フランシス・フクヤマ「トランプの2期目は、こうやって世界を翻弄する」
フランシス・フクヤマ 政治学者。1952年、米シカゴ生まれ。米国務省、ランド研究所などを経て、スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所の上級研究員。主な著書に『歴史の終わり』『リベラリズムへの不満』『政治の起源』など。Photo by Ovidio Gonzalez / Getty Images
Text by Julien Peyron
フランシス・フクヤマは1992年に『歴史の終わり』を著して以来、世界で最も影響力のある政治思想家の一人であり続けている。同書で民主主義という理想にかなうものはないと述べた彼だが、トランプがホワイトハウスに戻る2025年の幕開けに戦々恐々としている。
──ドナルド・トランプは、この時代を象徴する大統領なのですか。
それは4年後、彼の任期が終わったときにわかるでしょう。ただ、すでに現時点で、トランプは歴代のなかでも最重要の大統領の一人になったとは言えます。たった一人で共和党を乗っ取り、そのイデオロギーを転換させ、選挙で圧勝を収めたわけですからね。
米国では、トランプの2期目は1期目よりマシになると考える人が多いのですが、私は逆の見方です。すでに不穏な予兆がいくつかあります。マルコ・ルビオを国務長官に指名するなど理にかなった人事もしていますが、異常な人事もしています。それでも「民主主義の衰退が決まったわけではない」と前を向くフクヤマに、米国と世界がこれから直面する変化について聞いた。
政府機関のトップに、その機関を解体したがっている人物を起用して、米国という国家を破壊しようとしているのではないかと思えるところがあります。この国のシステムすべてを心の底から見下しているのが伝わってきます。
──米国外に目を向けたとき、トランプ返り咲きの影響がすぐに出るのはどの地域ですか。
真っ先に影響が出るのはウクライナです。トランプが仲介しようとしている和平合意はウクライナに不利なものになるはずです。ウラジーミル・プーチン大統領は余裕しゃくしゃくで、ロシアが何一つ譲歩しなくても和平合意を結べると踏んでいます。 ただ、トランプもウクライナへの支援を完全に断ち切って、ロシア軍によるキーウ制圧を許すわけにはいきません。いくらウクライナを気にかけていないトランプでも、そんな事態になれば、自分のイメージが悪くなるのはわかっています。 中東に関していえば、バイデン政権がイスラエルに課そうとしていた制約がおそらく取り払われるはずです。戦争はすでにイスラエルの勝利といっていい状況ですが、まだ不安定なところもあるので、事態が悪化するおそれもあります。