イラン製兵器のロシア供給、大物石油実業家が関与-関係者
イランの石油業界の大物が西側の金融システムの中核に入り込み、ロシア向けの兵器輸送ビジネスにも関わっている。兵器はカスピ海経由でロシアに供給され、ウクライナでの戦闘を支援している。
この石油業界の大物はホセイン・シャムハニ氏。同氏はドバイを拠点とする海運会社クリオス・シッピングなど傘下に抱える多数の企業を使って、ミサイルやドローン部品、軍民両用品などをカスピ海経由で輸送し始め、昨年半ば以降の1年間に少なくとも2隻でこうした輸送を手がけた。事情を直接知る米国や英国、欧州の十数人余りの当局者が明らかにした。当局者は取り扱いに注意を要する情報だとして、匿名を要請した。
当局者によると、ロシアはこの代金を石油で支払っている。ロシアとイランにはいずれも米欧が制裁を科しているため、こうしたバーター貿易がますます主流になっているという。
この取引は、ロシアがウクライナでの戦闘でイラン製兵器の使用を増やした時期とも重なり、シャムハニ氏の資産を膨らませた広範囲に及ぶ世界的なビジネスネットワークの裏側をうかがわせる。同氏の父はイランで在任期間が最も長かった国防相で、現在でも最高指導者ハメネイ師の最高顧問を務めるアリ・シャムハニ氏だ。
取引を追跡調査する複数の情報筋によると、シャムハニ氏の傘下企業はイラン製兵器の対ロシア輸出全体の4分の1余りを扱っている。同氏傘下の企業には、西側石油メジャーとも取引のあるドバイのコモディティー商社のほか、ロンドンやジュネーブ、シンガポールに拠点を構えるヘッジファンドもある。
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イランとロシアはともに軍事面の協力強化を認めているが、詳細は明らかにしていない。この2国による兵器取引は違法ではないが、関与した個人や企業は西側の制裁対象となるリスクが生じる。
元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)で、現在はワシントンを拠点とする外交政策調査団体「米国の安全保障と自由財団」を運営するジョン・ボルトン氏は「シャムハニ氏のネットワークはウクライナで使用されるドローンの契約に関わっていると、自分は理解している」とインタビューで語った。
イランとロシアの政府代表およびクリオスはコメントの要請に応じなかった。シャムハニ氏の弁護士にも電子メールで質問状を送付したが、詳細に関するコメントはなかった。この弁護士はシャムハニ氏の事業に関するこれまでのブルームバーグの報道に対し、一貫して反論している。
米国務省の報道官は、ロシアの全面的なウクライナ侵攻開始以降のロシアとイランの軍事協力深化に米国は警告を続けてきたとし、「この協力は欧州の安全保障を脅かしており、不安定化をもたらすイランの影響力が中東を越え、世界各地に広がっていることを示している」と指摘した。
カスピ海
ブルームバーグがまとめた船舶追跡データによると、それまで地中海や黒海を運航していたクリオス保有の少なくとも2隻が昨年半ばに運航航路を突然カスピ海に変更し、それ以来イランとロシアを往復している。
2隻は今年に入り、イランの港とロシアのアストラハンの間を少なくとも5往復したことを、ブルームバーグのデータは示している。
国際海運の基準から言うと、この2隻はいずれも小型だが、カスピ海を渡る短距離の航海で兵器を輸送するには十分だ。2隻の積載容量はそれぞれ3000トンと4000トンで、世界各地で運航されている巨大コンテナ船の約100分の1程度となる。
シャムハニ氏傘下の船がどの程度の兵器を輸送したかは明らかになっていない。記録から追跡されることを防ぐため、積み荷目録に兵器の記載はないと、関係者は述べた。
原題:Iran Oil Tycoon ‘Hector’ Plays Key Role in Arms Sales to Russia(抜粋)