「幸せアピールうざい」産休クッキー騒動から1年 メーカーは「売上ダウンも覚悟していたが…」

「産休クッキー」をめぐる2024年の騒ぎを覚えているだろうか。

きっかけは同年4月、産休に入る女性が投稿した何気ないXのポストだった。女性は「産休をいただきます ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします」のメッセージとともに妊婦と赤ちゃんが描かれたクッキーを職場に配ると写真付きで紹介した。

すると、「もらったら嬉しい」「渡す必要がない」「不妊の人に配慮がない」「幸せアピールがうざい」などと大きな賛否を呼び、複数のメディアが取り上げたことで騒ぎが拡大していった。

あれから1年。話題になった「産休クッキー」の製造・販売を手がけるメーカーに改めて取材すると、売上には一切影響がなかったという。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

●売上に全く影響なし

産休クッキーを手がけるのは、ドリームエクスチェンジ(本社:東京)の通販事業部「focetta」。

冒頭のアカウントが産休で職場に配るとして紹介したクッキーがfocettaのものだった。

騒動になった2024年4月当時、代表取締役会長の瀧口信幸さんは「10年前からあるデザインだが、炎上はおろかクレームも一切なかった」と語っていた。

そこから1年が過ぎたタイミングで、瀧口さんに改めて話を聞いてみると、会社へのクレームは匿名で2件あったのみで、そのうちひとつは、なかなか妊娠できないという女性からの「子どもが憎い」「販売をやめろ」といった脅迫めいたものだったという。

売上への直接的な悪影響はほとんどなく、むしろ話題に乗って販売戦略を立てる菓子やプチギフトを手がけるネット販売業者が現れ、「ライバルが増えた」と話す。

●一過性の炎上だったのか

昨年7月に発表された「令和5年度雇用均等基本調査」によれば、育休取得者の割合は、女性で84.1%、男性では30.1%とそれぞれ前年度よりも上昇しつつあるが、取得期間の短さなど男女間の格差といった課題も残る。

弁護士ドットコムニュースは当時、「クッキーを配らなくても良いと思う」と考える労働問題の識者を取材。育休や時短勤務の制度利用者の増加による職場の負担感の増加、子を持つ人と持たない人の間の認識のズレ、子育てに不寛容な社会の状況を指摘したうえで、育児に限らない多様なライフスタイルを考慮した制度設計の必要性があるという意見を紹介した。

メディアが「産休クッキー」を女性の就労問題と絡めて騒動を取り上げることも続き、瀧口さんも何度か取材に応じてきた。

最後に取り上げたメディアはフジテレビの『ワイドナショー』で、アナウンサーがイラストについて「女性の絵だけしかないのか?」といった疑問を示す形で放送されたと振り返る。

「産休クッキーには70種以上のイラストがあって、男性のタイプも含めてその半分をテレビ側に送っていましたが、スタジオに届くまでに食べてしまったのでしょうか」と苦笑する。

それから1年、パタリと話題になることもなくなった。

●「買い続けてくれるのであれば何かの意味があるのだと思う」

「批判も売上ダウンも覚悟していたが、拍子抜けするくらいに何もなかった」と瀧口さんはいう。

「アフターコロナで接待の一部が企業から消えたのと同じように、クッキーを贈る側も贈られる側も問題と感じていたら、そのまま終わっていたはずです。それが今も買ってくれる人がいるというのは、それなりに意味があるかと思います。

仮に子どもができない人が怒っているのだとしたら、日本ではなぜ里親制度が広まらないのかとか、そこまでの議論に広げてほしかったです。メディアがそこまで踏み込むことはなかったですね」

瀧口さんは「プチギフトを贈り合って、ありがとうを言い合えるような慣習は良いと思います」とする。

とはいえ、自分たちの考えだけが「社会のスタンダード」だとは思っておらず、自分たちを疑い、他者の意見に耳を傾ける姿勢は続けたいという。

focettaの産休クッキー

これまでクッキーのイラストは自社のデザイナーによるものだったが、「産休」に限らず、さまざまなシチュエーションで感謝を伝えるためのクッキーのイラストを募集することにした(5月12日から)。

メーカーは冷静に消費者のニーズを取り込もうとしている。

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