【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も

 日本の安全保障の観点から気になるのは、アメリカが日中関係や台湾問題にどんなスタンスで臨むのか──ということだろう。  高市発言後の動きに対するワシントンの空気を象徴的に示したのが、ジョージ・グラス駐日米大使による「高市支持」の姿勢である。  グラス大使は、薛剣・駐大阪中国総領事が高市首相の発言を強く批判した件について、SNS上で「高市首相と日本国民を脅している」「本性が露呈した」と反論し、中国の「良き隣人」という対外発信と実際の言動の矛盾を指摘した。  同大使は以前から、日本の防衛力強化や日米同盟の深化を繰り返し強調しており、中国の脅威に対抗するうえで日本が果たす役割を重視する立場を明確にしている。  主要シンクタンクの研究者はこう語る。 「高市発言は日米同盟の法的枠組みの範囲内で、驚くべきものではない。問題は中国の過剰反応だ。いま米国にとって、対中戦略の要は日本だ。日本への威圧は、米国全体の戦略に直結する」  また国防関係筋は、中国側の初動を次のように分析する。 「駐大阪総領事の暴発的な反応が最初に出たことで、中国政府は後に引けなくなった。結果として、自分たちの強硬性を世界に対して可視化してしまった」  高市発言は、"台湾有事は日本の存立危機事態に直結しうる"という当たり前の点を明確にした。そして中国の反発によって日本国内での議論も整理される動きになり、アメリカにも台湾情勢をあらためて意識させることにつながったといえよう。

 アメリカでは、12月5日に公表された「2025年版米国家安全保障戦略(NSS)」で、台湾をインド太平洋の抑止・防衛の最優先項目と位置づけられた。  この文脈は、「台湾有事=存立危機事態」論と理論的に整合的である。  新版NSSを統括したのは、トランプ政権で対中強硬派として知られるエルブリッジ・コルビー国防次官(政策担当)。  コルビー国防次官は以前から以下のような点を主張してきた。 ・台湾は米国の最優先の抑止地域・台湾は米国の地域戦略の核心・台湾防衛のために米国と同盟国の軍事力強化が不可欠  高市発言を「渡りに舟」と見るのは極めて自然だ。  米議会はどう見ているのか。上院軍事委員会スタッフの一人は次のように語る。 「日本の首相発言に中国が口を挟むのは内政干渉だ。中国の圧力に屈してはならない。」  共和党・民主党とも見解の軸は一致している。  筆者の整理としては、以下の4点に収斂していく。 1)高市発言は日米同盟の法的枠組みの範囲内2)中国の過剰反応が、台湾危機のリアリティをむしろ高めた3)「台湾有事=日本有事」が国内議論で定着する契機に4)日米台の連携強化を正当化する材料となる  筆者の分析にほぼ同意するシンクタンク研究者(元外交官)はこう言う。 「中国は怒れば怒るほど、日米の対中抑止網を強化してしまう。ワシントンが注目しているのは高市発言そのものではなく、中国側の反応だ。曖昧戦略の時代から、より明確な『台湾有事=日本有事』の方向へ移りつつある」  12月6日には、沖縄本島南東の公海上空で、中国海軍空母「遼寧」から発艦した戦闘機が自衛隊機にレーダー照射を繰り返すなど、準軍事的挑発行動が発生した。  この種の事態が続けば、米国も座視できない。 ◆高濱賛(在米ジャーナリスト)

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