FRB、金利据え置きで時間稼ぎへ-物価圧力と成長懸念の両方に直面
米金融当局は19日まで開く連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、金利据え置きを決める公算が大きい。持続的なインフレ圧力と成長懸念の高まりの両方に直面する経済にトランプ大統領の政策がどう影響するか、評価するための時間を確保する。
トランプ政権による新たな関税措置は貿易相手国・地域による対抗措置と相まって米国の消費者マインドの重しとなるとともに、先行きのインフレ期待を押し上げている。さらに、米国と他国・地域との貿易戦争がどのような経済情勢につながるのかも不明だ。
不確実性の高まりの下で、当局者は特定の政策の道筋にコミットすることには消極的で、静観モードを維持することになりそうだ。
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Economists expect two quarter-point reductions this year, survey shows
Source: Bloomberg News survey of economists March 7-12
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「不確実性を背景に、利下げの軌道には極めて広範なばらつきがあるだろう」と指摘した。
米金融当局は金融政策決定を盛り込んだFOMC声明と最新の四半期経済予測を米東部時間19日午後2時(日本時間20日午前3時)に発表し、2時半からはパウエル連邦準制度理事会(FRB)議長が記者会見する。
声明
米金融当局はフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.25-4.5%に据え置くと広く予想されている。ただ、FRBウオッチャーは、経済活動の減速を示す最近のデータを受けて、声明の内容がやや変わる可能性があるとみている。
不透明な見通しや、雇用とインフレを巡る責務に対するリスクバランスに関する表現は変わらない公算が大きいと、複数のエコノミストは見込んでいる一方、前回の声明で経済成長について「堅調なペース」とした文言は削除する可能性があるとする。
経済予測
FOMC参加者が昨年12月の四半期経済予測で各自の見通しを示して以降、経済情勢は変化した。1月20日に就任したトランプ氏は関税の脅しをエスカレートさせ、最新のデータは景気の展望への懸念を生じさせて米株価は過去数週間に急落に見舞われた。
KPMGのスウォンク氏は、通商政策をはじめとするトランプ氏の政策の多くの不確実性を踏まえ、「当然の結果」として一段と多くの当局者が金利据え置き選好のシグナルを発する可能性があるとコメント。貿易戦争があまりにも悪化して深刻なリセッション(景気後退)を引き起こすかどうかは「分からない」とも語った。
当局者は前回の四半期経済予測で2025年に中央値で計2回の利下げを見込んでいた。エコノミストは、当局者が最新の金利予測分布図(ドット・プロット)で引き続き年内2回の利下げ見通しを示すと、総じて予想している。
FRBウオッチャーの多くは、金融当局者が今年の実質GDP(国内総生産)伸び率予想を下方修正する一方、個人消費支出(PCE)価格指数の見通しは上昇修正すると想定。失業率予想が上方修正されるとの見方も一部ある。
BNPパリバの米金利戦略責任者、グニート・ディングラ氏は「予測に反映されるのはスタグフレーションのシナリオだろう。どの程度がスタグ(景気停滞)でどの程度がフレーション(インフレ)であるかが問題だ」と話す。
その上で、「私が懸念しているのは、米金融当局が再び、少なくともマーケットに比べて、インフレの方に重点を置いているように見受けられるケースだ」と述べた。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏らは最新の四半期経済予測に関し、「今年の利下げ回数見通しを減らす当局者が増える可能性がある」とし、年内利下げ回数の予想が1回となるか2回となるか予断を許さないとみる。
さらに、「パウエル議長は記者会見で、FOMCの予測はトランプ大統領の政策を総合的に織り込んだものになると述べ、政治色を排除しようとするだろう。景気後退に見舞われた場合、当局が利下げで後れを取るリスクがある」との分析を示した。
米金融当局は通常、成長鈍化への対応には利下げで景気を下支えすることが考えられる。だが、インフレ率がまだ2%の目標を上回っていることで、物価抑制の継続的な取り組みとして、景気鈍化にもかかわらず政策金利を高めに維持するのではないかと、一部のエコノミストはみている。
ネーションワイド・ミューチュアル・インシュアランスのチーフエコノミスト、キャシー・ボストジャンシク氏は「市場は成長への影響を懸念し、利下げが早まって、利下げ幅が拡大することを織り込んでいる」と論評。他方で、「その可能性はあるものの、当局に利下げを示唆する準備が整っているとは思えない」と語った。
記者会見
投資家の関心の中心はパウエル議長の記者会見だろう。必要に応じて当局が景気を支える用意があると安心感が得られることを投資家は望んでいる。
パウエル議長は、経済が「良い状態」にある間は利下げを「急ぐ」必要はないと繰り返し強調してきた。19日の会見でも、金融政策はよいポジションにあり、当局は労働市場の悪化やインフレの再加速など、一段と明確なシグナルを待つことができると強調する可能性がある。
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パウエル議長は、インフレ押し上げへの関税の影響が一過性のものか、持続的な要因とみるか、記者団の質問を受けると想定される。また、S&P500種株価指数の直近高値からの下落率が調整局面入りの目安である10%に達するなど、株価下落や債券利回り低下を巡っても質問される可能性がある。
消費者心理の悪化とインフレ期待の高まりについての議長の評価にもアナリストは注目している。ミシガン大学が発表した5-10年先のインフレ期待は3月に3.9%に上昇し、32年ぶりの高水準となった。米金融当局者これまでのところ、長期的なインフレ見通しは依然、安定していると述べている。
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バランスシート
連邦債務上限の問題が米国債市場のかく乱要因となるとの懸念を背景に、米金融当局は近いうちに量的引き締め(QT)として知られるバランスシート圧縮のペースを落とすか、このプロセスを完全に停止する可能性もある。
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エコノミストやアナリストの多くは、バランスシート政策の変更について、今後数カ月か、早ければ今週にも発表があると予想している。
原題:Fed to Hold Rates Steady Amid Uncertainty: Decision-Day Guide(抜粋)