり、一気に複雑になる。
種類の違うセンサーは互いに干渉し合い、シグナルの混線を引き起こす。
それはただ感度の低下や誤作動させるだけでなく、下手をすればセンサーの損傷につながる恐れもある。
しかもセンサーは限られたスペースに詰め込まれるのだから、リスクはなお高まる。
こうした問題を防ぐには、1種のセンサーで複数の刺激を感知できることが望ましい。
英国ケンブリッジ大学のデイヴィッド・ハードマン教授は、ニュースリリースで次のように語っている。
この画像を大きなサイズで見るひとつの素材で複数の感覚を同時に検出できる方法を開発 image credit: University of Cambridge異なる感覚を検知するために別々のセンサーを組み合わせると、作りが非常に複雑になります
だから、ひとつの素材で複数の感覚を同時に検出できるロボットを開発しようと思いました(デイヴィッド・ハードマン教授)
そのために採用されたのが、柔らかく伸縮性があり導電性もあるゼラチンベースのハイドロゲルだ。
このゲルには、86万もの個別の経路が埋め込まれており、これらを通じて熱や圧力といった物理的な入力を電子信号に変換することができる。
これをコンピュータで処理すれば、ロボットに私たち人間のような皮膚感覚を与えることができるのだ。
この合成皮膚は、溶かして手のような型に流し、再形成することもできる。これを利用して今回の作られたのが、ロボットの手に装着する手袋だ。
それは使い古されたゴム手袋のような見た目だが、これをロボットの手に装着し、指で押したり表面を軽くなでたりしてやれば、その圧力をきちんと感知することができる。
さらに溶けるほどの熱や、メスによる切り傷といった損傷も、この合成皮膚に組み込まれたひとつのセンサーで感じ取れることが確認されている。
この画像を大きなサイズで見る人間の感覚を持つソフトロボットハンドの作り方と仕組み image credit:University of Cambridgeその感度はまだ人間の皮膚には及ばない。
それでも、これまでの既存の技術の中で一番優れていると、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのトーマス・ジョージ・トゥルテル氏は話す。
「まだ人間の皮膚ほどの精度には達していませんが、今存在する技術の中では最も優れていると自負しています」
この画像を大きなサイズで見る研究者たちはロボットの手を突いたり、焼いたり、切ったりして、感覚があるかどうかを調べた image credit: University of Cambridgeところで、こうしたロボットの皮膚感覚は現実の中でどのような意味を持つだろうか?
それを知りたければ、あなたとロボットが同じ工場内で作業を進めている状況を想像してみればいい。
あなたはロボットに、成型されたばかりの熱々のパーツを持ってくるよう指示した。するとロボットが、それが熱いことに気づかぬまま、何のためらいもなく手渡してきたらどうだろう?危険なことこの上ない。
またこうした感覚は、ロボットに人間の感情を理解させるためにも不可欠かもしれない。
だからこそ、ロボットにも私たち人間と同じような感覚が必要なのである。
References: Science / Single-material electronic skin gives robots the human touch
本記事は、海外で公開された情報の中から重要なポイントを抽出し、日本の読者向けに編集したものです。