【高石あかり主演NHK朝ドラ「ばけばけ」スタート】“ぶっ飛んだ丑の刻参り”で幕開け 漂う「不穏」な気配もOPは朝ドラ史上最高の癒し

独特の雰囲気だった初回の冒頭(c)NHK この記事の写真をすべて見る

 高石あかりがヒロイン・松野トキを、トミー・バストウがその夫を演じる朝ドラ「ばけばけ」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)が9月29日に始まった。物語は、明治時代に松江で育った没落士族の娘・トキと、異国から来た作家レフカダ・ヘブンの出会いを軸に描かれる。モデルとなったのは「怪談」で知られるラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・小泉セツだが、朝ドラらしく大胆な再構成が施され、人物名や設定はフィクションとして描かれている。第1週の前半は、後年のトキが夫の前で怪談を朗読するシーンから始まり、家族そろっての「丑の刻参り」や、子ども時代の夢や挫折、そして父の怪しげなウサギ商売まで、非常に振れ幅の大きな展開だった。

【写真】朝ドラ、しかも初回なのに?「わら人形」にくぎを刺すトキの父親はあの人

*   *   *

丑の刻参りと没落武士の悲哀

 初回冒頭、後年のトキ(高石)が夫・ヘブン(バストウ)の前で「耳なし芳一」を朗読する場面は、朝ドラのスタートとしては異例の静けさと緊張感を帯びていた。

 前作の「あんぱん」が「アンパンマン」の作者、やなせたかしさんと妻の暢(のぶ)さんをモデルにしていたため、ギャップも相まって怪談というテーマに度肝を抜かれてしまう。しかし、厳かに語りかけるトキの声を楽しむヘブンに応えるように、トキは「では、私の話をしましょう」と続ける。

 これこそが本作全体の大きなフレームであり、朝ドラヒロインが自らの人生を物語として再構築していく、メタ的な語りの構造が鮮やかに提示された瞬間だった。

 そこから切り替わるオープニングは、すでに多くの視聴者を魅了している。写真家・川島小鳥が撮影したトキとヘブンの写真を、ハンバート ハンバートの「笑ったり転んだり」に合わせてシンプルにつなぐ構成。CGや映像的な派手さを廃し、写真の表情や空気感だけで勝負する潔さが、強く胸に残る。

 松江の小泉八雲ゆかりの地を背景にしたカットが連なり、ふたりの仲睦まじさと世界観が凝縮されている。毎朝見ていると、歌と写真が心を和らげ、ドラマの余韻を大きく広げてくれるようだ。半年間寄り添う顔としては、まさにベストなのではないか。

 オープニング後、一気に空気は一変した。なんと一家そろって「丑の刻参り」をするという衝撃の展開。幼いトキ(福地美晴)の父・司之介(岡部たかし)が木に藁人形を打ちつけ、「最高の夜じゃ」と陶酔する姿は、朝ドラらしからぬ不気味さとおかしさを兼ね備えている。妻のフミやトキは困惑しきりだが、没落士族の誇りにしがみつき、理不尽な時代を呪うしかない姿が鮮烈に描かれる。

 初回で印象的なのは、幼いトキが「化け物を絵に描き、退治する」という絵を描き、才能の萌芽をすでに見せていたこと。化け物を可視化し、物語にする行為は、のちにトキが「再話文学」で力を発揮していく前兆でもある。怪談と日常、時代の変化と家族の葛藤が交錯する本作らしい場面だった。


Page 2

初回から衝撃的だった司之介(岡部たかし)の「丑の刻参り(c)NHK

 第2回では、子役の福地美晴が演じるトキの可愛らしさが存分に発揮される。小学校で将来の夢を問われたトキは、親友・サワ(小山愛珠)に影響されて「教師になりたい」と答える。しかし、武家の娘に働き口は不要と、松江で随一の名家に生まれた親戚のタエ(北川景子)に否定され、落ち込む。

 ここに現れるのがタエの夫・傳(堤真一)だ。トキの可能性を信じるような存在感を見せ、彼女の人生を後押ししていく役割を予感させた。

「教師になりたい」と夢を語るトキと、時代遅れの価値観に囚われる大人たち。明治初期の社会の断層を、子どものまっすぐな目線を通して描いた回だった。加えて、ふたたび挟み込まれるオープニング映像の心地よさが、またもや物語にアクセントを加える。

 第3回では、父・司之介がついに“商い”に乗り出す。しかしそれは、ウサギを使った謎めいた商売だった。文明開化の時代に「珍しいウサギが高値で売れる」との触れ込みに飛びついた司之介。母・フミは「怪しい」と疑い、祖父・勘右衛門(小日向文世)は「なしてウサギなのじゃ!?」と激高するが、娘のトキが間に入り、なんとか矛を収めさせる。

 一時的には大儲けし、食卓も豪華になり、松野家には光が差し込む。しかし同時に、借金を重ね、危うい道に踏み込んでいく司之介の姿が、容易に浮かび上がる。そこでフラッシュバックするのは、街を歩くトキが目にした、借金のかたに売られていく女性たちの姿だ。橋を隔て、武家の町と商人の町が分断されているという司之介の説明も、後の展開に重く響きそうだ。

 そして終盤、司之介のかつての部下であり、怪しいウサギ商売の紹介者でもある金成(田中穂先)が簀巻きにされる不穏なカットもあった。背を向けて川辺に立つ男は、父・司之介ではなかったか。羽振りの良さの裏で、足元が崩れていく松野家の未来を暗示するような幕切れだった。


Page 3

ばけばけ
2025/10/01/ 20:00
トキにも武士の娘としての品格を求め、礼儀作法やお茶などの教養を厳しく教えている北川景子演じるタエ(c)NHK

「ばけばけ」の第1週は、怪談朗読から始まる独特の導入と、写真による癒しのオープニング、そして家族で丑の刻参りをするという“ぶっ飛んだ”展開が入り混じり、強烈な印象を残した。

 子役・福地美晴の存在感は「癒し」の象徴であり、父・司之介のウサギ商売は「不穏」の象徴。その両極を巧みに織り交ぜることで、作品全体のトーンを提示した週だったといえる。

 また、トキが夢見る「教師」という職業と、武家の誇りに縛られる大人たちとの対比は、彼女が時代の波をどう乗り越えていくかを示す重要な布石。さらに「橋」や「川」といったモチーフが繰り返し登場し、階層や価値観の境界を象徴している点も見逃せない。

 ヒロイン・トキがどのように自らの物語を語り、ヘブンと出会い、未来へ進んでいくのか。怪談と朝ドラ的家族劇をかけ合わせた稀有な試みは、どこまで膨らんでいくのだろうか。

(北村有)

関連記事: