「大嫌いだった地元」青森で学生起業。留学も東京も経験した早稲田大生は、なぜローカルを選んだのか(BUSINESS INSIDER JAPAN)

高さ10メートルにも及ぶ山車が、お囃子を響かせながらゆっくりと街を練り歩く。浦島太郎や金太郎。神話や歌舞伎、おとぎ話をモチーフにした豪華絢爛な山車は、町内ごとの山車組が1年かけて作り上げるものだ。山車を引く人、お囃子を奏でる人、山車をつくる人。子どもから大人まで、多世代の手で支えられている。 青森県八戸市で約300年続く伝統の祭り、八戸三社大祭。2025年8月、この祭りに都内の大学生が加わった。 期間は5日間。日中は県内企業で働き、夜は山車を引き、地元の人たちと酒を酌み交わす。滞在先は地域住民の自宅だ。 「おまつりインターン」。 地域に暮らしながら、この地で働くリアルを体験するプログラムだ。 この事業を手がけたのが、センベイの古井茉香さん。目的は地域企業の新卒採用エントリーを増やすことにある。 2025年に初開催すると、首都圏の大学・大学院に通う6人が参加。八戸三社大祭と青森ねぶた祭の期間に合わせて、仕事と祭り、暮らしを体験した。 参加者の1人はこの春、青森みちのく銀行に入行した。他にも県内企業の選考に進む参加者がいる。規模は小さいが、確実にローカルでのキャリアを後押しした。

古井さんは青森県八戸市の出身だ。だが、その視線は常に外に向いていた。 外交官を目指し、高校時代には英語を磨くためにアメリカへ留学。現地での経験を通じて、今度はソーシャルビジネスで起業したいと考えるようになる。 そのための進学先として志望したのもアメリカの大学だった。合格はしたものの、奨学金を得られず断念。結果的に進学したのが早稲田大学だった。 当時の心境を、古井さんはこう振り返る。 「自分が活躍する場所は、(青森の)外だと思っていました」 地元ではロールモデルとなるような女性と出会う機会が少なく、自分がそこで活躍する未来を思い描くことができなかった。 大学進学後は、起業を見据えて動き出した。ベンチャーキャピタルでのインターンに加え、授業と並行して新規事業の立ち上げにも取り組んだ。「三足のわらじ」を履くような生活。 周囲には短期間での急成長を目指すスタートアップ起業家の友人も多かった。刺激を受けながら、自身もひたすら走り続けた。 だが次第に、違和感が生まれる。 「何のために、こんなに早く会社を大きくしようとしているんだっけ」 寝る間を惜しんで事業を考え、夜遅くまで学業と仕事に向き合う日々。その負荷は、やがて身体にも表れた。突発性難聴だった。


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地元のお祭りである八戸三社大祭に初めて参加したのはその頃だ。体に不調を来した自分に落ち込んでいた時期でもあった。 海外の友人に文化体験をしてもらおうと訪れたが、感化されたのはむしろ古井さんの方だった。 子供から高齢者まで幅広い年代が参加し、一つの山車を作りあげ、引き回す。ものづくりや音楽、アートといった要素が自然に溶け込み、同時に人との関わり方やマナーも受け継がれていく。 「インクルーシブでイノベーティブで、トラディショナル。東京の人たちが沢山のお金を投資して得ようとしていることが、ここにある」 地域の見え方が変わった。 当時の思いを、古井さんはこう記している。 「耳が聞こえなくても、頭がいいことを話せなくても、赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃんと一緒に綱を引いて参加するだけで、感謝してくれる人がいるんだってすごく衝撃を受けたんです。私みたいな人でも、この大切なお祭りを後世に繋いでいく担い手の1人になれる、生きててもいいんだという気持ちになった」 こうした経験と気づきが、後の事業につながっていく。

以来、継続的に八戸三社大祭に関わる中で、古井さんはもう一つの違和感に気づくようになる。祭りは毎年7月31日から8月4日までの5日間。地元を離れて働く若者たちは、この時期に合わせて有給休暇を取り、八戸に帰ってくる。 酒席で、古井さんは問いかけた。 「なぜ、こちらに住まないんですか」 返ってきたのは、こんな言葉だった。 「帰りたくないわけじゃないけど、仕事がない」「切磋琢磨できる同世代がいるか分からない」。 この感覚は、決して八戸市に限ったものではない。 例えば、筆者の地元である静岡県三島市にも三日間続く大祭りがあり、これを目当てに帰省する人は多い。かつて取材した浜松市の凧揚げ合戦「浜松まつり」でも、同じような話を聞いた。祭りは「帰る理由」にはなるが、「住む理由」にはなりきらない。そこには、暮らしや仕事という現実的なハードルがある。 一方で、起業準備の過程で出会った青森のビジネスパーソンは、東京で出会う「いけてる人たち」と変わらないように感じられた。 「青森にも、魅了的な仕事人はいる。祭りの期間中は働く姿を見ていないから、知らないだけなのかもしれない」 祭りの5日間。その時間の一部を、地域での仕事やキャリアを知る機会に変えられたら──。 そう考えた古井さんは、大学3年生だった2025年、青森でセンベイを立ち上げた。社名は、八戸地域発祥とされる「南部せんべい」に由来する。

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