「一人っ子政策」廃止から10年、出産奨励策の効果薄く 中国
北京(CNN)中国政府が出生率の低下は経済成長を妨げかねないとして「一人っ子政策」を廃止してから、今月1日でちょうど10年。だがその後の出産奨励策にもかかわらず、人口増加は実現していない。
中国の人口は2024年まで3年連続で減少した。24年の出生数は前年をわずかに上回ったものの死亡数には追いつかないうえ、これは一時的な現象にとどまる見通しだ。
総人口14億人のうち、60歳以上が占める割合は20%を超え、国連の予測によれば2100年までに50%にも達する可能性がある。この状況は中国の経済だけでなく、米国に並ぶ軍事大国を目指すという野望に影響を及ぼすかもしれない。
習近平(シーチンピン)国家主席は「人口の安全保障」が必要との考えを示し、「質の高い人口発展」を国家の優先課題に位置づけた。今後さらに出産、結婚の奨励策が導入される見込みだ。
だが出生率を上げるには若者の失業率や子育てにかかる費用など、根本的な問題に対処するべきとの見方も強い。
さらには一人っ子政策の後遺症で男女比が不均衡になったり、社会保障制度の整備が遅れた農村部などで一人っ子世代が親の介護を一手に担う状況に追い込まれたりしている。
支援金は「スズメの涙ほど」中国では人口の急増が貧困脱却の妨げになりかねないとの懸念から、1980年に一人っ子政策が正式に施行された。
だが今では、国が豊かになるより先に年老いてしまうことが懸念されている。
当局は容赦のない人口抑制策から急転換し、結婚と出産を「国家の未来へのカギ」になるとして奨励し始めた。その一例として、今月1日からはコンドームなどの避妊具に付加価値税を課している。
各地の地方政府は近年、税制優遇措置から持ち家や貸家への経済的支援、給付金、育児休暇の延長まで、さまざまな奨励策を試みてきた。SNS上では、地域の相談員から電話で子どもを持つ予定を聞かれたと報告する女性たちもいる。
最近では中央政府が主導権を握り始め、3歳未満の子どもがいる世帯に年間3600元(約8万円)を支給する制度が昨年から始まった。また結婚の手続きが簡素化され、公立幼稚園で就学前1年間の費用が免除された。
政府はさらに、病院で出産する費用の自己負担分を今年中にゼロとする方針を示し、先月には保育サービス向上に向けた法案を提出した。
それでも、実際の子育てコストは今のところほとんど下がっていないとの声が多い。中国のシンクタンク「育媧人口研究」による2024年の研究でも、中国は子育て費用が最も高い国のひとつだった。
上海で9歳の息子を育てる女性(34)はCNNとのインタビューで「大都市圏で子どもを育てるコストはあまりに高すぎ、支援金がスズメの涙ほどに思える」「それならばぜひ産みたい、という気持ちにはなれない」と話した。
「子どもなど持てるわけがない」コロナ禍以降に成人した中国の若者たちにとっては今、自分たちの生活が精一杯で、出産を奨励する政策は的外れと映る。
若者たちの失業率は高止まりが続き、就職できない大卒者の数も記録的な水準に達した。
エンジニアとして働く男性(27)は、家庭を持ちたいとは思うが、経済的にまだ親に頼っている状態だという。CNNとのインタビューで「まず金を稼げなければ、子どもなど持てるわけがない」と話した。
結婚率の低さも出生率上昇の障壁となっている。若い女性の多くは自身のキャリアに集中しており、女性がフルタイムで働くだけでなく子ども教育も管理しなければならないような根強いジェンダー規範を拒否している。
大学院の修士課程に在籍する女性(24)はCNNに「子どもを産むためだけに人生を送るのは嫌だ。自分の人生を生きたい」と語った。
「出生率低下は不可逆的」中国で深刻化する人口問題は、さまざまな要因が重なった結果だ。出生率の低下に悩む世界各国でもみられる流れに、一人っ子政策の後遺症が拍車をかけ、教育水準の高まりや結婚観の変化、急速な都市化、育児コストの上昇も絡んでいる。
米シンクタンク「外交問題評議会(CFR)」の上級研究員、黄延中氏は、中国の労働力と消費者層の縮小や、今後さらに膨れ上がる高齢者ケアのコストが、経済に「深刻」な影響をもたらすとの見方を示した。
中国政府は退職年齢を段階的に引き上げるなど、年金制度の改革に取り組んできた。習氏の指揮の下、労働力減少への対策としてロボットによる工場の自動化も急いでいる。
だが出生率の実質的な上昇や、年間1000万人を超えるような出生数の復活となると、専門家は相変わらず実現を疑問視している。
上海財経大学滴水湖高級金融学院の姚洋院長は、「20年前に一人っ子政策から転換していればずっとましだっただろうが、もう遅すぎる」と指摘。出生率は今後の政策で変動したり安定したりするかもしれないが、長期的にみれば様々な理由から「低下は不可逆的だ」と主張した。
北京に住む女性(57)は、子どもを1人だけ育てた。「私たちの世代に2人目の子どもを考える人は周りにほとんどいなかった」と振り返りつつ、「当時、私の思考は一人っ子政策に縛られていたと思う。今振り返れば、実は子どもを2人どころか、もっとたくさん欲しかったことに気づく」と語った。