『徹子の部屋』神回 藤井風と黒柳徹子が“指切り” 意気投合した2人の共鳴が映した「豊かさ」〈EIGHT-JAMきょう〉

「徹子の部屋」出演が話題になった藤井風 この記事の写真をすべて見る

 16日放送の「EIGHT-JAM 【藤井 風、星野 源、Superfly、久保田利伸…貴重な未公開編】」(テレビ朝日系・よる11時30分)では、藤井風のインタビュー完全版を公開。本編では放送されなかった貴重な回答が明らかになる。過去によく読まれた藤井風の記事を振り返る(この記事は「AERA DIGITAL」に2025年9月13日に掲載されたものの再配信です。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。

【写真】4度の不倫報道でも絶対に“干されない”女優がこちら

*   *   *

 黒柳徹子が毎回さまざまなゲストを迎える『徹子の部屋』(テレビ朝日系)は、ただのトーク番組ではない。ほとんど編集をしない生放送のような形で進められる、収録現場には独特の緊張感が漂っている。何をどういう順番で尋ねるのかもすべて徹子の意志に委ねられているからだ。

 彼女の前では小手先の技術は通用しない。ゲストは自分自身の生き様そのものをさらけ出して、徹子と向き合わなければならない。ほかのバラエティー番組の雰囲気に慣れているプロの芸人たちは、この番組を苦手としていることが多い。徹子にペースを崩され、無茶ぶりをされて、思うような動きができなくなるのだ。芸人も俳優もアスリートも、この番組では自分たちの肩書を捨てて「人間」として彼女と対峙することになる。

 そんな『徹子の部屋』では、徹子とゲストが終始噛み合わないやり取りを繰り広げることもあれば、ぴったり息が合って深く響くような対話が行われることもある。シンガー・ソングライターの藤井風が出演した9月8日放送回は、紛れもない「当たり回」だった。世代も経歴も異なる2人が初めて出会い、互いに惹かれ合っていく過程を見届けた。

奇抜なファッションで登場した藤井風に

 藤井は「Hachiko」のミュージックビデオで着用した奇抜な衣装に身を包み、レンズが3つあるサングラスをかけて登場した。彼が現れた瞬間、徹子も「わあ、びっくりした」と驚きの声をあげた。同じく奇抜なファッションで同番組に出演したLADY GAGA以来の衝撃だった。

 しかし、強烈な第一印象とは裏腹に、藤井は物腰柔らかく穏やかな人物だった。ソファに腰掛けると「いつも素敵なお召し物をされているのでね、僕も一張羅をおろしてこなければと思いました」と今回の衣装に込めた思いを語った。

 派手な帽子とサングラスを外して素顔を見せた藤井は、徹子に年齢を尋ねられて「今、28なんですけど、ちょっと今年は誕生日を延期しまして、まだちょっと27ということで」と謎めいた返答をした。徹子もこれに「いいでしょう」と相槌を打って、特に気にする様子もない。2人の間に良い空気が流れているのがわかる。


Page 2

 普段はほとんどテレビに出ていないのに、なぜこの番組に出てくれたのかと聞かれると、藤井は柔らかな笑みを浮かべながら「僕がここに出ている理由はよくわからない」と答えた。その言葉に込められた素朴さと、彼の両親が番組出演を大いに喜んだというエピソードは、徹子にとっても胸を打つものだっただろう。藤井は家族と毎日のように連絡を取り合うほど両親を大切にする人間であり、音楽的才能の輝きとは裏腹に、ごく普通の青年のような家族愛を持っている。そのアンバランスさが、徹子の好奇心を強く刺激した。

 トークが進むにつれて、藤井の食生活の話題も出た。ベジタリアンであることを明かすと、徹子が「お魚ぐらいは食べるの?」と無邪気に問いかけ、藤井が「お出汁とかは気にしないです」と答えた。納豆にキムチを混ぜたり、厚揚げをトースターで焼いて食べたりする日常を照れくさそうに語る藤井の言葉に、徹子は興味深そうに耳を傾けていた。

92歳と28歳の差を感じさせない共感

 2人のやり取りには、92歳と28歳という年齢差をまったく感じさせない親密さが漂っていた。そこには芸能界の大御所と新進気鋭のアーティストという関係を超えた、人間同士の素直な共感があった。

 音楽でも2人は響き合った。藤井は膝の上にキーボードを乗せて、リクエストに応じてショパンの「幻想即興曲」から「徹子の部屋のテーマ」「ルビーの指環」「いい日旅立ち」まで、次々と弾いてみせた。徹子はそのたびに満面の笑みで拍手を送っていた。藤井の演奏には技巧を誇示するような雰囲気がなく、自然体の中に優しさと遊び心が宿っていた。それは徹子が長年追い求めてきた「楽しさ」と「品の良さ」を両立させるスタイルとも重なる。

「不思議な存在感」「国際的な視野」「独自のファッションセンス」「ユーモアと親しみやすさ」など、藤井と徹子には共通する部分が多い。どちらも幼い頃から他人とは違う空気を身にまとっていて、好奇心に突き動かされて自身のセンスを全開にして生きてきた人物だ。だからこそ、徹子は藤井の中にある自由さや不思議さを他人事とは思えず、特別な親近感を抱いたのではないか。


Page 3

 番組の終盤に、彼女が「今度、ご飯食べに行く?」と誘うと、藤井も「行きたい」と無邪気に応じて、2人は子どものように指切りのジェスチャーを交わした。エンディングでは藤井が「初めて会った気がしない」と語りかけると、徹子も「そうですよね、私も初めて会ったような気がしないです」と応じた。世代の違う2人が本心から惹かれ合ったこの場面を見て、多くの視聴者が心を動かされた。

 この日の『徹子の部屋』は、藤井風という世界的アーティストの存在感を新鮮に映し出すと同時に、黒柳徹子の終わることのない好奇心と柔らかな人間性を改めて浮き彫りにした。藤井が徹子と向き合った濃密な時間は、彼の奏でる音楽と同じくらい豊かな響きを放っていた。

(お笑い評論家・ラリー遠田)

こちらの記事もおすすめ 千鳥、藤井風は向上心強くて欲深い? 岡山出身者が人気のワケをひもとく
著者プロフィールを見る
ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。近著は『松本人志とお笑いとテレビ』(中央公論新社)。http://owa-writer.com/
ラリー遠田の記事一覧はこちら

関連記事: