<第三者委報告から>(上)パワハラ 「職員萎縮で損害を受けるのは県民だ」

報告書をまとめた兵庫県の第三者委員会。毅然(きぜん)とした表情で会見に臨んだ=19日、神戸市中央区、兵庫県庁

 兵庫県の告発文書問題を調べた県の第三者調査委員会が19日に公表した報告書は、計264ページに及ぶ。斎藤元彦知事による職員へのパワハラは「あった」と認定、文書の内容を調べずに告発者を捜し出し、懲戒処分としたことを「公益通報者保護法に違反する」と断じた。さらに今回の問題の背景として「特有の組織風土があった」とする考察が盛り込まれた。これに対し、斎藤知事は「26日以降に見解を示す」としている。3回にわたって報告書を読み解いていく。(連載取材班)

 告発文書にあった七つの疑惑のうち「知事のパワハラ」について、第三者委は調査した16件のうち10件を明確に認定。「パワハラ行為と言っても過言ではない」とした県議会調査特別委員会(百条委)の報告から大きく踏み込んだ。その一つが、文書にあった「知事が出張先で公用車を降り、20メートル歩かされただけで職員を怒鳴り散らした」というものだ。

 報告書によると2023年11月、県立考古博物館(播磨町)に出張した時のこと。知事は施設前で公用車から降ろされると、出迎えた職員2人に「なんでこんなところに車止めを置いたままにしているのか」と厳しく叱責(しっせき)した。

 車止めがあったのは、エントランスが埋蔵文化財の保護を目的に自動車進入禁止となっていたためだった。

 知事は調査に「通行禁止と知らされておらず、注意指導は必要性があった」と正当性を訴えたが、第三者委は「車止めには合理的な理由がある。叱責前に事情を聴きさえすれば認識を誤ることはなかった」と判断。この出来事が県民局長らの間で広く共有され「業務上必要な指導ではない上、伝え聞いた職員を萎縮させた」として、パワハラに当たるとした。

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 知事自身がメディアに出るかどうかを巡るパワハラも目立った。

 23年5月、知事は東京の授賞イベントに報道記者が来ないとして、深夜や休日にチャットで幹部に「個別に記者に売り込みをすること」などと強く求めた。

 これについて第三者委は「相手側(報道側)が決めることを職員に決めさせようとするのは実現困難で、過剰な要求」と判断。夜間や休日にチャットで送信を繰り返したことは「緊急性がなく、職員を精神的に疲弊させた」とした。

 また、県が発行するプレミアム付きデジタル商品券「はばタンPay+(ペイプラス)」のキャンペーンで、準備したうちわに知事の顔写真とメッセージがないとして追加発注した件もパワハラとして認めた。

 最初にきちんと指示をしていないのに、担当者のミスであるかのように指導するのは誤りであるとした上で「舌打ちをし、ため息をついて相手に考えさせようとする行為は無用に相手を威圧し、不適切」と断じた。

 知事は一連のパワハラ疑惑について当初「百条委や第三者委が判断すること」と述べていたが、昨秋の知事選では「していない」と明言。再選後は「最終的には司法が判断されること」と主張している。

 元裁判官で第三者委委員長の藤本久俊弁護士は19日の会見で、この知事の見解に対し「裁判に訴えられた件だけがパワハラかというと違うのではないか」と疑義を呈し、認定の考え方についてこう説明した。

 「パワハラは当事者の関係だけで捉えないことが大切。周囲の職員の萎縮につながれば、士気が低下して県政が停滞する。損害を受けるのは県民だ」

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 第三者委は昨年5月、県が内部調査で元県民局長を懲戒処分にしたことに「客観性に疑義がある」との批判が寄せられたため、知事の意向で設置した。元裁判官の3人と、サポート役の「調査員」の弁護士3人で構成。100人以上の職員から情報提供を受け、約1200の証拠資料を収集。60人と面談し、12回の会合を重ねてきた。

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