いざ投票、素朴なギモン 誰でも別人に成りすませる? ネットの誤情報…選管に聞いた
20日の参院選投開票日を前に、インターネット上では投票所を話題に「投票用紙に鉛筆で書いたら誰かに消される」「ボールペンでも消される」「誰でも『なりすまし』の投票ができる」といった誤情報や真偽不明の情報が飛び交っている。投票事務や不正を防ぐ取り組みを選挙管理委員会に聞いた。
■適切な筆記具は? 投票所にある物で十分
投票用紙に書く筆記具を巡っては7月13日、X(旧ツイッター)に「マジックを持ち込んだら、職員から鉛筆を勧められた」という趣旨の投稿があった。15日時点で9700回以上引用投稿(リポスト)されるなどして拡散している。
これに対してNHKなどが「投票用紙は合成紙を利用しており、ボールペンなどではにじむ場合がある」などと指摘。これを受ける形でさらに「ボールペンはアルコールで消せる。鉛筆で跡が残るように強く書く方がいい」「油性ペンを持ち込むべきだ」などと多様な投稿が乱れ飛んでいる。
各選管によると、まず投票用紙はなめらかに書けて、破れにくく、折っても投票箱の中で開いて開票作業がしやすいように、紙とプラスチックフィルムの特長を併せ持った合成紙が使われている。
では、どんな筆記用具が好ましいのか。姫路市選管では、各投票所に鉛筆を用意している。
「ペンで書くと、インクが乾く前に字がこすれたり、他の用紙に写ったりして疑問票などになってしまう可能性もある」と担当者。「逆に鉛筆の字を消しゴムで消そうとしても合成紙は黒くなり、きれいに消しづらい」。このため、投票所では「間違えた場合は二重線で消して隣に書いて」と案内している。
一方、神戸市選管では、油性ボールペンを使っている。新型コロナ禍にあった2021年7月の兵庫県知事選、同10月の衆院選・市長選、22年7月の参院選では感染予防のために使い捨ての鉛筆に変更していたが、23年4月の統一選からボールペンに戻した。
いずれも投票所への筆記具の持ち込みは可能だが、「水性ペンはインクがはじかれて書けない」と注意を呼びかける。
そして、こう強調する。「投票所に置いている筆記具は、安心して使えます」
また、交流サイト(SNS)上では「投票用紙に書いたものは書き換えられる」という投稿も散見されるが、どの選管も開票所では、手をポケットに入れるなど有権者に不審に思われる行為を慎むように指導している。開票所は衆人環視で、立会人もいるため「誰かが書いた内容を別人が消して書き直すことは不可能」としている。
■誰でも別人になりすませる? 入場券や宣誓書で照合、罰則も
「名前と生年月日と住所が言えれば誰でも別人になりすませる」。6月の東京都議選以降、そんな趣旨の投稿もSNS上で出回っている。
確かに公職選挙法では、投票の本人確認に身分証の提示は義務づけられていない。一方で、なりすまし投票(詐偽投票)は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という罰則が設けられている。
県選管によると、投票日には市町選管から自宅に郵送される「投票のご案内(投票所入場券)」を投票所の受付で提示してもらい、名前や住所のほか、印字されていない生年月日を尋ね、選挙人名簿と照合する。
期日前投票は投票所入場券がなくても可能だが、名前と住所、生年月日を「宣誓書」に記してもらって照合する。いずれも告げられた生年月日と見た目が明らかに違うなど、不審な場合は声をかける。
昨秋の兵庫県知事選では、期日前投票で兄になりすまして投票した神戸市の男が公選法違反容疑で書類送検された。神戸市選管では事件を受け、声かけを徹底。投票所入場券に赤字で「詐偽投票は処罰対象です」と記すなど啓発を強めている。
身分証の提示を義務化すべきとの意見もあるが、「身分証明書を持っていない人や忘れた人は投票できず、投票の機会を奪う可能性がある」と同選管。姫路市選管も「マイナンバーカードも有効期限の10年前の写真で判別できるかは疑問。悪意があれば身分証を偽造することもでき、疑い出すとキリがない。法律が変われば話は別だが、現段階では方法を変えるという議論にはなっていない」とする。