研究者「土星の月に生命いるかも。でもいないかも」「いたとしても、ねこ1匹分」
やっぱり、土星の月に生命が存在するの?
土星の月である「タイタン」は、太陽系のなかで「理論的に生命が存在する可能性」がたびたび指摘されている衛星の1つです。今回の新たな解析結果としては、「信じられないぐらい可能性は低いが、それでも生命が存在する可能性は確かにある」とのこと。
タイタンに生命は存在するのか?
タイタンは太陽系のなかで唯一、濃い大気を持つ衛星として知られています。また、液体の存在も確認されており、分厚い氷の下には「液体の海」が隠れているとも言われています。
NASAと欧州宇宙機関(ESA)、そしてイタリア宇宙機関(ISA)の協力により打ち上げが実現した土星探査機「カッシーニ」がタイタンに到達してから、すでに20年が経とうとしているなか、以前その探査は続いており、カッシーニに搭載されていた探査機「ホイヘンス」がタイタンに着陸し、詳細に探査を行なっています。
太陽系内では、生命が存在しうる場所がさまざまあると言われていますが、データ解析によれば、そのなかでもタイタンは最もその可能性が高い場所とされています。
ホイヘンスによる探査の結果、存在が判明した濃い大気には、生命の構成要素である有機化合物を生む化学反応が起こる可能性がある、ということが明らかになっています。
ですが、有機化合物が生まれるからといって、生命が形成されるわけではありません。
生命がいたとしても、ねこ1匹分
タイタンに微生物が存在する可能性を探るため、アリゾナ大学で博士号を取得した研究者、アントニン・アフホルダー氏は研究チームを率い、調査を実施。
タイタンに生命が生まれたとしたら、最も原始的な生命維持の手段の1つである「発酵」によって生き延びるだろうと仮定し、分析を行なったといいます。
発酵は、有機化合物を酸素を使わずにエネルギーへと変換するプロセスとして知られています。
アフホルダー氏率いる研究チームはタイタンの発酵に最も関わっていそうな有機化合物は、タンパク質をつくるのに有効なアミノ酸であるグリシンだと結論づけています。
グリシンはタイタンの地表でも見つかっていますが、問題はそれが生命の存在する可能性があるタイタンの「液体の海」にまで届くだけの量がちゃんと存在しているのかどうか。この「液体の海」は、なんと最大200キロもの厚さの氷の下に埋まっているとされています。
結果としては、残念ながらタイタンで微生物を見つけられる可能性はとても低い様子。The Planetary Science Journalで公開されているジャーナルにある通り、理論上は存在する可能性があるけど、いないだろう、という結論に至っています。
もし万が一、生命が存在しているとしても本当に、本当に、ほんっとうにごくわずかで、めちゃくちゃ小さいサイズだろうとのこと。
グリシンがもし「液体の海」に届いていたとしても、それで維持できる生命の総量はわずか7.5キロほどの炭素のみだろうとされています。
つまり生命体がいたとしても、ちょっとメタボ気味のねこ1匹分のみ、ということです。
アフホルダー氏は今回の分析結果について、こう締めくくっています。
「タイタンには有機物が豊富にあるため、生命を維持する“食糧源”には事欠かないはず、という楽観的な見方がこれまで根強くありました。
我々が伝えたいのは、もう少し現実的な視点です。つまりタイタンにある有機分子のすべてが、生命の“食糧源”になるわけではないということです。
「液体の海」はとてつもなく広大で、肝心の有機物がある表面との間には、ほとんど物質のやりとりがありません。
だからこそ、タイタンにおける生命の可能性を語るには、もっと慎重で多角的な視点が必要なのです。
仮に生命が存在していたとしても、その生命圏はあまりに小さく、海全体で見れば、1リットルあたりの細胞数が1個にも満たないレベルだと推測しています」