大麻が女性の生殖能力に悪影響を与えるおそれ、潜むリスク浮き彫りに、最新研究(ナショナル ジオグラフィック日本版)

 デュバル氏の研究チームは、体外受精(IVF)の患者を対象に、患者自身を含む卵子の提供者を調査した。採卵の過程で得られた副産物を使用して、卵母細胞の成熟過程が、テトラヒドロカンナビノール(THC)の存在によってどう変化するかを検証した。THCは、大麻に含まれている代表的な精神活性作用を持つ物質(カンナビノイド)で、いわゆる「ハイな気分」をもたらす成分だ。  研究チームはまず、卵母細胞を包む卵胞液を調べた。卵胞液に含まれるTHCとそれが分解されて生じる物質(代謝産物)の濃度が高いほど、卵母細胞の成熟は早く進んだ。  卵母細胞が成熟して卵子になるプロセスは繊細で、成熟速度に乱れがあると、正常な発育が妨げられるおそれがある。卵胞液にTHCが含まれていた卵子の場合は、正常な数の染色体を持つ胚(受精卵)が少なかった。こうした胚がIVFで移植されることはほぼないが、仮に移植された場合、流産や死産につながりやすい。  デュバル氏の研究チームは、IVFの過程で通常は廃棄される未成熟の卵母細胞も直接調べた。被験者に見られたTHCの平均的な濃度と、高濃度の両方に卵母細胞をさらしたところ、やはり、染色体の分裂が正常に行われにくくなった。  とはいえ、THCと卵母細胞の成熟速度とを直接的に結びつけることはできない。被験者の多くは卵子提供者で比較的に若い人たちだったが、IVFを希望する患者にはもっと年齢が上の人もおり、年齢が成熟速度に影響を及ぼす可能性がある。この点は、卵胞液の実験では考慮できたが、卵母細胞の実験室試験では考慮できていない。  研究の結果は「大麻を使っている間は妊娠できない」ことを意味するのではない、とデュバル氏は説明する。 「(ドラッグの使用が広まった)1970年代から何か学んだことがあるとすれば、それは『ハイな状態でも妊娠は可能だ』ということです。問題はそこではなく、大麻が人間の卵母細胞そのものにどのような影響を及ぼすかという点です。卵母細胞は、人体の中でも特に稀少で特異な細胞であり、私の考えでは、研究が最も難しい細胞のひとつです」

ナショナル ジオグラフィック日本版

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