メールや電話で「悪い報告」をする人は仕事ができない…真に優秀な人が守っている「気まずい1on1」のルール 「脳の動き」に合わせて話法を変える

人と人が会話するとき、脳では主に「大脳皮質と前頭葉」、「辺縁系」、「脳幹」が活発に機能している。行動科学の研究者であるレーナ・スコーグホルム氏はそれぞれを「ヒト脳」「サル脳」「ワニ脳」と表現し、「都合の悪い話を聞くとき、人の脳はワニ脳→サル脳→ヒト脳の順番で目まぐるしく動いている。このプロセスを理解すれば、相手に恨まれることなくイヤな話を伝えることができる」という――。

※本稿は、レーナ・スコーグホルム著、御舩由美子訳『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

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悪いニュースは最悪のタイミングで入ってくる

相手にとって悪いことを伝えるのは、決して気分のいいものではない。伝えられる側はもちろん、伝える側だって気が重くなる。

悪い話は、さまざまな手段で伝えられる。嫌なことを知らされた相手は精神的なダメージを受けるが、それを「どう伝えるか」によって相手のダメージが和らぎ、いくらか対処もしやすくなる。

私の知人は、電話であわただしくガンを告知された。別の知人は、よりによって休暇に入る前日の金曜日に解雇を通告された。

残念ながら、悪いことを伝える側が、何の配慮もなく伝える例があとを絶たない。理不尽な話だが、ストレスフルな世の中で生きていれば当然かもしれない。

だが、言葉は、それを「どう伝えるか」で、相手の受け取り方も違ってくる。伝えにくい話なら、なおさら伝え方に気を配らなければいけない。

相手にとって嫌な話を伝えるときは、何の意識もせず伝えてはいけない。きちんと戦略を立てる必要がある。ところが、たいていは、その戦略が欠けているため、よい伝え方ができない。

たとえば、伝えるのを先延ばしにしたり、できるだけ早く済ませたくて相手に質問する隙を与えなかったり、というように。悪い話を伝えるときにいちばん大切なことは、「自分が今、何をしているか」を意識することだ。

また、それが伝えにくい話であるほど、入念な準備が必要になる。相手にどう働きかければいいか、あらかじめ考えておかなければいけない。

相手のネガティブな感情を避けてはいけない

何より心がけるべき点は、相手が精神的にダメージを受けたときのネガティブな感情を恐れないことだ。悪い話を伝えるときに問題が生じるのは、この恐れのせいであることが多い。

相手にとって嫌な話を伝えるのは誰だって気まずい。だから、できるだけ早く済ませたいし、少ない言葉で手短に伝えたくなる。でも、この罠に落ちてはだめだ。しっかり準備しないといけない。話を伝える相手にも、その状況にも、真摯に向き合おう。

相手のネガティブな感情を避けようとせず、それに堂々と向き合うことが大切だ。つまり、相手の話を傾聴し、思いやりを示し、その状況を理解していることを言葉で表現しよう。そうすれば、あなたが寄り添っていることが伝わる。

悪いことを伝えなくてはならないとき、たいていの人は、その相手に会うまでの数日間を不安な気持ちで過ごす。でも、これは当然だ。誰だって、ネガティブな感情に直面するのは避けたい。悪い話を伝えたら、相手の内面には、きっと強い感情が湧きあがるだろう。よくあるのは怒り、恐れ、悲しみ、恥だ。

そして、話を伝えるほうも、受け取るほうも、その影響を受ける。


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・悪い話は、必ず相手とじかに会って伝える ・時間は十分にとる ・準備をしておく ・はじめに「短い前置き」で話の要点を簡単に伝える。そうすれば、相手はどんな話が伝えられるのか、すぐにわかる ・説明は簡潔にする ・相手に対して批判的にならず、中立的な態度をとる ・伝えた内容を理解する時間を相手に与える。気持ちに寄り添う ・個人の視点と、広い視点の両方で相手の気持ちを代弁する。たとえば広い視点なら、「誰だって同じ気持ちになるよ」「きみひとりじゃない」「誰にでも抗議する権利はある」など ・必要なら、その決定がなされた理由を詳しく説明する ・自分の知っていることだけを伝える。憶測による話はしない ・解決志向ソリューション・フォーカスト[何がいけないかではなく、どうすればいいかに焦点を絞った問題解決の手法]による対話を心がける ・ひととおり話したのち、相手がどんな気持ちでいるか確かめる。別の人物とのコンタクトを希望したら、その人物を紹介する

・面談後も問題が解決しない場合は、その問題に関する情報を提供しつづける。よくわからないのは苦痛だ。情報がまったく入らないより、新しい情報はないと知るほうが気持ちは楽になる

ワニ脳に何かを伝えるときは、単刀直入に本題に入ること。そしてワニが求めるもの、つまりワニが理解しやすいように、短く、簡潔な言葉で、具体的に説明するのがポイントだ。

悪い話を伝える場合は、あなたが心配している、あるいは残念に思っていることを示そう。そうすれば、あなたが親身になって考えていることが伝わる。また、相手もそれが重要な話であることを理解する。

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あなたは、悪い話を伝えられたことがあるだろうか? そのとき、まるで全身の血が凍りつくような感覚におちいらなかっただろうか? これは、ワニ脳が危険を感知したときの「凍結」反応だ。つまり、身体が麻痺したように膠着こうちゃくする。

悪い話を伝えるときは、このワニ脳の代表的な3つの反応の1つが返ってくるものと心得よう。「凍結」「逃走」「闘争」のうちのどれかだ。

これは、人間のごく自然な反応だ。だから、相手が攻撃的になったとしても、あなた個人に対する反応だと思ってはいけない。それは、相手が危険に出合ったときのごく自然なふるまいなのだ。そのため、そうした反応が返ってくることを頭に置いておこう。

相手にワニ脳のふるまいが表れているかぎり、あなたはワニ語を使いつづけ、常に明瞭さを心がけなければならない。相手の反応を見きわめながら、それにふさわしい言語で対応しよう。

また、相手の辛い立場を理解していることを伝えて、サル脳に移行できるタイミングを探ろう。相手が攻撃的になるなど、ワニの3つの反応のどれかを示していたら、もう少しワニ語で話しつづけ、そのあとでまたサル語で語りかけてみよう。


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そのため、悪いことを伝えるときは、相手の感情に対処しなければならない。その感情を恐れないでほしい。思いやりと理解を示せば、そうした感情は和らげられる。

悪いことを伝えられた相手は、おそらく罪悪感を覚えるだろう。何かに失敗したような感覚にとらわれる。たとえば「仕事がちゃんとできなかったんだ」というように。つまり、その話を個人的にとらえてしまうのだ。相手の身になって考えれば、そうした反応も当然だと思えるはずだ。

いっぽうで、相手のなかにどんな感情が湧きあがろうと誰も責めることはできない。きちんと準備をして、最善の方法で話を伝えたなら、自分の役割を十分果たしたことになる。そのとき、相手のネガティブな感情を取り込まないようにしよう。それを家に持ち帰ってはいけない。そんなことをしても誰も得をしない。あなたも、話を伝えられた相手も。

悪い話を伝えるときは、自分が相手と同じ立場ではないこともわきまえる必要がある。

あなたが伝えることは、相手のメンタルに影響を与える。あなたは、あくまでも伝える側の人間で、あなた自身がその知らせによって傷つくわけではない。

嫌な話を聞くと「脅威システム」が発動する

自分の伝えることが相手の人生の一部を台無しにするかもしれないし、そのために相手が深刻な状況におちいるかもしれない。それを意識してほしい。

また、悪い話を伝えると、ある種の対立も生じる。なぜなら、その話は相手の望みと相反するからだ。対立は怒りにつながり、怒りは苦痛を呼び起こす。

だからといって、相手が何をしてもいいわけではない。あなたにも許容範囲があることは示すべきだ。たとえば相手が攻撃的になり、あなたが脅威を感じる場合。こんなときは、あくまでも冷静でいよう。終始、努めて穏やかでいよう。

たとえ相手のワニとサルが目覚めても、あなたはヒト脳でい続けよう。

では、悪い話を伝えるにあたり、できるだけ相手のダメージを抑えるには、具体的に何をすればいいのか?

脳の3つの層、ワニ脳、サル脳、ヒト脳は、悪い話を聞いたときも含め、そのときの状況に応じて目を覚ます。そのため、話を伝える側は、ワニ脳、サル脳、ヒト脳すべてとコミュニケーションをとる必要が出てくる。どれも状況はまったく違うが、それぞれに守るべきルールがある。

相手にとって嫌な話を伝えると、相手の「脅威システム」が発動する。このとき、相手は脅威と危険にしか意識が向かなくなる。

臨床心理学者のポール・ギルバートは、人間にこうした行動をうながすシステムのモデルを考案している。ギルバートによれば、脅威システムが発動すると、差し迫った危険に意識が集中し、体内でストレスホルモンの分泌が増え、自分が無防備で弱いという感覚にとらわれるという。相手の脅威システムが発動しているときは、目の前にワニがいると考えよう。

脳のそれぞれの層について見る前に、次の鉄則を頭に入れておこう。


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相手がワニ脳モードから抜けだしたら、次はサル脳が相手だ。

この段階は、サルが求めるものを満たさなければならない。思いやりを示し、相手の辛い立場を理解していることを伝えよう。「言葉」「ボディランゲージ」「声のトーン」を活用しよう。危機的な状況のとき、サル脳は心に響くような働きかけに敏感なので、声のトーンやボディランゲージがとても効果的だ。

サル脳モードの人は、自分の気持ちを表現したい、それを言葉で伝えたい、と思っている。これは、次の段階のヒト脳モードに移るのに好都合だ。言葉こそ、ヒト脳の守備範囲だからだ。相手が自分の気持ちを話したくなったら、そのタイミングでヒト脳モードに移れる。

だから、相手が自分の気持ちを表に出すことを許して、それを言葉にする機会を与えよう。そのとき、その気持ちを決して否定してはいけない。

サル脳からヒト脳に移行するには時間がかかる。もしかしたら、一度の対話では無理かもしれない。自然な成り行きに任せよう。先を急いでも、かえって移行を遅らせるだけだ。

相手に理解を示さないまま、無理やり次の段階に進もうとしてはいけない。無理強いすると、相手がサル脳モードから抜けだすのに余計に時間がかかってしまう。スピードを上げれば速く進む、などという単純なものではないのだ。無理に速めても、あとで高い代償を払うだけだ。

相手の痛みに寄り添うのは大変だが、その痛みから目をそむけないで相手の気持ちに共感することが大切だ。

あれ、「ヒト脳」だったのに――慌てず作戦変更

サル脳の共感への欲求が満たされたら、ようやくヒト脳に移れる。

ヒト脳の段階では、今後のことが話し合える。筋道を立てて計画し、分析し、議論できるようになる。つまり、ヒト語が使える。 留意すべきは、悪い話を伝えたとき、相手のヒト脳がまったく機能しなくなることがあるという点だ。

私たちが頻繁に使い、最も活用しやすいのがヒト語だ。だから、悪いことを伝えるときにはヒト語で伝えたくなるかもしれない。だが、まずはワニとサルの欲求を満たすことに集中してほしい。

一旦ヒト脳に移行しても、相手は簡単にサル脳に戻りやすい。これは、もはや法則といっていいだろう。というのも、私たち人間には、感情を表に出しきることが必要だからだ。

そのため、一旦ヒト脳に移っても、すぐにサル語に戻さなくてはいけないかもしれない。それを心得ておこう。そのあとでヒト脳に戻って、またヒト語が使えるようになるはずだ。

さて、ここまで3つの脳への対応について説明した。私たちはみんな、この3つの段階を経なければならない。こうした段階をとても速く経過できる人もいる。もっと時間がかかる人もいる。速さは人それぞれだ。


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私自身、私生活や職場で悪い知らせを受けたときのことを振り返ると、1つのパターンが見えてくる。

レーナ・スコーグホルム著、御舩由美子訳『あいては人か 話が通じないときワニかもしれません』(サンマーク出版)

はじめは、ひどい寒気に襲われ、全身が凍りついたように硬直する。頭が混乱し、まともに考えることができない。だから、話を理解するための時間がいくらか必要になる。また、話は手短に伝えてもらいたい。それがどんな話かわかったとたん、理性的に考えられなくなるからだ。

次の段階では、内面にあらゆる感情が湧きあがってくる。それをあらいざらい吐き出したくなるかもしれない。話を伝える人には、私が感情を表に出しても恐れないで、共感してもらいたい。安心感があって、私が感情の渦にのまれていることを理解してくれる人がいい。はやばやと次の段階に移り、筋道を立てて話すのではなく、ただそこに一緒にいてほしい。

最初の衝撃が過ぎ去って、気持ちがいくらか落ち着いたら、頭のなかを整理したくなる。その問題について理性的に話し合いたい。「これは私にとって何を意味するのか?」「何ができるのか?」「ほかにとるべき道はあるか」など。

ワニ脳、サル脳、ヒト脳は、それぞれ表現の場を必要としている。話を伝える人には、どれも尊重して対応してもらいたい。できるだけ少ないダメージでその話が受け入れられるように。その状況としっかり向き合えるように。

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