5分で3人射殺、際立つ残虐さ 東京・八王子スーパー強殺30年 わずかな証拠手繰る捜査

事件発生当時のスーパー「ナンペイ大和田店」=平成7年7月30日、東京都八王子市

平成7年、東京都八王子市のスーパーマーケット「ナンペイ大和田店」で発生した強盗殺人事件は、未解決のまま30日で発生から30年を迎える。アルバイトの高校生を含む無抵抗の女性3人を次々と射殺した事件は残虐さが際立つが、犯人に直結する証拠はいまだに見つかっていない。

ライトに照らされた人影

「車から降りたときに、店の入り口の方から怒鳴り合うような声が聞こえた」。現場近くに住む70代男性は、30年前の「あの夜」の出来事をこう、記憶している。

男性が自宅に車を止める際、車のライトに照らされて、半袖の服で身をひそめるようにする男の姿が見えた。「今のように防犯カメラがあれば、すぐ解決したのでは」。男性はそう口にする。

7月最後の日曜日。暑い日だった。近くの公園では盆踊りが行われ、事件が発生した午後9時15分ごろには後片付けが行われていた。店は、閉店直後だった。

短時間の凶行、物証少なく

現場の2階事務所には当時、勤務を終えたパート従業員の稲垣則子さん=当時(47)=と矢吹恵さん=同(17)に加え、店を訪れていた前田寛美さん=同(16)=の3人がいた。

犯人は外階段に近い2階事務所のドアから侵入。前田さんと矢吹さんの口を粘着テープでふさぎ、一緒に手を縛った後2人の後頭部をそれぞれ1発撃ったとされる。

稲垣さんは頭を2発撃たれ、冷蔵庫脇の壁に倒れかかるようにして死亡していた。室内の金庫にも1発の弾痕があったが開錠はされておらず、中の売上金約500万円はそのままだった。稲垣さんが事件の直前、知人男性に電話していたことなどから、犯行時間は5分程度と推定されている。

短時間かつ、被害者との接触の少ない拳銃による犯行。捜査本部は現場に残されたわずかな痕跡から、犯人につながる情報を追い求めてきた。

犯人が履いていたとされるものと同型の靴=24日、警視庁本部(梶原龍撮影)

指紋、拳銃、足跡…続く捜査

有力な目撃情報とされるのが、閉店間際に来店し、白色のセダンに乗車したとされるカップルの姿だ。この「最後の客」は特定されていない。

事務所内から採取した100点以上の指紋は照合が進み、現在、未特定の7点について捜査が続く。事件から約10年後には、犯行に使われた粘着テープから指紋の採取に成功。60代で死亡した男性と一部が一致したが、指紋が同一だとみなされる「特徴点」の数には満たず、関与は裏付けられていない。

拳銃はフィリピン製の38口径「スカイヤーズビンガム」と推定され、海外にも捜査員を派遣して流通ルートをたどったが、所有者の特定には至らなかった。

捜査本部は犯人のものとみられる足跡から、該当するスニーカー2種類を特定し、情報提供を呼びかける。怨恨(えんこん)か、金銭目的か。犯行動機もいまだ判然としない。

警視庁はこれまでに延べ22万人以上の捜査員を投入。平成22年には、殺人事件などの公訴時効が撤廃された。岡部誠幸捜査1課長は「必ず犯人を捕まえるという一念で捜査に全力を尽くす」として、当時、現場近くで撮影された写真やホームビデオの提供などを求めている。情報提供は八王子署捜査本部(042・621・0110)まで。(前島沙紀、梶原龍、堀川玲)

凶行相次いだ平成7年 初動捜査態勢の不備指摘も

事件が発生した平成7年は、社会を震撼(しんかん)させる災害や凶行が相次いだ。1月の阪神大震災から2カ月後の3月にはオウム真理教による地下鉄サリン事件が発生。10日後には警察庁長官が銃撃され、混乱が続く中、警視庁は全庁をあげて教団関係施設の捜索などに当たっていた。

5月には元教祖の麻原彰晃元死刑囚(本名・松本智津夫)=執行当時(63)=が逮捕されたが、八王子の事件の発生当時も多くの捜査員がオウム捜査に従事。一方、この年、警視庁管内で刑事部長をトップに設置された殺人事件の捜査本部は23件あった。

事件捜査では、証拠や目撃証言を得やすい発生直後の「初動」が重要とされる。当時を知る警察関係者からは捜査員の不足など初動態勢の不備を指摘する声も聞かれる。

「犯人の顔、見るまで死にきれない」元捜査員

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