最低賃金1500円、目標は正しいか 経済学者の見方割れる
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日本経済新聞社と日本経済研究センターは経済学者を対象に、最低賃金を1500円まで引き上げるとする政府の目標について聞いた。物価を上回る速度で最低賃金が上がれば「雇用を減らす」(26%)との見方が「減らさない」(28%)とほぼ同数だった。最低賃金の急激な上昇は人件費を払えない中小企業の倒産を増やすと懸念する見方がある。結果として雇用が減るかどうかは経済学者の間で見通しが分かれた。
日経と日経センターが15〜20日に実施した「エコノミクスパネル」調査の一環で、労働やマクロ経済学などの専門家46人から回答を得た。
政府は22日に閣議決定した経済対策に、2020年代のうちに最低賃金を1500円まで引き上げる目標を掲げた。従来の政府目標が達成時期を30年代半ばとしていたのを大幅に前倒しした。
調査では、消費者物価の2%程度の上昇率が20年代のうちは続くと仮定した上で、雇用が減るかどうかを尋ねた。現在は全国平均で1055円の最低賃金が29年までに1500円まで上げれば、年平均の上昇率は7%程度となり物価の伸びを大幅に上回る。
経済学の古典的な理論は、最低賃金の引き上げで人件費が上がれば、企業の雇い止めで失業が増えるとしていた。2021年にノーベル経済学賞を受賞したデビッド・カード氏らは実証研究によりこの見方を否定し、その後、各国の経済学者が影響の測定を試みてきた。
「雇用が減る」との見方を支持した東京大の田中万理准教授(開発経済学)は「これまでの実証研究に基づくとパートタイムやアルバイトなど低スキル労働の雇用が減る可能性が高い」と答えた。
「減らない」と答えた専門家の根拠の一つは人手不足だ。コロンビア大の伊藤隆敏教授(国際金融)は「人手不足が常態化しているので再就職も可能だ」と述べた。人件費の増加を吸収しきれず廃業する企業があったとしても、「低生産性部門から成長部門へ労働移動が促進される」(伊藤氏)との見方も示した。
雇用の増減については「どちらともいえない」とする回答が45%と最多だった。最低賃金の引き上げにより「人工知能(AI)やロボットなど省人化投資が進むことも想定される」(東京大学の大橋弘教授)とする意見もあった。最低賃金が上がったときの生産性の動向や、労働市場の独占度合いが雇用に影響するとの見方も多かった。
調査では「政府が最低賃金の中期的な目標を示すのは適切か」とも尋ねた。回答は「強くそう思う」「そう思う」が計34%、「全くそう思わない」「そう思わない」が計32%と見方が拮抗した。
目標の設定を支持する立場の経済学者は、企業の計画や個人の期待に与える影響を重視する。大阪大の安田洋祐教授(ゲーム理論)は「労働者側、採用側のどちらにとっても予見可能性を高め、将来計画を立てやすくする効果が期待できる」と述べた。
一橋大学の砂川武貴准教授(金融政策)も「今後賃金が上昇していくと期待することで、将来だけではなく現在の賃金や物価への上昇圧力にもつながる」と目標設定を支持した。
市場の機能を重視する経済学者からは、目標設定に否定的な見方が上がった。トロント大の伊神満准教授(産業組織論)は「市場経済のもとでは、有害な人気取りにしか見えない」と答えた。慶応義塾大学の藤原一平教授(マクロ経済学)も「中長期的に何が起こるかを見通すことは難しいため、経営の責任を負う企業の判断に委ねるべきだ」と民間の役割を重んじる立場だった。
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