金融庁が国債仕組み貸し出し実態検証、地銀立ち入り検査も-屋敷局長
金融庁は国債を裏付けとする仕組み貸し出しをめぐり、地方銀行や証券会社の実態検証に乗り出す。地銀については必要に応じて立ち入り検査も活用する方針だ。屋敷利紀総合政策局長がブルームバーグの取材で明らかにした。
金融庁は、国債仕組み貸し出しについて金利動向によっては逆ざやになりかねないとしてリスク管理強化を促してきた。ただ、これまでの注意喚起にもかかわらず一部の地銀で同残高が増加していることに対する懸念から、今回より踏み込んだ対応を取る。販売側の証券会社や受託者の信託銀行も実態検証の対象とし、より厳しい姿勢を示した格好だ。
金融庁では、国債仕組み貸し出しを含めた仕組み貸し出しの残高は地銀全体で2024年9月末時点で10兆円近くに上ると推計。23年9月末時点から2-3割増加したという。
昨年1月、金融庁は地銀との意見交換会でこの問題への注意を喚起した。屋敷氏は、その後も新規に仕組み貸し出しを実行したり、残高を大きく増やしたりした銀行を中心にリスク管理やガバナンス(企業統治)体制などについて立ち入り検査も行いながら検証していくとした。仕組み貸し出しの実態が不透明だとして、開示の在り方について銀行業界と議論していく考えも明らかにした。
国債を裏付けとした仕組み貸し出しは、「JGBリパ」(国債リパッケージローン)とも呼ばれる。証券会社などが設立した国債を保有する特別目的会社(SPC)や特定信託勘定に銀行が融資するという形の投資商品。SPCなどは国債を購入した上で、証券会社とデリバティブ(金融派生商品)契約を結び、地銀はデリバティブ関連損益と国債関連損益をリパッケージしたローン利息を受け取る。
屋敷氏は、国債仕組み貸し出しについて「公正価値の把握が難しい商品性を有する」とし、デリバティブ契約の内容次第では、金利上昇時に逆ザヤが生じる可能性があると指摘。また、金利動向によっては、中途解約時に損失が発生するものの、流動性が低いため売却に時間がかかり、さらに損失が拡大する可能性もあると述べた。
仕組み貸し出しへの取り組みには差があり、ほとんど手掛けていない地銀もある一方、一部では半年から1年で1000億円以上残高を増やした銀行もあるという。屋敷氏は具体的な個別行についての言及は控えた。
地域社会の貢献につながるのか
地銀が仕組み貸し出しを増やしている背景には、国債に直接投資する場合と異なり、時価評価を求められずに貸出残高の増加につなげることができるといったメリットがある。
ただ、屋敷氏は地銀が証券会社などに支払う手数料を考慮すると、国債を直接購入し、デリバティブを別途契約したほうが得られる収入は多くなるはずだと指摘。「少なくともコストやリスク・リターンの観点からは経済合理性を欠いている」との認識を示した。
その上で「時価評価の回避や貸し出しが増加していると見せるために仕組み貸し出しに取り組んでいるとすれば、ディスクロージャー本来の趣旨に反する行為ではないだろうか」と批判。積極的に取り組む地銀については、リスク管理や情報開示、経営理念などにおいて「大いに疑問を感じている」として、そのような貸し出しが「地域社会への貢献につながるのか」と問題提起した。
販売する証券会社についても、地銀に積極的に仕組み貸し出しを提案することが企業としての誠実性などの観点から適切なのか疑問があると言及。顧客の利益にかなった商品を提供するプロダクトガバナンスの取り組みなどを「重点的にモニタリングしていく」と語った。
一部の証券会社が積極的に仕組み貸し出しの提案を行っていることが残高増加の背景にあるのかも検証していくとしている。また、仕組み貸し出しの受託者となっている信託銀行の取り組み姿勢についても検証する。
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