USスチール買収合戦、米クリフス側にも鉄鋼業界共通の課題
ゴンカルベス氏はUSスチールに買収を再提案するとの方針を明確に示すに当たり、日本は中国よりも邪悪な勢力だと言い切った。さらに日鉄の橋本英二会長らがクリフス側を強い調子で非難したことを「追及する」と述べ、記者会見は異様なムードだった。米CNBCテレビによると買収価格は1株当たり「30ドル台後半」に達する可能性があり、ニューコアと提携する形で行われる。
クリフスはニューコアと組むことでリスクの分散が可能になる。バイデン米大統領は日鉄によるUSスチール買収を国家安全保障上の理由から認めず、両社はこの決定を覆すべく訴訟を起こしているが、クリフスも規制面で障害に直面している。自動車業界団体はクリフスとUSスチールの合併に反対し、高炉製鋼や電気自動車(EV)用モーター向け電磁鋼板市場を独占する恐れがあると訴えている。クリフスは電炉事業をニューコアに売却することにより、こうした懸念に対処する可能性がある。
ニューコアの企業価値は調査会社ビジブル・アルファによる2025年の予想EBITDA(利払い・税・償却前利益)の7倍。ニューコアがクリフスの電炉事業を自社と同じ水準で評価するなら価格は47億ドルとなる。負債を加えると1株あたり39ドルを提示するためにクリーブランドは65億ドルを用意する必要がある。Breakingviewsの試算によると、ゴンカルベス氏が以前言及した5億ドルのコスト削減が実現したと仮定し、USスチールの約4億8000万ドルの税引き後営業利益に加えると、投資の予想リターンは13%超となる。
この買収価格は日鉄が提示した1株あたり55ドルを現金で支払う案や、クリーブランドが以前提示した現金と株式による同54ドルの提案を大幅に下回る。
しかし、実際には事はこのようには運ばないだろう。クリフスの株価は過去1年間で42%下げており、今同じ提案を行うならUSスチールの評価額は1株42ドルにとどまる。
クリフスに限らず鉄鋼業界は全体で株価が下落している。ビジブル・アルファによると2024年初頭以降、米金融機関アナリストはUSスチールの今年のEBITDA予想を34%引き下げており、USスチールのデービッド・ブリットCEOが進める電炉移行の効果が帳消しになり、同氏の発言力は弱まっている。
もっとも状況はかなり複雑だ。日鉄は6月までに買収提案を撤回する可能性があり、トランプ次期米大統領が今月20日に就任して鋼材に対して新たに大規模な関税を導入すれば市場が大きく変動することもあり得る。USスチールを巡る争奪戦は激しさを増すばかりだが、まだ何もかもが流動的だ。
●背景となるニュース
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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