奇跡の大逆転劇にも仁王立ち…窮地の連続でチームをよみがえらせた中田久美監督のメッセージ:「おっ!」でつながる地元密着のスポーツ応援メディア 西スポWEB OTTO!

 ボールをつなぐだけではない。心をつなぐ競技の魅力が凝縮された3日間、激闘は14セットに及んだ。

 バレーボール大同生命SVリーグ女子のプレーオフ(PO)準決勝第3戦が20日、佐賀市のSAGAアリーナであり、レギュラーシーズン(RS)2位のSAGA久光スプリングスが同3位のPFUブルーキャッツ石川かほくに3―2(18―25、25―27、25―22、25―19、15―11)で逆転勝ちし、2勝1敗で決勝進出を決めた。

 POは全ラウンドを2戦先勝のトーナメント方式で実施。25日から横浜BUNTAIで行われる決勝では、RS4位で昨季覇者の大阪マーヴェラス(大阪MV)と対戦する。(記録は速報値)

 勝利を見届けた。サポートメンバーがなだれ込んだ勝者のコートで、SAGA久光の選手たちが歓喜の輪をつくった。その光景を、中田久美監督は微動だにせず、静かに見つめていた。冷めていたわけではない。感情を整理するのに、時間が必要だったのだろう。キャプテンの栄絵里香やリベロの西村弥菜美…ベンチへ戻ってきた選手を、無言のまま力強く抱きしめた。

 「たぶん…この3戦で彼女たちにとって『譲れないもの』が見えたのかな。まだ、確実に安定した力があるわけではありませんが、そう簡単には諦めないという気持ちがすごく出た3日間だったと思います」

 準決勝の第1戦を1―3で落とし、後がない第2戦はフルセットの末に勝ちきった。最終決戦の第3戦は2セットを連取された。しかも第2セットはジュースの末に落とした。中島咲愛と北窓絢音で対角を組んだレフト側からのアタック決定率が上がらず、逆にPFUのオフェンスをなかなか止められなかった。

 第2セットを終えての休息タイム。SAGA久光の控室はさすがに重苦しかったという。ミドルブロッカーの平山詩嫣が明かした。「息もできない感じで…みんな下を向いていました」。その時、沈滞しかけた空気を打破した声が響いた。「まだ終わっていない」―。声の主は中田監督だった。第2戦の試合前には「やられたら、やり返せ」との短い言葉で鼓舞し、1勝1敗のタイに持ち込んだ。第3戦、敗退の土俵際に追い詰められても、選手が培ってきた底力を信じていた。

途中出場でレフト側からの攻撃を担い、救世主となった SAGA久光スプリングスのジュリー・レングヴァイラー(左)

 中田監督の言葉に、選手が視線を上げた。「(セットカウント)0―3で終わってもおかしくない試合でした。ただ、監督として…こう、せっかくここまでやってきて、選手たちに諦めさせるわけにはいかない、というのが私の仕事だと思うので」。信念の采配は選手起用にも表れた。第3セット、中田監督がカードを切った。コートに送り込んだのは、ジュリー・レングヴァイラーだった。シーズン途中での外国籍選手の退団で、急きょ加入したスイス出身のアタッカーは、チームの危機に「失うものはない精神で…」と奮い立った。188センチの長身を生かした高い打点からのスパイクでPFUの守備網を次々と打ち破った。これで光りが灯り、沈んでいたオフェンスが息を吹き返した。

 ユニホームに袖を通してまだ2カ月あまり。それでも「ファミリーのように接してくれる」とチームメートに感謝し、自らコミュニケーションを取って順応しようと努める。この日アタックで苦しんでいた中島の心情も痛いほど分かっていたに違いない。アップゾーンでは身ぶり手ぶりで懸命に励まし、代わりにコートに入ってからは26打数13得点で救世主となった。

二枚替えで活躍し、派手なリアクションでも 会場を沸かせたSAGA久光スプリングスの井上未唯奈(右)

 3日間の入場者数は、第1戦の「2948人」から第2戦は「3712人」に増え、第3戦は平日のナイター開催にもかかわらず「3814人」を記録した。詰めかけたファンが「何かを起こしてくれる」と期待をふくらませるのだろう。背番号「19」が登場すると、ボルテージは一層上がる。20歳の井上未唯奈だった。2026年度の女子日本代表メンバーにも選ばれたミドルブロッカーはセッターの籾井あきとの二枚替えで登場。チームトップの最高到達点(310センチ)を誇る新星は相手のマークにもひるまず、ライト側から果敢に打ち込み、攻撃にアクセントをつけた。

 最終第5セットに入ると、SAGA久光の強みの一つでもある「ブロック&ディフェンス」がさく裂。この3日間、手を焼いてきた相手スパイカー陣のアタックを北窓絢音や平山詩嫣が体を張ってブロック。勝利への道筋を描き、最後は荒木彩花がこの試合4本目のブロックポイントで長く、熱い戦いに幕を下ろした。

 2021~22年シーズンの優勝を最後に、スプリングスの年間最終順位は3位、6位、3位。昨季のPOはNECレッドロケッツ川崎との準決勝で力尽きた。「私は直接見ていませんが、昨シーズンの悔しさを口にする選手が多いので、今季にかける思いは伝わってきます。簡単には諦められない…それが彼女たちの思いではないでしょうか」。中田監督が明かした。

 行き先は決まった。横浜で相まみえるのは大阪MVだ。RSは4位でも、大一番に照準を合わせて仕上げてきた。伝統の堅実な攻守は相変わらずで、NEC川崎を相手に2戦連続の3―0で準決勝を突破。田中瑞稀と林琴奈の二枚看板を擁し、隙は見当たらない。

 だからといって、弱気になる必要はない。東京五輪の女子日本代表監督などを経て10季ぶりにチーム現場で指揮を執る中田監督は、前回在任時の4季でプレミアリーグ(現SVリーグ)を3度、全日本選手権を4度制した。「勝負に対しての責任感にはこだわっています。それは現役の時も今も私のこだわりです」

試合後に柔らかな笑みを浮かべる SAGA久光スプリングスの中田久美監督(左)

 そんな中田監督の目に選手たちはどう映っているのか。「ここまでいろんなことがありながらも優勝というキーワードが彼女たちの口から出るというのが、このチームの覚悟です」。開幕3連敗の14チーム中最下位からはい上がり、以後連敗はない。フルセットの試合は13勝2敗。諦めないバレーを体現してきた。勝てば即、王手の超短期決戦。信頼を重ねた選手の譲れない想(おも)いともに頂点に立つ。(西口憲一)

4/20 vs PFUブルーキャッツ石川かほく 4セット目 15-11 セットカウント3-2 っっっしゃーーー

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