「悪魔の息」として知られる乗り物酔いにも使われる薬物が人間をゾンビ化して強盗や性的暴行をする犯罪者に悪用されている

サイエンス

ナス科の植物に含まれるトロパンアルカロイドの一種であるスコポラミンは、消化管の緊張を低下して吐き気を予防する効果があることから、一般的な乗り物酔いの薬に含まれています。ところが、スコポラミンにはターゲットをゾンビのような存在に変える効果もあり、強盗犯や性的暴行犯によって使われているため「悪魔の息」という二つ名でも知られているとのことです。

Motion sickness drug linked to cases of robbery and assault – here’s what you need to know about ‘devil’s breath’

https://theconversation.com/motion-sickness-drug-linked-to-cases-of-robbery-and-assault-heres-what-you-need-to-know-about-devils-breath-259720

主にナス科の植物から抽出できるスコポラミンには強力な精神活性作用があり、南米の先住民族は古くから伝統的な儀式に使用してきたとのこと。現代医学では、主に「スコポラミン臭化水素酸塩水和物」として乗り物酔いや吐き気、嘔吐(おうと)、筋肉のけいれんなどを防ぐために使用されており、手術前にだ液分泌を抑える目的でも処方されています。

スコポラミンの主な作用は、記憶や学習、協調運動に重要な役割を果たす神経伝達物質のアセチルコリンを遮断し、副交感神経系を抑制する抗コリン作用です。これによって平衡感覚系から脳への信号が遮断され、吐き気を軽減することができるというわけです。

身近な薬物の一種であるスコポラミンですが、特に高用量で使用した場合や、臨床現場以外で使用した場合には重大な副作用を伴うことがあります。特に南米では犯罪者による悪用が問題となっており、近年はフランスやイギリスなどヨーロッパでも悪用された事例が報告されているとのこと。

スコポラミンが犯罪に悪用される主な理由は、吐き気を止める効果もある抗コリン作用です。アセチルコリンは記憶の形成や想起において重要な役割を果たしていますが、高用量のスコポラミンを服用すると過度にアセチルコリンが阻害されて一時的な記憶喪失を引き起こすため、犯罪者にとって都合がいいというわけです。

また、スコポラミンを盛られた被害者は夢を見ているような感覚を持ち、犯人の指示に対して従順になり、抵抗したり出来事を記憶したりすることが困難になります。こうした被害者の主体性や記憶を奪う効果は「ゾンビ化」とも呼ばれ、スコポラミンは多くの犯罪者によって悪用されています。

特にコロンビアをはじめとする南米では、数え切れないほどの強盗や性的暴行事件でスコポラミンが使用されています。さらに、2015年にはフランスのパリでスコポラミンを使って強盗した罪で3人が逮捕されたほか、イギリスでは2019年にスコポラミンを盛られた男性が殺害される事件が発生しました。

粉末状のスコポラミンは無味無臭であるため、飲み物に混入したり誰かの顔に吹き付けたりすることは容易です。また、オンラインフォーラムでは植物の種子や根、花からスコポラミン入りのお茶や煎じ薬を作る方法も解説されており、誤用のリスクも高まっているとのこと。 スコポラミンは摂取後すぐに作用し、約12時間で体外へ排出されるため、通常の薬物検査では検出することが困難です。また、人によっては10mg未満の服用量でも致命的となる可能性があり、金銭目的の強盗が殺人事件に発展する場合もあります。 イギリスのキングストン大学で薬学実務の上級講師を務めるディパ・カムダール氏は、「スコポラミン中毒の兆候には心拍数の上昇や動悸(どうき)、口の乾燥、皮膚の紅潮、視界のぼやけ、混乱、方向感覚の喪失、幻覚、眠気などがあります。特に予期せぬ飲酒や接触の後にこれらの症状が現れた場合、直ちに医師の診察を受けてください」とアドバイスしました。

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