「世界最大の人道危機」スーダン内戦で動くトランプ政権 鍵握るUAE、要衝陥落で虐殺も
2年半にわたるアフリカ・スーダンの内戦で、国軍との戦闘を続ける準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」がこのほど、米国などの提案した3カ月間の「人道的停戦」に同意すると発表した。国軍側は態度を明らかにしていない。スーダンでは10月下旬、西部ダルフール地方の中心都市ファシェルがRSFによって制圧され、現地住民が多数虐殺されていると伝えられるなど人道危機が深刻化している。
RSFが「人道的停戦」に同意
住民への物資搬入などを目的とした3カ月間の「人道的停戦」は9月、米国とサウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)が共同声明で呼びかけた。トランプ米政権は10月下旬、この4カ国での高官会合を米ワシントンで開くなどスーダン情勢を巡る働きかけを強めていた。
RSFは11月6日、「人道的停戦」を受け入れて協議に応じる用意があると発表。米国務省の報道官は6日、「(RSFと国軍の)双方が米主導の停戦努力に応じて前進することを求める。暴力を早急に低減させ、スーダンの人々の苦しみを終わらせる必要がある」(ロイター通信)と訴えた。
国軍の出方が現時点では分からず、RSFは6日以降も攻撃を続けていると報じられている。スーダン内戦ではこれまでに何度も停戦合意が破られてきた経緯があり、先行きは全く予断を許さない。ただ、10月下旬以降のファシェルでの虐殺情報を受けて国際社会の関心が高まっており、今回の停戦努力には「かすかな希望」(英紙フィナンシャル・タイムズ)があるとの評価も出ている。
相次ぐ大量殺害の報告
ファシェルは国軍の拠点だったが、1年以上にわたる包囲戦の末、RSFが10月26日に掌握を発表した。この直後からRSFによる住民の大量殺害に関する報告が相次いだ。
世界保健機関(WHO)によると、ファシェルの病院ではRSFの襲撃で460人が殺害された。米エール大の調査チームは10月27日、倒れた人々の周囲で地面が赤っぽく変色している様子をとらえた衛星画像などを公開し、ファシェルで「住民の大量殺害が行われている」と断じた。
また、ロイター通信はファシェルを脱出した住民らの証言として、民間人が銃撃やドローン攻撃によって多数殺害されていると伝えた。「一つの道路だけで50~60人が銃殺された」と話す住民もいた。ターク国連人権高等弁務官は「即決処刑やレイプ、民族的動機に基づく暴力といったひどい残虐行為が続いていることを危惧する」と述べた。
11月3日、スーダン中部の難民キャンプで水を飲む子供(ロイター)国際刑事裁判所(ICC)は11月3日、ファシェルの状況について声明で「重大な警告」を発し、戦争犯罪や人道に対する罪での訴追を視野に証拠収集を続けていると説明。国連機関や人道支援団体などの連合体「IPC」は3日、ファシェルでの飢饉(ききん)発生を確認したと発表した。
豊富な資源、周辺諸国の干渉
スーダンでは2021年に国軍がクーデターで実権を掌握したが、軍統合を巡りRSFと調整がつかず23年4月に内戦が始まった。RSFはかつてダルフールで黒人集落を無差別に襲撃したアラブ系民兵が母体で、黒人系住民の殺害や虐待がしばしば指摘されてきた。
11月2日、ファシェルの人道状況などについて記者会見で話すスーダンの駐エジプト大使=カイロ郊外(ロイター)スーダンには金や石油などの資源が豊富で、周辺諸国の思惑や干渉が紛争の長期化を招いた。国軍はエジプト、トルコ、イランなどの支持を得ているのに対し、UAEがRSFを支援してきたとされる。
RSFの司令官はダルフール地方に多数の鉱山を所有しており、UAEは第三国を経由する形でスーダンから輸出される金の大部分を手に入れてきた。UAEはそれと引き換えにRSFに武器を供与してきたとの見方が有力だ。
UAEの姿勢に変化の兆し
だが、UAEの姿勢にはここにきて変化の兆しがみられる。11月4日の英紙ガーディアン(電子版)によると、UAE大統領の外交顧問、ガルガシュ氏は21年の軍クーデターで暫定政府が転覆した際、関係諸国が制裁を発動するなど厳しい態度をとらなかったことは「致命的な誤りだった」と語った。RSFと距離を置くことを示唆する発言として注目されている。
トランプ米政権は、UAEとエジプトがとりわけ内戦終結の鍵を握るとみて働きかけを強め、「人道的停戦」に関する9月の共同声明発表にこぎ着けた。
UAEがスーダンに干渉したのは、民政の名の下にイスラム原理主義勢力が根付くことを警戒したからでもあった。共同声明はこの点に配慮し、将来のスーダン統治にはイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」が関わるべきでないとする立場も盛り込んだ。
スーダン内戦では国内外への避難民が1千万人を超えているとされ、「世界最大の人道危機」とも評されている。中東のテレビ局アルジャジーラ(電子版)によると、国内避難民は約960万人で、エジプトや南スーダン、チャドなど近隣国に逃げた人は約430万人に上るという。(カイロ 佐藤貴生、外信部 遠藤良介)