【独占】中日の井上監督は“立浪野球”の何をどう変えようとしているのか…「負の遺産とは言わないが『認められない』とあきらめた選手がいるのかもしれない」
中日の井上一樹監督(53)の沖縄・北谷キャンプでの独占インタビュー第2弾。新指揮官は立浪和義前監督(55)が残した「財産」と「負の遺産」をどう評価し、最下位脱出に向けて、何を変えようと考えているのか。
対照的だった星野仙一氏と落合博満氏
中日の沖縄キャンプのムードが一変した。 とにかく明るい。 井上監督が「Dirty Hustle(ダーティー・ハッスル)99」と名付けて自らバットを持つ投手へのノックは、笑いと情熱にあふれ、ファンも喜びもはや北谷名物となった。あまりもの激しさに初日にドラフト2位のルーキー吉田聖弥の足がつり、松葉杖を使って球場を去るという衝撃の展開もあったが、「時代錯誤だ」といった批判の声は起こらなかった。これも井上監督の人柄だろう。「ほぼ毎日足を運ぶ」というブルペン、そしてフリー打撃でも、必ず選手に何やら話しかけてコミュニケーションを密に取っている。――ガラっと雰囲気が変わりましたね。「前任の立浪さんも気を使っていた方。ただ僕は昨年2軍を預からせていただいたので、その延長線という形で話ができています。2軍に降りてこなかったのは、細川成也、ライデル(マルティネス)、清水達也、松山晋也くらい。ほぼほぼみんなと接しています。僕の方針や性格を選手が、わかってくれているのがいい方に働いているんですよ」――Z世代にはどういう接し方を心掛けていますか?
「それは選手によって変わる。冗談で接するときもあるし、真剣に練習を見て『それは何を意図しているのか』と聞いたり『今年はおまえに期待していいのか?』とハッパをかけたりもしている。僕なりにアレンジしながら声をかけています」
Page 2
井上監督は答えにくいはずの質問から逃げなかった。「立浪さんのことは、本当にリスペクトしている。学年で言えば3年ー1年の間柄。昔から、ことあるごとに一樹、一樹と声をかけてくれた。いい面と悪い面を言えば、あの人は天才で、僕は凡人なんです、野球選手として立浪さんの常識があり、“これくらいできて当たり前だ”と思って選手を見てしまう。僕は『それができないから、1軍でレギュラーに定着できないんじゃないですか?』と言ってきた。僕自身が現役時代にできなかった部分が多かったからわかるんです。高卒ルーキーで入団してすぐにスタメンで新人王をとった天才の立浪さんに対して、僕は入ってから3軍(練習生)が長く、次に2軍。1軍に行けたと思ったら2軍落ち。そういう経験をしている。全部が全部知っているわけじゃないが、広い視野は持っている」 立浪前監督は天才がゆえに選手との温度差が生まれた。「立浪さんはハイレベルな野球を望んでいた。天才の立浪さんに『体を割ってから(打撃フォームのタメ)入らないと打てないよ』と言われたら『そうです』と言うしかない。でも、僕は這い上がる選手、コツコツと練習をしている選手に自分を重ねる自分がいるんです。これだけやっても認められないんだ、とあきらめた部分が去年の選手にはあったのかも。天才がゆえに(その固定観念を)植え付けられてしまった選手がいるのかな。失礼になるから、負の遺産とは言わないが、選手をそういった考えにさせてしまったことがあったのかなとは感じる」 立浪前監督がプロとして求めたものは理解できる。ただ井上監督が言うように自分の信念や理論が確立されているがゆえに、じっとしていられなかった。積極的に持論を指導したし、追い込まれてからのノーステップ打法の指示など管理体制を強めたことで選手の主体性が失われたのかもしれない。「打撃・作戦コーチの森野(将彦)、打撃統括コーチの松中(信彦)には『まずは様子を見てやってくれ』とお願いしている。選手は、オフの2か月間を利用してそれぞれが映像などを見て、いいバッターの真似なども含めて研究してきている。それを否定せず、まずは見守ってやってくれと。ここから、練習試合、オープン戦と実戦に入って結果が出なければ『それをやるからタイミングをとるの遅いのと違うかか』『視線がぶれるのでは?』などのアドバイスをおくっていこうよ、という話をしている。まず最初は認めてあげる。どんな打ち方、どんな投げ方をしてもいい。ただ結果が出なければ、自分が苦しむだけ。そのときに手を差し伸べるのがコーチの仕事と違いますかね」 井上監督はコーチに「否定から入ること」を禁じた。
問題は、選手のモチベーションを上げることで勝てるのか、3年連続最下位の暗黒時代から抜け出せるのか、という点だ。
Page 3
井上監督は、開幕前恒例の順位予想の話を持ち出した。おそらく最下位予想が多いだろう。「開幕前になると、野球の記者の方や解説陣が順位予想をされますね。では、去年から、ドラゴンズの戦力アップがどれくらいできたの?というところですね。凄い助っ人を取りました。FAであの選手を取りました、ということはないわけですよ。セ・リーグの6球団を考えたとき、どこの球団も戦力をアップさせました。でも戦力って何ですか?僕は、テンションとチームの束(たば)感、一体感で、チームの戦力は上がると信じているんです」 FA補強、トレードはなかった。新外国人として内外野ができるジェイソン・ボスラー、先発左腕のカイル・マラー、ブルペン強化のためジュニオル・マルテも獲得した。いずれも推定年俸1億円クラスの中堅レベル。ドラフト1位で4球団競合の末、金丸夢斗は引き当てたが、最下位脱出のために大補強をしたというオフではなかった。逆にライデル・マルティネスという絶対守護神がライバルの巨人へと流出した。 井上監督は、こう続ける。「例えばヤクルトには村上(宗隆)がいる、巨人には岡本(和真)がいて、戸郷(翔征)がいる、横浜DeNAには、牧(秀悟)、オースティンがいる。こちらからすれば『ええなあ』と思いますよ(笑)。そこに立ち向かうためにどうすればいいか。細川、石川(昂弥)がもうワンランク、2分打率を上げてくれ、もう5本、本塁打を打ってくれ、それを一人ひとりやっていくと対等に戦える。そこを信じないと、選手を信じないと使えない。選手は小さくなって欲しくない。打者なら“ブリブリ”いって三振してこい、投手なら打たれてもいいので全力で投げてこい、とモチベーションを上げることで戦力が上がることに期待しているんです」――中日だけに限らないが、若い選手は各自がYouTubeやトラックマンデータなどを駆使して研究、勉強をしています。「現代の野球は、YouTube、トラックマン、ホークアイのデータを使い、こうなっている、ああなっている、スピン量はどうだ、スイングスピードはどうだと。それは理解しているし大事。でも、僕はどちらかといえばアナログ。それで改良されて、ぐっと成績が上がってくれればOKだし、それぞれ勉強して下さいと。ただ、そこには勝てない部分ってあるでしょう。僕は気合と『根性じゃい!』という監督で育ってきた人間。(気持ちとデータの)いいとこ取りをしたい」ーー野球も変わりますか?「二塁から三塁へ走者を進めるためにどうすればいいかにこだわりますよ。2、3点を取りにいって0点に終わったことも目立ちました。欲張らずにまず1点を取る意識。それが先決だと思っています」 戦力は厳しい。しかし何かを起こしそうな予感はある。(次回へ続く)
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)