米中合意も、5月展望リポート以降大きな構図に変化なし=植田日銀総裁
[東京 3日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は3日、内外情勢調査会での講演後の質疑応答で、関税を巡って米中間に前向きな動きが見られているものの、5月初めの展望リポート以降「経済・物価を巡る大きな構図に変化はない」と述べた。その上で、今後の利上げのペースやタイミングについては、各国の通商政策の今後の展開やその影響を巡る不確実性が極めて高い状況下、経済・物価への影響を見ざるを得ないと話した。
講演では、米国の関税政策を巡る不確実性が高い中でも利上げを進めていく方針に変化がないことを改めて強調した。植田総裁は、基調的な物価上昇率が2%に向けて高まっていくという姿が実現していくとすれば「経済・物価情勢の改善に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と改めて述べた。
日本経済について「関税政策による下押し圧力を受けつつも持ちこたえ、賃金と物価が相互に参照しながら緩やかに上昇していくメカニズムも途切れることはない」と語った。企業収益は「歴史的な高水準を続けており、多少の下押し圧力を受けたとしても、資金面から企業行動が大きく制約される状況ではない」と述べたほか、これまでの景気回復で家計の所得環境も底堅さを増していると話した。
ただ、不確実性が極めて高い状況下、見通しの上振れ・下振れの可能性やリスクについて従来以上に念頭に置く必要があると指摘。中心的な見通しは関税を巡る各国の交渉がある程度進展することや、グローバルサプライチェーンが大きく毀損されるような破壊的な状況の回避を前提にしているが「こうした前提が崩れれば、先行きの見通しは上下双方向に大きく変化する可能性がある」と述べた。
植田総裁はIT関連を中心にアジアの生産ネットワークが複雑に絡み合っていることを挙げ、近年、グローバルサプライチェーンの複雑さが増してきたことが「関税政策の影響に関する不確実性を高めている」と指摘した。
<国債買い入れの減額、市場機能回復に「効果発揮」>
日銀は6月の金融政策決定会合で国債買い入れ減額計画の中間評価を行う。植田総裁は講演で、債券市場参加者会合を踏まえた上で中間評価のポイントを挙げた。
まず、これまでの国債買い入れの減額は「国債市場の機能度回復という所期の効果を発揮している」と述べた。その上で、2026年4月以降の減額計画を策定するにあたっては、予見可能性と柔軟性のバランスが重要だとした。予見可能性の観点からはあらかじめある程度の期間の計画を示すことが適切な一方で、国債市場の機能度の回復がなお道半ばにあることや、春先以降の価格変動の経験も踏まえると「引き続き柔軟性を確保する仕組みが必要との意見が多かったように思う」とした。
植田総裁は、26年4月以降も買い入れ額を減らしていくことが適切との声が多く聞かれた一方で「具体的な減額ペースについては様々な意見があった」と話した。質疑応答で、26年4月以降も四半期4000億円の減額を維持すべきか、ペースダウンすべきか聞かれたが、明言しなかった。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab