コラム:代償大きいトランプ氏の不法移民送還、成長阻害にインフレも

 ドナルド・トランプ氏は米大統領就任初日に、史上最大規模となる不法移民の強制送還作戦に乗り出すと明言している。写真は、国境の壁に取り付けられた「立ち入り禁止」の看板。2024年6月、アリゾナ州ルビーで撮影(2025年 ロイター/Adrees Latif)

[ニューヨーク 16日 ロイター Breakingviews] - ドナルド・トランプ氏は米大統領就任初日に、史上最大規模となる不法移民の強制送還作戦に乗り出すと明言している。しかし推定1100万人に上る不法移民を大量に送還することで生じる経済的な打撃は極めて大きい。例えば、急成長している地域における建設業の停滞や食品価格の上昇などを招く恐れがあり、それが耐え難い負担を生むかもしれない。実際のところ、トランプ氏は過去にも同じような政策を掲げたが、計画は頓挫している。

移民政策研究所によると、米国は海外で出生した居住者が約4800万人と全人口の14%強を占める。この比率は19世紀後半に記録した、1850年以降で最も高い水準である15%に近く、1970年の約3倍に上る。また移民は国内出生者よりも労働参加率が高いため、全労働者に占める割合が20%近くに達している。

Close to a fifth of the U.S. labor force is composed of foreign-born workers.

米調査会社ピュー・リサーチ・センターの推計では、移民の大半は合法的な居住者で、不法滞在者の比率は20%強とされる。トランプ氏がこうした不法滞在者に対する政策をどのように変えるかははっきりしていない。ただ、ロイターが伝えたように、犯罪歴のない移民に対する強制送還制限の指針を撤廃したり、国境に州兵を投入したりする可能性があるという。

トランプ氏がこうした取り組みを強化すればするほど、そのコストも重くなる。シンクタンクであるアメリカ進歩センター(CAP)の2021年の推計に基づけば、米建設業界は労働力に占める不法移民の割合が23%だった。また労働省の調査からは、農業労働者ではこの割合が44%に達することが分かる。不法移民を強制送還すれば労働市場が逼迫してインフレが進み、米経済は需要が減退するだろう。ピーダーソン国際経済研究所は、130万人を送還した場合、28年までに米国の国内総生産(GDP)は1.2%押し下げられ、消費者物価指数(CPI)は1.5%押し上げられる可能性があるとの試算を示した。830万人を送還すればGDPは7.4%押し下げられ、CPIは9.1%押し上げられる見込みだ。

Illegal immigrants accounted for less than 1% of the workforce in Montana to 8.6% in Nevada in 2022.

送還の影響は地域によって偏り、それが打撃をさらに増大させる恐れもある。米国内で急成長している都市圏の一つであるダラス・フォートワースを擁するテキサス州のような国境沿いの州では、労働力に占める不法移民の比率が高く、建設業労働者が大量に消えればその成長が阻害されるだろう。

このような大規模な強制送還が実行される可能性は低いという見方もある。トランプ氏は第1期政権時代の16年に最大300万人を送還するとの公約を掲げた。しかし実際には、受け入れを拒否された移民の数が増え、新型コロナウイルスのパンデミック期に亡命申請の承認を拒否したものの、送還数は1990年代の水準を大きく下回ったままだった。

U.S. deportations of illegal immigrants remain below levels set in the 1990s.

本当に事態が緊迫するのは、農家が強制送還の対象除外を求めたり、ハイテク企業が就労ビザを擁護したりするなど、企業が特別扱いを主張し始めたときではないか。厳しい政策を大言壮語するだけで満足するというのではないなら、トランプ氏は米国の再構築に向けて先手を打つ必要があるだろう。

●背景となるニュース

*トランプ氏は大統領就任初日の20日に不法移民の大規模な強制送還作戦に着手する計画。米国土安全保障省の推計によると、不法移民の数は2022年時点で約1100万人。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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