熱波で弱ったサンゴを治療していたのはカニだった!驚くべき共生関係が明らかに

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 オーストラリア、グレートバリアリーフのサンゴにとって、カニはお医者さんのような存在であるようだ。

 カニの治療は文字通りサンゴの命を救うのだ。今、気候変動による海水温の上昇で、世界中のサンゴ礁が死滅の危機にさらされている。

 ところが新たな研究によると、カニがいるサンゴは熱波の襲来を生き延びる確率が大幅に向上するという。

 種の垣根を超えた共生関係は自然界のさまざまなところで観測されるが、今回明らかになったサンゴとカニの関係も、まさに意外な共生の事例である。

 サンゴはもともと、「褐虫藻(かっちゅうそう)」という単細胞藻類と共生関係を持っている。

 褐虫藻に住処を提供し、二酸化炭素や老廃物(窒素・リンなどの栄養塩)を与える代わりに、褐虫藻からは、光合成による酸素やブドウ糖、アミノ酸、脂質などの栄養やエネルギーを受け取る。持ちつ持たれつのパートナーなのだ。

 ところが、海水温度が上がると、褐虫藻が逃げてしまう。

 するとサンゴはエネルギーも栄養ももらえなくなるので、白い枯れ枝のようになって死んでしまう。これが世界中のサンゴに広まっている「白化現象」だ。

 これは海の生態系にとっても大問題だ。サンゴは共生関係に頼って生きているが、じつはサンゴに頼って生きている生物もたくさんいるのだ。

 たとえば世界最大のサンゴ礁地帯、オーストラリアの「グレートバリアリーフ」は、地球上でとびきり豊かな生物多様性が営まれているところだ。

 さまざまな生き物たちの生息地を提供するサンゴの問題は、そこで織りなされる生態系にとっても死活問題となる。

 サンゴの白化現象が懸念されるのはそれゆえだ。

この画像を大きなサイズで見るImage by Inder Mehandi from Pixabay

 今回、米国デューク大学をはじめとする研究チームは、そんなサンゴが複数のストレスに対処する方法について探っている。

 サンゴの大敵は熱波だけではない。海洋汚染はもちろん、オニヒトデに食べられたり、人間の観光客に傷つけられたりとサンゴを脅かす要因は数多い。

 では、いつもサンゴにお世話になり、住処を提供してもらっている生物たちは、サンゴのピンチに対してどうしているのだろう?

 研究チームは、浅瀬に生息する「ヒメマツミドリイシ(Acropora aspera)」というサンゴと、そこで暮らしている「ヒヅメオウギガニ(Cyclodius ungulates)」を対象に、海での観察と、水槽を使った実験で確かめてみることにした。

 その結果、カニがいるとサンゴのダメージが少ないことがわかったのだ。

 水温が上がると確かにサンゴには被害が出る。だが、そのサンゴを住処にするカニがいた場合、組織が失われてしまうほどの被害が60%も減ったのである。

 カニはサンゴの傷口の死んだ組織を食べてキレイにしてくれていたのだ。

 そのおかげでサンゴの傷は回復しやすくなる。しかもサンゴはそれをわかっており、傷口からカニの好きな粘液を分泌して、カニを引き寄せたりもする。

 カニはサンゴに住処と食べ物(壊死した組織や粘液、サンゴに付着したプランクトンの死骸)をもらう。サンゴはカニに壊れた組織を食べてもらうことで傷の広がりを防ぐ。まさに持ちつ持たれつの相利共生だ。

この画像を大きなサイズで見るサンゴの壊死した組織を食べてくれるカニの様子  image credit:Renzi Julianna J et al.

 この結果は、サンゴが共生関係を通じてさまざまなストレスに対応していることを示している。

 カニの治療効果については今後も観察を続けねばならないが、この知見をうまく応用すれば、サンゴ礁の回復にも役立てられるかもしれないとのことだ。

 この研究は『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』(2025年2月12日付)に掲載された。

References: Heat stressed corals do better with crabs around / Like maggots on a wound, these surprising creatures could help heal dying coral reefs around the world | Discover Wildlife

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者がより理解しやすいように情報を整理し、再構成しています。

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