Googleはかつてトランプ大統領が望む「アメリカ産スマホ」に挑戦していたが残念な結末を迎えている

メモ

アメリカのドナルド・トランプ大統領は「メイドインアメリカ」のスマートフォンを熱望しており、Appleなどのスマートフォンメーカーに「端末をアメリカで製造しないと関税をかける」と圧力をかけています。実はGoogleもかつて「アメリカ産スマートフォン」の製造に挑戦した過去がありますが、その結果は残念なものに終わっていると経済紙のFortuneが報じています。

Trump’s pressure on Apple to make All-American phones ignores the last tech giant that tried and failed | Fortune

https://fortune.com/2025/07/05/what-apple-trump-can-learn-google-motorola-moto-x-made-in-america-smartphone/

Googleは2011年、大手通信機器メーカーだったモトローラの携帯電話事業(モトローラ・モビリティ)を125億ドル(当時のレートで約9600億円)で買収しました。

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こうして携帯電話事業に乗り出したGoogleは2013年、モトローラ・モビリティ製スマートフォンの「Moto X」をアメリカで製造するという大きな賭けに出ました。モトローラ・モビリティは当時のブログ記事で、「従来の常識では、それ(アメリカでのスマートフォン製造)は不可能だと言われていました。専門家はアメリカではコストが高すぎる、アメリカの製造能力は失われている、アメリカの労働力は柔軟性に欠けると指摘していました」と述べています。 ところが、スマートフォン製造の老舗であるモトローラ・モビリティと超ビッグテックのGoogleがタックを組んだにもかかわらず、このアメリカ産スマートフォンプロジェクトはわずか1年で頓挫してしましました。Fortuneは、トランプ大統領がアメリカでのスマートフォン製造を強硬に主張する中、Moto Xの事例は新たな示唆をもたらすものであるとして、複数の関係者にインタビューを行いました。

◆Moto Xの展望

このプロジェクトの中核となったMoto Xは他の機種との差別化を図るため、自社ウェブサイトで直接購入した消費者に対し、数十種類もの色や素材(竹やクルミ材の背面カバーも含む)でカスタマイズできるオプションや、パーソナライズした刻印といったサービスも提供していました。このカスタマイズ性の高さにより、標準化されたラインナップしか販売しないAppleやSamsungに対する優位性が得られると期待していたとのこと。

また、モトローラ・モビリティはマーケティングでも「アメリカ製」であることをアピールしており、外国産の競合製品に代わる愛国的な選択肢になると強調していました。テキサス州フォートワースに作られた工場の開所式は、当時のテキサス州知事や人気TV番組に出演する投資家のマーク・キューバン氏などが出席する盛大なものでした。

なお、Moto Xの部品自体はアジアの下請け業者から輸入したものであり、アメリカの工場で行われていたのは組み立てのみでした。組み立てのみとはいえ人件費は高く、当時の同社幹部によると労働者の時給は中国の約3倍と高額でしたが、Moto Xは十分に利益のある価格で販売されていたとのこと。また、標準バージョンのMoto Xを通信キャリアに販売することで、工場の生産と需要のベースラインを確保していました。

by Theodore Lee

◆Moto Xのアメリカ工場

Appleのティム・クックCEOは2017年のインタビューで、製造業がアメリカではなくアジアに集中しているのは賃金差ではなく、すでに中国は「低コストな労働力の供給先」ではないと指摘。むしろ中国の強みは部品の設計図や金型のエンジニア、熟練労働者の数が圧倒的に多い点であるとして、「アメリカでは金型エンジニアの会議を開いても部屋を埋められるかどうかわかりません。中国ならサッカー場数面分を埋められるでしょう」とクック氏は述べています。

Moto Xの工場を運営していた受託生産企業のフレックス(当時はフレクストロニクス)もこの問題点を認識しており、ハンガリーやイスラエル、マレーシア、ブラジル、中国など世界中からエンジニアを集める必要があったとのこと。一方、フォートワースはもともと通信機器製造の中心地だったため、組み立てラインの一般労働者や監督者などは地元で採用できたそうです。

そして2013年夏、サッカー場約8面分の面積と約3800人の労働者を誇るモトローラ・モビリティのフォートワース工場が生産を開始しました。当時モトローラ・モビリティのサプライチェーンやオペレーションを率いていたマーク・ランドール氏は、テキサス州は製造業に友好的な州であり、フォートワース工場は従業員研修の減税措置といった優遇を得られたと語っています。

◆Moto Xが直面した課題 モトローラ・モビリティがGoogle傘下となって初のスマートフォンであるMoto Xは、SIMロックフリーのエントリーモデルが579ドル(当時のレートで約5万7000円)で販売されました。Moto Xは丸みを帯びた背面と当時としては先進的な音声認識機能が特徴で、「Okay, Google now(オーケー、グーグルナウ)」と呼びかけると音声操作が起動し、リマインダーを設定したり運転ルートを検索したりできました。 しかし、批評家がMoto Xに与えた評価は賛否両論でした。デバイスのカスタマイズ性や全体的なデザイン性は高く評価されたものの、基本モデルのストレージ容量は16GBと期待外れで、競合他社のスマートフォンに比べてディスプレイの品質が劣っている点も批判されたとのこと。

当初、フォートワースの工場では週に10万台のスマートフォンを製造していましたが、その生産量は時間と共に大幅に減少。2014年第1四半期に全世界で販売されたMoto Xは約90万台と、同時期にAppleが販売したiPhone 5sの2600万台に遠く及びませんでした。Moto Xの販売開始から5カ月後には価格が399ドル(当時のレートで約3万9000円)まで下がり、9カ月後には工場の従業員数がピーク時の5分の1以下の約700人にまで減りました。 Moto Xの売り上げ不振には広告キャンペーンの予算が少なかったという声もありましたが、大きな誤算のひとつが「ほとんどの消費者はスマートフォンがどこで製造されたのか気にしていない」という点でした。当時モトローラ・モビリティの製品管理担当上級ディレクターを務めていたマーク・ローズ氏は、「私たちが学んだことのひとつが、アメリカで組み立てられた製品が共感を呼ばなかったということです」と語っています。 また、オンライン注文時に顧客が色や素材をカスタマイズできるようにしたことで、事前に生産してストックしておくことができなくなったり、顧客が色合いに失望して返品する率が高くなったりするデメリットも発生。さらにモトローラ・モビリティはAppleやSamsungなどの競合他社と比較してシェアが弱く、サプライヤーとの価格交渉を有利に進められなかった点も課題でした。 結局、Googleはフォートワースの工場を閉鎖することに決め、2014年にはモトローラ・モビリティのスマートフォン事業をレノボに売却。なお、この際に特許ポートフォリオの大部分はGoogleの手元に残されたため、モトローラ・モビリティを買収した理由のひとつである「特許を得て将来の訴訟リスクを減らす」という目的は達成したとの見方もあります。

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◆Moto Xの事例から得られる教訓 Fortuneは、Googleとモトローラ・モビリティのアメリカ製スマートフォン計画が失敗した理由について、「結局のところMoto Xの組み立て場所とはほとんど関係なかったようです。単に、アメリカに組み立てラインを置くことを正当化するほど売れなかったのです」と指摘。ランドール氏は率直に、Moto Xの失敗はアメリカの製造業とは関係なく、iPhoneの方が優れておりブランド認知度も高かったためだと語っています。 Appleは当時のモトローラ・モビリティと比較して圧倒的に大きな売上と市場シェアを持っているため、仮にアメリカにスマートフォン工場を建設したとして、必ずしも同じような課題に直面するとは限りません。また、アメリカでのMoto X製造が終了してからすでに10年ほどが経過しており、工場の自動化も進んでいるため、アメリカのスマートフォン工場では以前よりもコスト削減が容易になっている可能性もあるとのこと。 一方、アメリカでは予想外の売上に対処するため突如として数千人の従業員を増員することは不可能ですが、中国ではそれが可能といった違いは変わっていません。ランドール氏は中国について、「プロジェクトが非常に順調だった場合、その労働力を柔軟に調整する能力は驚異的です。また、労働力を縮小する能力にも驚くべきものがあります」と指摘しています。 Fortuneは、「明らかなのは、モトローラ・モビリティの『メイドインアメリカ』実験は1年あまりで終了し、その後10年以上にわたり、他の主要なスマートフォンメーカーは再び同様の試みを実行する勇気を持てなかったということです」と述べました。

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