「ウイグル人は文化捨てれば?」心無い指摘に…ウイグル協会のアフメット会長の反論(下)
中国で1日、「中華民族」の団結を阻害すれば国外の組織や個人に対しても法的責任を追及できる「民族団結進歩促進法」が施行された。民族のアイデンティティーを守るため活動している日本ウイグル協会のレテプ・アフメット会長が産経新聞のインタビューに応じ、団結法に強い危機感を示した。=(上)の続き
官製ツアーは「用意された舞台」
──中国当局は新疆ウイグル自治区へのツアーを開催し、平穏な暮らしぶりをアピールする
「あらかじめ用意された舞台で全部、芝居だ。強制収容問題で国際社会が批判した際、中国当局はメディアを連れて施設を公開した。記者がドアを開けた途端に、ウイグル人収容者が踊り、聞かれてもいないのに『ここへ来て幸せです』と延々と口にする。あり得ないじゃないですか。自然にそんなことは起きない」
「本当に重要なのは、当局の監視や尾行なしに自由に取材できるかどうかだ。監視も尾行も付かず、会いたい人に自由に会える取材・調査ができるかどうかに重みを置くべきだ」
──自治区では外国人記者への監視や尾行が常態化している
「当局が言うようにウイグル人が普通に幸せに暮らしているなら、尾行したり記者のカメラをチェックしたりする必要はないはずだ。実態や本音を口にしてしまう人が現れないよう、徹底して監視しているのだ。国際社会があれだけ『問題がないなら調査させろ』と言っても、中国は逃げ続けている。見せられないのは、今も問題があるからだと考えるのが普通だ」
SNS上に流出した「忠誠教育」
──ウイグル人に対し中国共産党への忠誠を誓わせる映像がSNS上に流出している
「それこそ現地の実態だ。2017年以降の大規模な強制収容と並行して、『ウイグル人として生まれたことは間違いだった』『生きているのも全て共産党のおかげだ。習近平国家主席に感謝』と叫ぶことが日課になっている。それは元収容者の証言でも、当局の内部資料でも確認できる。大人は村ごとに何度も集められ、中国国旗を掲げ、共産党をたたえ、中国人として生きることを合唱させられている。子供は寄宿学校で親元から引き離され、中国人として育てられる」
「SNS上の映像は現地から発信され、すぐ削除される前に、運よく海外の人が保存したものだ。当局主導の取材ツアーでは絶対に遭遇できない」
──2017年に海外のウイグル人へ一斉に帰国を求める動きがあったという
「私を含め、海外に住むウイグル人はほぼ全員が帰国するよう圧力を受けた。中国の狙いは、外国と現地との通信を断ち切ることだった。帰国した人の中には、そのまま行方不明になった人が大勢いる」
団結法はウイグルの家庭に影響
──団結法によって家庭まで規制対象になる危険性を懸念している
「これまで学校でウイグル語が教えられなくなれば、知識人が塾を作って教えた。塾も駄目になれば、今度は家庭で子供たちにウイグル語や伝統文化を教え続けた。しかし、団結法は家庭の中にまで踏み込んでくるだろう」
「何が『民族団結に反する』かは、当局が自由に決められる。子供に言葉や文化を教えただけで『民族団結に反する』と言われたら終わりだ。親は『子供が危険にさらされるかもしれない』『犯罪になるかもしれない』という恐怖心から、自ら教えることをやめてしまう。それこそが当局の狙いだ」
「文化を捨てろ」論への反論
──暴論だが『ウイグルの文化を捨ててしまえ』という意見もある
「部外者の発想だ。1949年に中国共産党がウイグルに入植した当時、居住する漢民族は軍人を中心に5%未満。圧倒的少数派だった。それがこの77年間、中国人を多数派にしようと大規模な移民政策が実施された。他所からやってきた赤の他人が地元の人に対し、『自分たちの生き方、価値観、伝統文化を全部捨てろ』と言っている。ウイグルの価値観や生き方に関心のない人は、そういう冷たい見方ができるかもしれない」
「一番大事なのはウイグルの人々がどう思うかだ。たとえ中国の文化の方が『優れている』として、ウイグル人が納得して選ぶなら話は別だ。今、起きていることはそうではない。中国当局は77年間、『自然同化』を目論んでも一向に進まなかった。それは、ウイグル人が自分たちの文化に誇りを持ち、守り続けてきたからだ。ウイグル人が『自分たちはこれでいい、ウイグルの文化でいい、ウイグルの価値観でいい』と言っている証だ」
「それを、外部の人があれこれ言うのはおかしい。『捨てればいい』というのは現地の人の思いを無視した心ない言葉だ。現地の人がどう思うかがポイントだ」
日本・国際社会への要望
──日本や国際社会に求めることは
「超党派の議員連盟が非難声明を出してくれたことは非常に心強かった。できれば国会としても団結法を非難し、廃止を求めてほしい」
中国の「民族団結進歩促進法」の施行を非難する声明を発表する各議員連盟幹部ら=6月30日午後、国会内(奥原慎平撮影)「日本では、中国が今回の法律を盾に平和的な言論活動を妨害したり、人を犯罪者扱いしたり、拘束や物理的危害を加えたりすることは絶対に許さないという姿勢を示すべきだ。一度でも前例を作れば、必ずエスカレートする」
「ウイグルジェノサイドはまだ終わっていない。家族と会えず、通信もできず、多くの知識人が2017年以降、行方不明のままだ。国際社会は透明性のある国際調査を粘り強く求め続けるべきだ。今回の法律は中国の国内法だけでなく国際法や人権条約にも反する。国際常識を守らない国は国際社会が相手にしない。(中国を)排除し、孤立させていくことが大事だと思う」
(聞き手・奥原慎平)