米ファウチ博士、上院公聴会で黙秘権行使 コロナ発生源めぐり
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アメリカ政府の元医療顧問で、新型コロナウイルス対策を指揮したアンソニー・ファウチ博士(85)は29日、同ウイルスの起源をめぐる上院国土安全保障委員会の公聴会に出席した。ただ、与党・共和党が自分の証言を利用して偽証罪で訴追する恐れがあるとして、黙秘権の行使を繰り返した。
ファウチ氏は、刑事事件で自らに不利な証人になることを何者も強制されないと定めている憲法修正第5条の権利を100回以上行使した。
宣誓下の議会証言と過去の発言に矛盾があれば、ファウチ氏にとって法的なリスクとなりかねない。同氏は、新型コロナウイルスとその起源について、これまでに複数の議会公聴会で証言してきたと述べた。
共和党はかねてから、ファウチ氏が新型コロナウイルスのパンデミックに関する情報を国民に伝えず、その危険性についてうそをついていると非難してきた。ファウチ氏は不正行為を否定している。
ファウチ氏は過去の議会証言で、自身に対する疑惑について「まったくばかげている」と述べていた。
国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の所長だったファウチ氏は29日の公聴会で、「立法府に対する敬意から、こうするのは心苦しいが(中略)弁護士の助言に従い、憲法修正第5条に基づく権利を行使し、質問への回答を控える」と述べた。
修正第5条の権利行使は、罪や嫌疑を認めることを意味しない。この権利は、自白の強要や錯誤、不正行為の立証責任が不当に転嫁されることから個人を守るためのもの。
ファウチ氏は昨年1月に当時のジョー・バイデン大統領から恩赦を与えられ、2014年から2025年までの行為については連邦当局による訴追から保護されている。ただし、それ以降の行為については、上院委員会への対応を含め、訴追される可能性が残る。州や地方当局が訴追する可能性もある。
ファウチ氏は29日、上院国土安全保障委員会宛ての声明で、公聴会の委員長を務める共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州)が自分を訴追することに「明らかに執着している」ため、質問への回答を拒否すると説明した。
「彼(ポール氏)が私をこの委員会に呼んだたった一つの理由は、私に何か、とにかく何かを言わせ、そうすることによって彼が繰り返し公に約束してきたこと、つまり彼に言わせれば私を『刑務所に入れる』という約束を正当化するためだ。これが、私に導き出せる唯一の結論だ」と、ファウチ氏は述べた。
議員になる以前は眼科医だったポール氏は、ファウチ氏が回答を拒否した後も質問を続けた。ファウチ氏に繰り返し「謝罪」するよう促したほか、上院委員会が来週、ファウチ氏を議会侮辱罪に問う決議案を採決すると述べた。
共和党議員らは、新型コロナウイルスのパンデミック中にこの感染症についての知見が深まるにつれて変化した公衆衛生指針について、ファウチ氏に質問した。ファウチ氏はこれまで、自身の政策上の立場を擁護してきた。
ファウチ氏の隣に着席した弁護人の1人、デイヴィッド・シャートラー氏は、ポール氏の質問中に繰り返し発言しようとしたため退席させられた。
シャートラー氏はその後、ポール氏が「正当な法的論点を示した弁護士を排除した」ことは「とんでもない」行為だと述べた。
シャートラー氏は声明で、「この手続きが根拠を欠き、報復的な性質を持つこと、そしてランド・ポール氏によるファウチ博士への個人的な復讐(ふくしゅう)であることを証明している」と付け加えた。
公聴会の最中、ドナルド・トランプ米大統領は、ファウチ氏は「狂っている」とソーシャルメディアに投稿した。
「私は当初から、このウイルスは中国・武漢にある研究所から来たものだと言ってきた。ファウチ氏はこれに強く反対し、常に中国を守ろうとしていた」と、トランプ氏は主張した。
新型コロナウイルスのパンデミックの起源については、アメリカで激しい議論が繰り広げられてきた。感染が広まり始めた2020年当時に大統領だったトランプ氏と、ファウチ氏を含む公衆衛生当局者の間でも対立があった。
両氏は、パンデミックへの対応をめぐり頻繁に衝突した。トランプ氏が効果が証明されていない治療法に言及した際にも対立した。
29日の公聴会でポール委員長は、ファウチ氏が公には新型コロナウイルスは自然発生したものだとの見解を示す一方で、内心ではウイルスが医療研究所に由来すると考えていたと示唆した。ポール氏は、新型コロナウイルスが中国・武漢のウイルス研究所から流出したとする「研究所流出説」を繰り返し主張してきた。
世界保健機関(WHO)は昨年、動物から人にウイルスが伝播(でんぱ)したとする「自然起源説」について、入手可能な証拠で「最も裏付けられている」見方だとした。ただ、さらなる情報が明らかになるまでは、この問題は「結論が出ない」状態だとした。
ファウチ氏、新型コロナの起源について日記に記す
ポール委員長は今週初め、ファウチ氏が新型コロナのパンデミックの最中に記した日記の内容を公表した。日記には、名声や新型コロナの起源について思案する記述が含まれていた。
日記の記述からは、ファウチ氏がパンデミック初期に、新型コロナの起源について「自然起源説」と「研究所流出説」の二つの可能性を考えていたことがうかがえる。ファウチ氏は後に、「自然起源説」への確信を強めたようだ。
2020年2月の日記には、新型コロナを研究する科学者らとの電話会議について書かれており、ウイルスの起源について医師らの間で「完全な一致」はなかったとある。
その後、ファウチ氏は「『研究所流出説』の可能性については引き続き先入観を持たずに考えるが(中略)、ウイルスが種を超えて感染し、自然に進化したものだとほぼ確信している」と記した。
「二つの選択肢があり得るからといって、それらが同程度に起こりやすいということにはならない」とも、ファウチ氏は書いた。
29日の公聴会で証言しないというファウチ氏の決断は、ロン・ジョンソン上院議員を含む共和党議員らの反発を招いた。ジョンソン氏はファウチ氏に対し、議員からの質問に回答させるため、召喚状の発付を働きかけるつもりだと伝えた。
公聴会の後、フロリダ州司法長官(共和党)は、ファウチ氏に対する調査を開始すると表明した。
こうした中、野党・民主党議員の一部はファウチ氏を擁護した。マギー・ハッサン上院議員は、この日の公聴会はファウチ氏を「陥れるために仕組まれたもの」だと述べた。
ファウチ氏は新型コロナのパンデミックの最中と終息後に、殺害予告を受けてきた。そうしたなか、トランプ大統領は昨年1月の2期目就任直後に、ファウチ氏の警護を打ち切った。
ファウチ氏は、科学者らが新型コロナウイルスの解明を急いでいたパンデミック対応の最中に、米政府で最も信頼された人物の1人だった。
トランプ氏と常に対立していたわけではなく、2021年にはトランプ氏が、アメリカの新型コロナワクチン開発計画「オペレーション・ワープ・スピード」におけるファウチ氏の貢献をたたえ、大統領表彰している。