日本は「核を持つべき」か?「核武装は安上がり」か?「ウクライナは核を放棄したからロシアに侵略された」のか? 防衛省 防衛研究所 防衛政策研究室・前田祐司研究員(33)が“現実主義”の視点で核抑止を読み解く(長崎文化放送)
「日本も核を持つべきだ」――。 去年12月、防衛力強化を掲げる高市政権の官邸筋が非公式取材で「核を持つべきだと思っている」と発言。これをきっかけに、SNSでは核保有をめぐる議論が一気に拡散しました。
・核は持つべきだ ・核武装の方が安上がりだ ・中国、北朝鮮、ロシアは核を持っている ・ウクライナは核を放棄した後どうなった? ・アメリカ依存は危険だ ・使わせないために持つ―― 非核三原則「持たず、作らず、持ち込ませず」の見直しも取り沙汰される中、日本の防衛はどこへ向かうのか。私たちは、防衛省内のシンクタンク、「防衛研究所」を訪ね、前田祐司研究員に話を聞きました。 「議論が漠然としている」 前田研究員はまず、最近の核武装論についてこう指摘します。 「共通しているのは“漠然としている”という点です。具体的な政府内の検討や試算に基づいた発言ではない」 核を開発し、配備する場合、どのような能力が必要か。 そのコストはいくらか。 国際社会の反応はどうなるのか。 具体的に詰めれば詰めるほど、リスクと負担が浮かび上がるといいます。 日本が核を持つ2つの道 仮に「持つ」とした場合、選択肢は大きく2つ。 ① 自国生産・自国配備 ② NATO型のような「核共有」 自国核武装は可能か 形式的には不可能ではない、と前田研究員。 日本は現在、核不拡散条約(NPT)に加盟していますが、条約は事前通告による脱退を認めています。前例は北朝鮮です。 ただし問題は「政治的ハードル」。 国際的な信頼、経済制裁、外交的孤立――。 核共有ですら高い壁がある中、独自核武装は「相当ハードルが高い」と語ります。 NATO型「核共有」とは何か 現在、北大西洋条約機構(NATO)では、アメリカの核爆弾がドイツなど複数国に前方配備されています。 平時は米軍が管理。 有事に、アメリカ大統領の承認を経て同盟国が両用航空機で使用する仕組みです。 つまり「常に共同運用」ではありません。 日本がこれを採用する場合、非核三原則の「持ち込ませず」の見直しが必要になります。 抑止力は高まるのか 前田研究員は、核共有の意義を2つに分けます。 敵への抑止同盟国への“安心供与”特に後者の意味合いが強いといいます。 日本国内に米国の核があれば、攻撃はアメリカの核戦力を巻き込む可能性がある。 それが攻撃のハードルを上げる心理的効果を持つ――。 ただし、基地は先制攻撃の標的にもなり得る。 実効性とリスクは表裏一体です。 中国の核増強という現実 中国は核弾頭を増強し、2030年までに1000発規模との米報告もあります。 さらに核・通常両用ミサイル「DF-26」など、戦域レベルで使用可能な戦力も拡充。 現状変更を進めているのは中国側だ、と前田研究員は指摘します。 その中で重要なのは、アメリカの「拡大核抑止」の信頼性をどう高めるか。 台湾有事を念頭に、これが第一歩だといいます。 反発は避けられない 日本が核共有に踏み切れば、中国・ロシア・北朝鮮の反発は確実。 2017年、韓国にTHAADが配備された際、中国は強い外交・経済圧力をかけました。 核共有なら、それ以上の反発も想定されます。 「ウクライナは核を放棄したから侵攻された」は正しいか 1994年のブダペスト覚書で核を放棄したウクライナ。 「だから侵攻された」という主張について、前田研究員は「イエスとノーの両面がある」と述べます。 核があれば侵攻のハードルは上がった可能性はある。 しかし、旧ソ連の核戦力を信頼性ある形で維持できたかは疑問。 そして何より、 「ウクライナが核を持たなかったから侵攻された。だから日本も持たないと侵略される、とは言えない」 と強調します。 「核武装は安上がり」は本当か 「安上がり」との声もありますが、前田研究員は否定的です。 例として挙げたのがアメリカの新型戦略原潜、コロンビア級原子力潜水艦。 1隻の建造費だけで約100億ドル規模。 さらに搭載するSLBMや弾頭開発、常時パトロール体制を含めれば巨額になります。 核は既存防衛力の代替にはならず、上積み。 「安上がりとは言いにくい」と結論づけます。 核抑止力は存在するのか 第二次大戦後、大国間戦争が起きていないのは事実。 核の破壊力は「水晶玉効果」と呼ばれるほど、結末が可視化されやすい。 「北京が蒸発するリスクを取って台湾を取るか」 この究極のリスクが、大規模戦争を抑止している面は否定できない。 一方で、尖閣周辺のグレーゾーン事態などには効果は限定的。 「万能薬ではない」とも述べます。 核のタブーと被爆地の役割 核兵器の惨禍を伝え続ける広島・長崎。 その活動は、核使用の結末を可視化し、逆説的に抑止に貢献している面もあると評価します。 核兵器は今や広島・長崎とは比較にならない規模。 だからこそ「核の影」は濃くなっている。 結論:「持つべき」とは言いにくい 核は国家存立に関わる事態の抑止には効果がある。 しかし局地紛争では「使えない兵器」になる可能性が高い。 「核をあいにく持つべきとは言いにくい」 世界で濃くなる「核の影」 ウクライナ戦争でのロシアの核威嚇。 台湾有事をめぐる米中の核エスカレーション懸念。 核のレベルを考慮せざるを得ない時代が戻ってきています。 日本はどうするのか。 感情や漠然とした不安ではなく、具体的な議論が求められています。
NCC長崎文化放送