〈再特集スペシャル〉「ギフテッド=天才」ではない 「発達障害」と混同する特性と行動の誤解を専門家が解く
ギフテッドの光と影
過去に話題になった「ギフテッド」の一連の記事を再配信する(この記事は2023年6月19日に「AERA dot.」で掲載されたものの再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
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高いIQや突出した才能を持つ一方で、周囲とのなじめなさや複雑な悩みを抱えていることも多い「ギフテッド」。授業中に立ち歩いたり、集中しなかったりする挙動から、発達障害と混同されることも多いといわれている。ギフテッドと発達障害の違いはどこにあるのか、【前編】に続き発達心理学や教育心理学が専門である上越教育大学の角谷詩織教授にその判断のポイントを聞いた。<阿部朋美・伊藤和行著『ギフテッドの光と影 知能が高すぎて生きづらい人たち』(朝日新聞出版)より一部抜粋・再編集>
<【前編】4歳で進化論、8歳で相対性理論…なぜ「ギフテッド」は学校に馴染めない? 発達心理学者が解説>から続く
「ギフテッド=天才」ではない
ギフテッドの子どもが興味のあるものを目の前にした時の例えを角谷教授がしてくれた。「空腹で倒れそうな時に、目の前にクッキーが現れて、それをむさぼるようなもの」なのだという。私は、それほど強烈な好奇心が生まれたことはなかったが、自分ではコントロールが容易ではないほどの感情なんだと想像した。
同時に、ギフテッド=天才といった誤ったイメージを指摘した。
「小学校に入る前に外国語が話せるようになる、相対性理論を完全に理解する、など超人的な才能を見せる子どもがギフテッドだと誤解されているように感じます」
メディアで取り上げられるのも、若くして英語や数学の検定に合格した子どもや飛び級で大学に入学した子どもなどで、華やかで実年齢と大きく乖離(かいり)した結果を残した子どもがフォーカスされやすい。珍しいがゆえに、ニュースとして取り上げられてしまうのだ。私自身も、当初ギフテッドに抱いた印象はそうした「超人」だった。
このような情報を見聞きするうちに、「ギフテッド=人並み外れた超人的な才能を持った天才」といったイメージが先行しているのかもしれない。しかし、そうした超人的な才能があるのはギフテッドの中でもごく一部で、極めてまれな存在なのだという。
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「学校の先生が『教師人生でそんな才能の子どもを見たことがない』とつぶやいたと聞いたことがあります。この先生の感覚は決して間違っておらず、ギフテッドのイメージが超人的なものに限定されてしまったことに誤解の原因があると思います」と角谷教授。
つまり、超天才がギフテッドだと誤解をしてしまうと、学校の先生たちは自分たちの教え子の中にギフテッドがいるにもかかわらず、気づかない可能性があるということになる。
角谷教授によると、ギフテッドとされる子どもは様々な才能において3~10%程度いるとされている。35人がいる教室では、1~3人のギフテッドがいることになる。「教師人生で見たことがない」どころか、今の教え子の中にもギフテッドがいるかもしれないのだ。ギフテッドのうち、9割を占めるのがIQ120~130の人で、「人並み外れた超人的な才能を持った天才」とイメージされるIQ160を超えるような人は、ギフテッドの中でもごくごくわずかだという。
「学校の先生であれば、毎年ギフテッドに出会っている可能性が高い。想像よりも多くの子どもたちが『学校の勉強は知っていることばかりでつまらない』という悩みや自分の特性を理解されずに困っている可能性があります」
授業に愛想をつかす場合も
IQ120~130の人たちは目に見える異能ぶりを発揮するものなのだろうか。
「IQ120前後の子どもが何らかの特定の教科で目をみはるほどの才能を発揮しているということはほとんどないでしょう。なんとなく、頭は良さそうで面白いところに気づくとか、ちょっと変わっているとかそんな子どものほうが多いだろうと思います。学校の勉強に愛想をつかしてしまった場合、小学3~4年生ごろまでに学業不振の兆候を見せ始めることもあると言われています。知的な素質がありつつ、学校の成績は散々だというギフテッドもいるわけです」
ギフテッドの子どもは、授業の半分から4分の3を「ただ待って過ごしている」という研究もある。現在、日本の公立の学校では、子どもを選抜し、個々の才能を伸ばすことに特化した英才教育は行われていない。今の制度を大きく変えずに教育現場でできる工夫というのはあるのだろうか。
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「ギフテッドの中で最も多数派のIQ130前後の子どもたちへの教育をそんなにがちがちに構えないでほしいなと思います」
そう話す角谷教授が、ヒントになりそうな1本の動画を紹介してくれた。ギフテッドの子どもたちが授業を受ける14分の動画だった。
イギリスのある学校。5~6人の幼い子どもたちがグループになり、教員とアルファベットが書かれた絵本を手にたどたどしく読み上げる。もう少し大きな子どもたちのクラスでは、1枚の絵を見ながらどのようなシチュエーションなのか想像を繰り広げる。算数の授業では、数字が書かれたカードを手に九九を学ぶなか、2桁のかけ算の方法を発表したあどけない表情の男の子もいた。
「ギフテッドが特異な才能や深刻な困難を顕著に併せ持つと構えすぎて固まってしまう先生もいるかもしれませんが、かなり身近にいそうな子どもだと感じてもらえるのではないでしょうか。他の児童よりも少し進んでいる場面もありますが、今の教育体制でもできそうだなと感じる要素がたくさんあるはずです」
知的レベルや関心のあることが似た子どもたちを同じグループにして活動してみると、どのレベルの子のグループでも、学習効果を上げることが実証されているという。
例えば、授業中に関係のない本を読んでいる子どもがいた場合、どのように声をかけるのが正解だろうか。
「本をしまいましょう」
「今、何の時間ですか」
そんな声かけが想像つく。だが、こうした声かけは追い詰めることになるのだという。
そうではなく、今読んでいる本と授業の内容を結びつけて質問してみたり、授業の中身に少しレベルの高いものを入れてみたりするなどで反応は変わってくるそうだ。
「もちろん、授業中に関係のない本を読んでいてよいということではなく、その望ましくない行動をなくすには、どのように働きかけたらよいのか、どのような環境設定をしたらよいのか工夫する必要があるということです」と角谷教授は付け加えた。