英労働党の牙城で下院補選、野党・緑の党が歴史的勝利 スターマー首相は「戦い続ける」と
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ポール・セッドン政治記者、ベッキー・モートン政治記者
英イングランド北西部グレーター・マンチェスターのゴートン・アンド・デントン選挙区で26日、下院議員の補欠選挙があり、野党・緑の党が勝利した。同選挙区は長年、与党・労働党の牙城だったが、労働党は3位に転落。野党・リフォームUKは2位だった。
この大敗を受け、キア・スターマー首相は「戦い続ける」と誓った。スターマー氏はここ数カ月、政権支持率の低下や、政策をめぐる数々の方針転換などを受けて、一部の労働党議員からその指導力を疑問視されてきた。そうした中での今回の結果は、すでに苦境に苦境に立たされているスターマー氏にいっそうの圧力をかけるものとなった。
緑の党が下院補選で勝利するのは今回が初めて。緑の党候補の配管工ハナ・スペンサー氏(34)は、同党として初めてイングランド北部選出の下院議員になる。
スコットランド、ウェールズ、イングランドの一部地域で地方議会選を5月に控える中での、補選での敗北に、スターマー氏の指導力に対する労働党議員の批判が改めて強まっている。地方議会選はスターマー氏の首相としての力量を測る試金石になると、広く受け止められている。
スターマー氏は開票結果を受け、「戦い続ける」と誓い、労働党の立て直しに向けて「苦しい作業を進めている」と強調した。
一方、労働党の左派で、スターマー氏の対抗馬と目されるアンジェラ・レイナー元副首相は、労働党の敗北を「目を覚ますための警鐘」と受け止めるべきだと主張。政府に対して「より勇敢な」対応を求めた。
また、労働党が約1世紀にわたり議席を維持してきたゴートン・アンド・デントン選挙区で敗北したのは、グレーター・マンチェスターのアンディ・バーナム市長の補選出馬をスターマー氏が阻止したからだとの非難も上がった。バーナム氏も、労働党の次期党首候補になり得るとみられる人物。
バーナム氏はこれまでのところ、補選の結果についてコメントしていない。27日夕にはマンチェスター市内でのイベントに出席したが、会場の外で記者団には応じなかった。
今回の補選は、労働党にとって重要な戦略的試金石と位置づけられていた。同選挙区では、住民の大部分を労働者階級が占め、学生やムスリム人口も多いためだ。
スターマー氏は補選での敗北後に議員に宛てた書簡の中で、緑の党が「分断的で宗派的」な政治手法採用していると非難。同党は「彼らが装っているような無害な環境保護主義者ではない」ことを示したと付け加えた。
さらに、緑の党の政策は「過激」だとし、総選挙では、「今回の勝利を再現するだけの資源も、活動家の基盤も、地域的な知識」も同党にはないと主張した。
これに対し、緑の党のザック・ポランスキー党首は怒りをあらわにし、スターマー氏が「有権者を過激派だと中傷」しようとしていると非難した。
補選で勝利し、緑の党の5人目の下院議員となったスペンサー氏も、宗派的な政治を行っているとの主張を一蹴。緑の党は、生活費高騰や公共サービス、パレスチナ・ガザ地区での戦争といった共通の関心事で有権者を結束させたのだと強調した。
スペンサー氏は、「私は心の底で分かっているし、ここにいる誰もが分かっている。ここにいる誰もが一員だと」と述べた。
「誰もがニーズを満たされるべきだ。誰もが民主主義の中で声を持つべきだ」
緑の党はゴートン・アンド・デントン選挙区を、獲得を目指す127番目の選挙区としていた。そこで勝利したことで同党は、「どこでも勝利できる」ことを示したとスペンサー氏は述べた。また、5月のイングランド地方議会選やウェールズ議会選でのいっそうの躍進を予見する「始まりに過ぎない」とした。
ポランスキー氏は5カ月前に緑の党党首に就任して以来、これまでも注力してきた環境問題に加えて、経済面では左派色の強い訴えを展開し、有権者の支持を集めている。同氏は「エコ・ポピュリスト」を自称している。
その政策には、地方自治体に家賃規制の権限を付与することや、学校給食の無償化の対象を全児童に拡大すること、1000万ポンド(約21億円)超の資産を対象とした新しい「富裕税」の導入などが含まれる。
今回の補選では、投票ブース内で有権者が他の有権者に影響を与えようとする事例が「極めて高い」頻度で確認されたと、選挙監視団体「デモクラシー・ボランティアーズ」が報告している。これは、イギリスでは「家族投票」と呼ばれ、犯罪にあたる。
同団体によると、選挙区内15カ所の投票所で有権者545人を監視したところ、32件の「家族投票」が確認された。
こうした報告を受け、保守党とリフォームUKの双方が選挙管理委員会に調査を要請した、選管は「提起された点を慎重に検討する」としている。リフォームUKは警察にも捜査を求めている。
リフォームUKのマット・グッドウィン候補は、自党が「労働党の最も強力な議席の一つで、労働党に恥をかかせた」と述べた。
グッドウィン氏は、緑の党の勝利を「イスラム主義者とウォーク(woke、社会問題への認識が高いこと)の連合」と形容し、「イギリス政界に危険な宗派主義が出現した」とした。
最大野党・保守党のケミ・ベイドノック党首は、補選の結果が「キア・スターマーの首相としての地位が終わったことを示している」と指摘。スターマー氏が「少しでも誠実なら」辞任するはずだとも述べた。
労働党が長年勝ち続けていたこの選挙区での補選で、保守党は当選を争う状況にはなかったものの、得票は706票にとどまり、自由民主党とともに供託金を没収される結果となった。
労働党内ではこれまでのところ、補選の結果をめぐりスターマー氏を公に非難しているのはおおむね、同氏の指導力をたびたび批判してきたカール・ターナー議員、リチャード・バーゴン議員、ナディア・ウィトム議員といった、下院本会議場の後方席に座る「バックベンチャー」と呼ばれる一般議員に限定されている。
しかし、さらに多くの議員が匿名を条件にBBCラジオ5ライブのマット・チョーリー司会者に対し、スターマー氏は辞任すべきだと話した。
議員の1人は補選結果について、「労働党とキア・スターマーの首相としての地位にとって、顔を殴られるようなもの」だと述べた。
「キアは、自分がいかに国民の間で不人気か、反省しなければならない」と、別の議員は話した。
一方で、複数の議員は、慎重に対応すべきだとしている。労働党議員の1人は、自党は「我々に必要な支持層の一方の懸念に反射的に対応するのは避けるべきだ。もう一方の支持を失う代償を払うことになるので」と述べた。
別の議員は、スターマー氏に代わる「明確な代替候補はいない」ため、党首選に踏み切れば「壊滅的な」事態になるだろうとした。