プーチンが頭を抱えるわけだ…武器をもらう側だったウクライナが、開戦4年で"ドローン大国"に化けた理由
※本稿は、宮崎正弘『次の戦争を人間が決めない日』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/alxpin■ドローンを「売る側」になったウクライナ
ロシアのウクライナ侵攻開始後、欧米はウクライナへの膨大な武器供与を開始したが、長距離ミサイルなどは厳重に規制した。ウクライナにはミサイルではなく、ドローンを供与せよと言っていた。しかし開戦から5年後、欧米はウクライナからドローンを輸出してもらおうということになったのだ。主客逆転である。
とくにトランプ政権はイラン攻撃によりミサイルの在庫が底をつきそうである。くわえてドローンが決定的に不足していた。ひそかにゼレンスキー大統領に打診し、ドローン輸出を要請したという。この商談は100億ドルから300億ドルになると予測される。
現在、ウクライナの防衛製造における主要パートナー国は、英国(空中および海上ドローン)、ドイツ(砲弾、防空システム、装甲戦闘車両)、ノルウェー(ドローンとスマート兵器)、チェコ(迎撃ドローンと防空)、デンマーク(砲兵システム)で、ウクライナ政府は2026年末までに欧州諸国、とくにバルト三国と北欧諸国に10カ所の輸出センターを設立する。ドローンの輸出に力点を移すのだが、現地生産も軌道に乗り、すでに英国では生産を開始、2026年3月にはドイツでもウクライナ製ドローンの生産が開始される。
■戦果の8割を稼ぎ出す
ロシア軍優勢と言われたのは2025年初頭までで、ウクライナが奇跡的にレジリエンス(回復力)を発揮している。戦局を変えたのはドローンである。まさに戦争は発明の母だ!
現在、ウクライナの年間ドローン生産量は300万~600万機といわれる。ロシアの兵器などの標的を破壊もしくは損傷させたうちの80%はドローンによる。
とくに特殊ドローン部隊は「マディヤルの鳥」と言われ、その戦果を称えゼレンスキーは部隊関係者を表彰したという。
ウクライナは2026年中には700万機のドローンを生産すると豪語している。じつに450社以上のドローン関連企業が活動している。
このドローン大国への変貌に、欧米の防衛企業や投資ファンドが注目した。2026年2月、ゼレンスキーはウクライナの武器輸出を正式に承認した。ウクライナはもはや中国の技術を必要とせず、独自の改良で「ドローン大国」となったのだ。
■ドローン開発に勤しむウクライナの若手世代
ゼレンスキーは2026年が「ウクライナの技術への投資の年」になると考えており、その推進の中心にドローンが位置づけられている。「今日、欧州の安全保障はテクノロジーとドローンの上に成り立っている」とし、「ウクライナのテクノロジーと専門家に支えられ、いくつかの多国籍プロジェクトが進行中だ」と指摘した。
直近でもキーウ(キエフ)を拠点とする防衛技術企業「フォース・ロー」は、米国の公共安全技術グループ「アクソン」の支援で資金を確保した。投資額は明らかにされていない。フォース・ロー社によると、この資金は、シャヘッド型攻撃ドローンへの対抗策や都市および重要インフラの防衛を目的とした新たな自律機能の研究開発に充てられる。
同社のアンチシャヘド(イランのドローン迎撃)は、AI搭載型でロシア・イランの攻撃ドローンを人間の目よりもはるかに速く検知し、迎撃する。
ウクライナは当初、中国の技術に依存していたが、この問題を独自に解消し、「カミカゼ・ドローン」などを開発してきた。ウクライナの若手デジタル世代が育成された。ちなみにカミカゼ・ドローンとは徘徊可能な時間内に目標が発見できなかったときには自爆するというものだ。
■部品には日本製の光ファイバーも
最新型カミカゼ・ドローンはAI搭載、アルミフレームで、時速70キロ以上、航続距離700キロ。ただし搭載できる爆弾は50キロなので破壊殺傷能力はミサイルに劣る。だから数を飛ばすことで集団攻撃の威力を発揮する。部品の一部、光ファイバーなどは日本製が使われている。
米国のウクライナ系投資ファンド「MITSキャピタル」は、ウクライナの「テンコア社」に374万ドルの投資を決めた。多目的無人地上車両2000台を生産する。
戦場通信の「テレタクティカ」社には米ファンドが150万ドルを投資する。
またデンマーク最大の防衛企業「テルマ社」はウクライナの「ODDシステム」と提携し、迎撃用のAI搭載ドローンを開発する。ODDはもともとカメラの会社である。
このほか米国の4つのファンドが合計1億ドルの投資を決めた。ウクライナのモーター企業「アエロモーター」にスウェーデンが55万ドルを投資、生産能力を3倍に上げる。
エストニアの「ファーサイト社」は地理空間認識、対応システム、防衛ロボットの自動化のため860万ドルをウクライナに投資する。
■「戦争は0.001秒で決まる」時代へ
2026年3月7日、トランプは大手防衛企業の経営陣と会談し、「高性能兵器」の生産を「可能な限り迅速に4倍にする」話し合いを行った。トランプはヘグセス国防長官とともに、米国最大級の防衛企業の最高経営責任者(BAEシステムズ、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン、RTX、ボーイング、ハネウェル、L3ハリス・テクノロジーズ)と会談し、加速生産プログラムのもとでの弾薬備蓄の迅速な拡大を協議した。
これらAI搭載の新兵器は従前の何を時代遅れとしたのか?
弓矢の時代は鉄砲の登場で終わり、巨艦大砲主義はミサイルの出現で終幕した。中国が空母キラー・ミサイルを保有したため、米空母の行動範囲は狭められた。次はAI搭載の兵士ロボットが新しい戦争形態となる。ハッカーが敵の指揮系統を破壊すれば、戦争は0.001秒で決まる。現に中国とロシアのハッカー軍団はAI、チャットGPTを駆使し世界中のデータを蒐集した。
イーロン・マスクの大躍進の裏方もピーター・ティールだった。彼が最初にマスクと一緒に立ち上げたXドットコム(ペイパルの前身)を15億ドルでe Bayに売却した差益がマスクのスペースXの立ち上げ、テスラ買収へとつながった。付加価値が出ると自分の会社であっても高値で売り抜けるのだ。こうしたドライさは情緒を重んじる日本社会では考えにくいことである。
イーロン・マスク(画像=Gage Skidmore/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)■追放されたマスクに訪れた「望外の幸運」
やがて開発方法をめぐってピーター・ティールたちと喧嘩を始め、イーロン・マスクはXドットコムのCEO(最高経営責任者)から追放された。スティーブ・ジョブスが一度、自らが創業したアップルを追われたように、サム・アルトマンがわずか5日間ほどでオープンAIのCEOを追われたように。
イーロン・マスクにとってこの追放は皮肉にも次の幸運をもたらした。当初、数十万ドルであった投資がやがて株価急騰によって数百億ドルの大富豪となったのはXドットコムを追放されて、スペースXを立ち上げることができたうえ、テスラ買収の軍資金を得ることになったからだ。
宮崎正弘『次の戦争を人間が決めない日』(ワニブックス)ウォール街の専門家たちは「次の10年で宇宙ビジネスは1兆ドルから1.4兆ドルに化ける」と予測している。過去10年間を振り返ってもすでに2500億ドルが、2000社以上の宇宙ビジネス企業に投下された。
2012年にイーロン・マスク率いるスペースXは国際宇宙ステーションに物資を運搬し、そのあと地球に無事に帰還させ、米露中の列強が独占してきた宇宙分野に民間企業が参入すると言い放った。だが、最初のうちは打ち上げに連続して失敗した。
資金が枯渇したときにイーロン・マスクに救いの手を差し伸べたのがピーター・ティールだった。彼らは時に派手な喧嘩をするが、その根底には常に友情がある。
----------宮崎 正弘(みやざき・まさひろ)評論家
1946年生まれ。石川県出身。早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。1982年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材に定評がある日本を代表する中国ウォッチャー、海外からも注目されている。近著に、『常識 コモンセンスで取り戻す日本の未来』(ハート出版)、『豊臣兄弟と家康』(育鵬社)、『テクノ・リバタリアンの野望』(ワック)、『あの人の死にかた 死ぬことは生きることである』(ビジネス社)、『ステルス・ドラゴンの正体』『悪のススメ』(いずれもワニブックス刊)など。著作は300冊近い。5冊が中国語に翻訳されている。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。
----------(評論家 宮崎 正弘)