年末年始“一気見ドラマ”おすすめベスト10 「見逃してしまうのはもったいない」2024年放送のドラマ

2024年も残りわずかとなり、ほぼすべての連ドラが終了。ここ数年間でドラマ枠が増えて季節ごとに40作超が制作・放送されている。

たとえば「各クールで3作見る」という人も残りの37作を見ていないことになり、年間では計160作中12作のみ。単純計算で148作を見ていないことになり、「せっかくの良作が埋もれてしまいもったいない」というケースが多い。

ただ、見逃してしまったドラマも、FOD、U-NEXT、Hulu、TELASA、NHKオンデマンド、Netflixなどの動画配信サービスでの視聴が可能。ここでは2024年に放送されたドラマの中で「年末年始の“一気見”におすすめ」の10作をランキング形式であげていきたい。

10位:『ウイングマン』(テレビ東京)

  • 藤岡真威人

83~85年に漫画連載され、アニメもヒットした『ウイングマン』が40年の時を経てまさかのドラマ化。現在の40~60代にとってはその「実写版」というだけで魅力を感じる人が少なくないだろう。

原作ファンを喜ばせているのが、主人公・広野健太を演じる藤岡真威人とヒロイン・アオイを演じる加藤小夏が「イメージにピッタリ」であること。必殺技の再現度なども含め、原作者・桂正和が制作にかかわったこともあって実写化につきものの批判はほとんど見られない。

ドラマ化における最大のポイントは、特撮アクションの第一人者・坂本浩一監督の演出。迫力満点の戦闘シーンを前面に出す一方、原作漫画のお色気は抑えめだけに、特撮ヒーロー作品が好き親子なら一緒に楽しめる。 藤岡真威人の熱くフレッシュな演技はスター俳優の誕生を予感させられるだけに、往年のファンや特撮好きはもちろん、その他人々も見ておいて損はないだろう。

9位:『あの子の子ども』(カンテレ・フジ)

  • 桜田ひより

79年の『3年B組金八先生』(TBS)、06年の『14歳の母』(日本テレビ)、23年の『18/40~ふたりなら夢も恋も』(TBS)など、各時代で描かれてきた“学生の妊娠”がテーマの作品。しかし、今作は過去作のようなセンセーショナルなムードはなく、良い意味で地に足のついた物語だった。

なかでも驚かされたのは、妊娠の兆候から、検査、診察、交際相手の反応、親や教師などへの報告など、当事者が必ず通るであろう出来事を省略せずに描いたこと。特に避妊具、アフターピル、妊娠検査薬、産婦人科医の対応などが令和の現実として具体的に描かれ、リアリティを感じさせられた。

学生の妊娠をショッキングに描かず、美化もせず、心の動きを丁寧に描いたこと。さらに親や友人との関係性も含め、さまざまな角度から描いたことが見応えにつながった。学生の夏休み期間に放送する意義を感じさせられたが、冬休みの一気見にもおすすめだ。

8位:『笑うマトリョーシカ』(TBS)

  • 水川あさみ 撮影:加藤千雅

「日本の連ドラではヒットしない」と言われる政治モノにあえて挑んだところに制作サイドの意気込みがうかがえた。

実際は政治より、一人の人間を追うヒューマン作であり、サスペンスの要素も濃く、回を追うごとに政治家・清家一郎(櫻井翔)の正体をめぐる謎が加速。「誰が人気政治家を操っているのか」がめまぐるしく変わり、正体を見破ってもまた次の顔が表れるという原作の面白さがしっかり映像化されていた。

原作からの脚色で水川あさみ演じる記者を主人公にしたことで、連ドラとしての見応えが高まり、複数の魅力を併せ持つハイブリッド作に昇華。櫻井翔は「クリーンなイメージで国民の人気者だが、何を考えているのかわからない」という人物像にフィットし、13年の『家族ゲーム』(フジ)を超えるハマり役となった。

7位:『からかい上手の高木さん』(TBS)

  • 月島琉衣

漫画原作をベースにしたアニメ化に次ぐドラマ化だったが、実写ならではのほどよいリアリティをプラス。より中学生の淡い恋心がフィーチャーされ、むしろ大人たちが見守りたくなるようなノスタルジーすら感じさせられた。

高木さん(月島琉衣)による西片(黒川想矢)への“からかい”は、消しゴムのおまじない、飲み物の間接キス、自転車の2人乗りなど、あくまで中学生らしい距離感と現実感を徹底。そこにかすかな好意をほのめかすことで、誰もが応援したくなるような世界観につながっていた。

将来有望な月島と黒川の限定的な初々しさを引き出した今泉力哉監督の演出も出色。ロケ地となった小豆島の風景は美しく、深夜帯の放送だったが、朝ドラで見たいような清々しさを感じさせた。

ドラマ終了直後に10年後の高木さん(永野芽郁)と西片(高橋文哉)を描いた映画化への流れもスムーズで、「優れたコンテンツはこのように収益化するべき」というお手本になった感がある。

6位:『おいハンサム!!2』(東海テレビ・フジ)

  • 吉田鋼太郎

「ドラマから映画につなげて収益化に成功した」といえば、『おいハンサム!!2』の仕上がりもさすがだった。

そのコンセプトは、「『食べて、恋して、人は生きている…』 クスッと笑えて、お腹もすく、『恋』と『家族』と『ゴハン』をめぐる見たことのない最新コメディ」であり、22年1月期のドラマ第1弾から不変。つまり、「グルメドラマであり、ラブストーリーであり、ホームドラマでもある」という3つの魅力を持つ作品であり、それらが絶妙なバランスでブレンドされている。

最大の立役者は脚本・演出を手がける山口雅俊。短くも味わいのあるエピソードを縦横無尽につなぎ合わせる職人技は健在で、カット割りやカメラワークのこだわりは他作の追随を許さない。なかでも食事シーンと吉田鋼太郎のハンサムぶりをフィーチャーした演出に引きつけられる。

『2』だけでも十分楽しめるが、『1』と映画版を合わせた“連続一気見”も醍醐味の1つ。


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  • 原田泰造

東海テレビ制作では、この『おっパン』も双璧。とにかく笑えて心が温かくなるような後味のいい作品だった。

「おっさんと若者の世代間ギャップ」「昭和の時代錯誤と偏見」というモチーフは同時期に放送された『不適切にもほどがある!』(TBS)と似ていたが、あちらがタイムリープという離れ技に頼った一方、こちらは真っ向勝負。

家庭でも職場でも嫌われている古い価値観のおっさん・沖田誠(原田泰造)が息子の友人でゲイの五十嵐大地(中島颯太)と出会い、失敗を重ねながらも地道にアップデートを重ねていく姿が共感を誘った。

仕事や家庭での振る舞い方に加えて、ジェンダーレス、ひきこもり、推し活などの社会的なテーマを次々に扱ったこともポイントの1つ。あらゆる人の「好きなもの」「自分らしい選択」を肯定する令和のムードにフィットした作品であり、原田と中島が会話を交わすシーンは癒しと気づきであふれていた。

4位:『燕は戻ってこない』(NHK総合)

  • 石橋静河

昨年2度にわたって放送された男女逆転版『大奥』以降、「NHK総合のドラマが面白い」という声が増えつつある。2024年も好評の作品が多かった中、衝撃作であり、クオリティも高かったにもかかわらず、さほど話題にならなかったのが『燕は戻ってこない』。桐野夏生の小説をドラマ化した作品だが、テーマである「代理母」をめぐる描写がとにかく強烈だった。

派遣社員ゆえに苦しい生活が続くリキ(石橋静河)は同僚から卵子提供での金稼ぎを誘われ、生殖医療エージェントに向かうが、持ち掛けられたのは代理出産。そこから代理母を探す元バレエダンサー・草桶基(稲垣吾郎)と妻・悠子(内田有紀)との出会い、人工授精、妊娠・出産、そして衝撃の結末まで、常に倫理観を問われ、感情を揺さぶられるような展開が続いた。

リキ、基、悠子の3人に加えて、基の母・千味子(黒木瞳)、エージェントの青沼(朴ロ美)、女性風俗で働くセラピスト・ダイキ(森崎ウィン)、悠子の友人で春画作家の寺尾りりこ(中村優子)など、すべての登場人物が穏やかな物腰ながら理解しがたい価値観を持っていることも、当作の不思議な誘因力につながっている。

3位:『春になったら』(カンテレ・フジ)

  • 奈緒 撮影:島本絵梨佳

ホームドラマの王道である「笑い泣き」がしたい人、または、家族で一気見できるドラマを探している人には当作をおすすめしたい。

3カ月後に結婚する娘・椎名瞳(奈緒)と3カ月後にこの世を去る父・椎名雅彦(木梨憲武)。母を亡くし、時に反発しながらも楽しく支え合ってきた父娘の「結婚までにやりたいことリスト」と「死ぬまでにやりたいことリスト」をめぐるエピソードの数々にクスッと笑い、涙を誘われる。

奈緒と木梨のかけ合いは息ピッタリで、楽しさ、温かさ、哀しさを感じさせられるシーンが満載。とりわけ木梨の演技は技術を超えた存在感があり、福田靖が手がける明るく切ない世界観にフィットし、専業俳優ではなく芸人を起用することのメリットを感じさせられた。

1月期のドラマは3月に終了するだけに、「3カ月後の春になったら娘と父は……」という時間の流れに合わせた物語は巧みだったが、この作品を冬に一気見してもクライマックスで泣けるのではないか。

  • 柳楽優弥

多くの人が「今秋のベスト」にあげたであろう当作は、未視聴の人に自信を持っておすすめしておきたい3つの理由がある。

1つ目は、主人公の家族が織りなす新たなホームドラマの形。市役所で働くマジメな青年・小森洸人(柳楽優弥)、自閉スペクトラム症でルーティンへのこだわりが強い弟・小森美路人(坂東龍汰)、2人の元に突然やってきた謎の少年・ライオン(佐藤大空)という男3人の関係性が絶妙で、距離感が縮まり、気づきを得て成長していく様子が視聴者を癒した。

2つ目は、行方不明事件、虐待疑惑、3人を監視する男などの不穏なサスペンス&ミステリー。湊かなえの「イヤミス」を令和にアップデートしたようなムードがあり、長編サスペンス&ミステリーの得意な「金曜ドラマ」らしさを加えていた。

3つ目は、坂東龍汰の演技。「1カ月間、他の仕事を入れずに役作りした」という努力の甲斐あって、自閉スペクトラム症の演技は当事者家族が絶賛するほどの仕上がりに。柳楽優弥という絶対的な存在と対峙しても見劣りしないどころか作品をけん引し、尾野真千子、岡山天音、でんでん、桜井ユキら手練れの役者をしのぐ大活躍だった。

1位:『クラスメイトの女子、全員好きでした』(読売テレビ・日テレ)

  • 木村昴 撮影:杉山慶五

24年最大の掘り出し物であり、個人的には迷いなくベストにあげられる名作。

“甘酸っぱくもホロ苦い学園ドラマ”ד個人の肯定と再生を描くヒューマンドラマ”をかけ合わせた作品ジャンル、知名度や美しさではなく役に合う俳優をオーディションで選んだキャスティング、エッセイを連続ドラマに脚色した適切なプロデュース。いずれも最高レベルの仕事であり、これらの強みを併せ持つ作品は意外に少ない。

もう1つ特筆すべきは、主人公・枝松スネオ(木村昴、中学時代・及川桃利)の愛すべきキャラクター。外見も中身もイケてないながらも優れた肯定感の持ち主で、クラスメイトたちに少しの笑いと感動をもたらしていく……というキャラクター設定は令和の視聴者感情に合っていた。

さらに脚色で加えた盗作にかかわるエピソードの結末も感動的であり、さまざまな伏線を見事に回収。初見の人は配信で一気見すれば特大のカタルシスを得られるのではないか。リアルな中学校の教室を再現した演出なども含め、さまざまな点で読売テレビのこだわりと気合いが感じられた。

2024年はその他でも、脚本家・生方美久の繊細なセリフが魅力の『海のはじまり』(フジ)、予想の斜め上をゆく展開が続いた『アンチヒーロー』(TBS)、杉咲花と若葉竜也が出色の演技を見せた『アンメット』(カンテレ・フジ)、ハードな設定と映像美のギャップが光った『君が心をくれたから』(フジ)、目を背けたくなるバイオレンスで押し切った『降り積もれ孤独な死よ』(読売テレビ・日テレ)。

中盤の“一変”で続編の期待高まる『全領域異常解決室』(フジ)、過去最高の定時制ドラマ『宙わたる教室』(NHK総合)、あえて小学校を舞台にした意欲作『放課後カルテ』(日テレ)、先の読めないスリリングな展開で引きつけた『3000万』(NHK総合)など、丁寧な脚本・演出の力作が多かった。

ここで挙げたものは一部にすぎないだけに、年末年始の休みを利用して動画配信サービスで視聴してみてはいかがだろうか。ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、今年も1年間おつかれさまでした。2025年も多くの人々を楽しませる作品をよろしくお願いいたします。

木村隆志

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