「ふくの死、田沼意次の失脚」洪水と飢饉が奪った命と権力。蔦重たちを襲う絶望の連鎖【NHK大河『べらぼう』第31回】|OTONA SALONE
*TOP画像/ふく(小野花梨) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」31話(8月17日放送)より(C)NHK
吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第31話が8月17日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
この時代の裏話▶▶江戸時代において毒殺によく使われていた毒とは?家治の死は意次を陥れるために利用されていた?政策の効果をもっとも正しく見抜くのは名もなき民
ふく(小野花梨) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」31話(8月17日放送)より(C)NHK
浅野山の噴火に続き、利根川の決壊により江戸は大洪水に見舞われ、人びとの食糧不足や物価高はより深刻化しました。
そうした中で、意次(田沼意次)が貸金会所令を打ち出す話が知れ渡ることに。家主から集めたお金を資金源に経済を立て直す制度であったものの、多くの民から誤解を生み、反発の声が上がることになりました。
「ああ。お救い米もろくに出しやがらねえくせによ 取れるもんは 取ってけって!」
「血も涙もないのかい!?お上ってなぁ!」
これは長七とナベの台詞ですが、これらの台詞に馴染深さを感じる視聴者も多いように思います。現代においても政府は国を立て直すため、ひいては国民の暮らしをよくするために増税を繰り返していますが、多くの人たちが余分に税を払うほどの余裕がない状況です。例えば、2026年から子ども・子育て支援金制度が開始されますが、この制度も「独身税」と揶揄されているように誤解もあれば、反対の声もあります。今を必死に生きていて、余裕がない人はこの制度について長七やナベと同じ心境だと思います。
意次の案についてさまざまな誤解がある中でも、貸金会所令を正しく理解している蔦重(横浜流星)。徴収の対象となるのは家主であり、新之助(井之脇海)やふく(小野花梨)は徴収の対象外であるとかれらに説明していました。蔦重の説明を聞いたあと、ふくは次のように答えていました。
「だって 家主は金を出せと言われたら店賃を上げるさ。米屋は 米の値を上げるし油屋は 油の値を上げる。庄屋は 水呑百姓からもっと米を取る。吉原は女郎からの取り分を増やすだろうね。つまるところ ツケを回されるのは 私らみたいな地べたを這いつくばってるやつ」
ふくは各制度の理解はいくらか不十分であったとしても、自らの労働で生計を立てる中でこの社会の仕組みを深く理解するにいたったのです。ふくだけでなく、現代に生きる私たちも日々生活していかなければならないし、現に生活しているからこそ、世の仕組みを感覚的によく分かっているのです。
ふくは若くしてこの世の汚さも不条理も実感し、数々の人たちにこれまで搾取されてきました。しかし、彼女の内にある清らかな美しさが失われることはありません。蔦重からの差し入れで他の人よりも恵まれているからと、お乳が出ない近隣の母たちに代わって、赤ん坊に自分のお乳を差し出しています。ふくの心の中にも意次に対する憎しみなど黒々としたものはあったかもしれませんが、新之助を愛し、同じ苦労を味わう同胞にはあたたかな思いを抱き続けていたのです。
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