「売らない」 ウクライナが万博パビリオンに込めた強いメッセージ

大阪・関西万博の会場で「NOT FOR SALE」の看板を掲示するウクライナのパビリオン=大阪市此花区で2025年4月13日午前9時34分、矢追健介撮影

 165の国と地域、国際機関が参加する大阪・関西万博で、ひときわ目を引くパビリオンがある。「NOT FOR SALE」(非売品)の看板を掲げるウクライナのパビリオンだ。

 ロシアによる侵攻が長期化し、トランプ米大統領が支援の見返りにレアアース(希土類)を含む鉱物資源の権益譲渡を求めるなど、厳しい状況が続くウクライナ。展示物には「自由」「尊厳」といった価値観が投影され、「売らない」という強いメッセージを発している。

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 ウクライナのコーナーは他国との共同入居型パビリオンの一角にある。国旗の色の青と黄を基調とした店のようなしつらえで、3Dプリンターで作製したパソコンや地球儀、タイヤなど20種類近くの品物が並ぶ。

 来場者が品物に添えられた札のバーコードを読みとると、価格の代わりに現地の映像が映し出される。学校教育を継続するために地下で授業をしている様子などを通して、戦時下でもウクライナが守ろうとする自由や尊厳、回復力などの価値観を理解できるという仕組みだ。

展示物に添えられた札のバーコードを読みとるウクライナ文化センターのインナ・イリナ理事長=大阪市此花区で2025年4月13日午前9時41分、矢追健介撮影

 パビリオンのディレクターを務めるウクライナ文化センターのインナ・イリナ理事長は、両親らが首都キーウで暮らしている。ロシアの攻撃は苛烈さを増しているといい、「3年間、彼らは落ち着かない状態にある。毎日連絡をとっているが心配だ」と話す。「戦争は今も続いているということを知ってほしいし、何のために今も頑張っているのかを伝えたい」と語った。

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 15日にはウクライナへの支援を呼びかけようと、ウクライナのテティアナ・ベレジュナ副経済相らを交えたパネルディスカッションが英国パビリオンで開かれた。

 副経済相は戦時下でも万博に参加した理由を「私たちのメッセージを世界に発信するため」と説明。「私たちを哀れに思うことは望んでいない。私たちとつながり、パートナーと感じてほしい」と訴えた。

 副経済相はさまざまな価値観を象徴する展示についても説明した。

バーコードを読みとると、展示物に関連した映像が見られる=大阪市此花区の万博会場で2025年4月13日午前9時41分、矢追健介撮影

 例えばタイヤは「言論の自由」を表すという。バーコードを読みとると、市民が革命に参加し、タイヤでバリケードを築く様子が映し出される。副経済相は「これまでも政府や現状に同意できない時、人々は立ち上がってきた。団結すれば話を聞いてもらえると知っているからだ」と解説。「ほぼ全ての物に値段がつく現代世界でも、ウクライナ人の価値観を買うことはできない」と訴えた。

 登壇した松田邦紀・前駐ウクライナ大使は日本とウクライナを戦略的パートナーと位置づけた。その上で「2国間の利益のためだけではなくヨーロッパ、アジア、そして世界全体のために協力すべきだ」と語った。【矢追健介】

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