現代自動車の米工場摘発、トランプ大統領の国内投資拡大計画と矛盾
トランプ米大統領は、外国企業に米国での雇用と生産を強制することを経済政策の柱としてきた。先週、ジョージア州にある現代自動車とLGエナジーソリューションの合弁電池工場で行われた大規模な移民取り締まりは、同氏の戦略とは大きく矛盾するものだ。
業界アナリストによると、現代自動車の施設は、トランプ氏がリショアリングの成功例として挙げるプロジェクトだが、その建設に携わる労働者を対象とした米国の取締りによって、停滞の危険にさらされている。数十億ドルの工場を稼働させるには、数百人の外国人技術者や下請け業者が必要だが、現代自動車やLGエナジーのような企業は、労働者を合法的かつ柔軟に呼び寄せる簡易的なビザの確保に苦労している。
関連記事:韓国企業、現代自動車の米工場摘発受け対応急ぐ-米投資に懸念強まる
冷や水
トランプ氏は、米国は外国投資と熟練労働者を歓迎するが、企業は合法的な手続きを経る必要があるとしている。同氏は7日、自身のソーシャルメディア、トゥルース・ソーシャルに「投資は歓迎する。優れた技術力を持つ優秀な人材を合法的に招き、世界クラスの製品を製造するよう奨励する。私たちはそれを迅速かつ合法的に可能にする」と投稿した。
トランプ氏は記者団に対し、米国人労働者の訓練のため、電池工場の専門家を招く方法を探りたいとも語った。
今回の取り締まりは規模や対象労働者の性質という点で異例だが、サムスン電子やSKオンなど、同様に米国に数十億ドルを投資している競合他社に冷ややかな影響を与えている。
ロンバード・オディエ・シンガポールの上級マクロストラテジスト、ホミン・リー氏は「韓国は多くの大型設備投資プロジェクトの経済的実現可能性を維持するため、米国のビザ規則の現実的な調整を求めるだろう」と述べた。
韓国からの専門家、技術者、下請け業者の流入は、こうした投資プロジェクトに極めて重要だ。この流れが遮断されれば、建設スケジュールを停滞させ、コストを押し上げ、投資がもたらすべき産業復興そのものを損なう恐れがある。現代自動車がジョージア州で生産拡大を図る計画も遅延することになる。
ビザ枠なし
関係者によると、米国で事業を展開する韓国企業の中には、トランプ政権下で就労ビザの取得にすでに苦労しているところもある。特に下請け業者向けのビザ発給が遅延し続けており、現地での出張や技術的な手配の調整が困難になっているという。
2012年から自由貿易協定(FTA)を結んでいるにもかかわらず、韓国は米国の他のFTAパートナー数カ国とは異なり、専用のビザ枠を一度も割り当てられたことがない。法律事務所によれば、米国はオーストラリア、シンガポール、チリには特定の枠を付与し、カナダとメキシコには、いわゆる条約国民ビザの下で上限を設けていない。対応の不一致は韓国政府にとって大きな不満の種で、二国間の経済関係における重大な隔たりとなっている。
外国人労働者の主要カテゴリーであるH-1Bビザは年間8万5000件の上限が設けられ、抽選で割り当てられる。韓国企業がビザを確保するのは困難かつ予測不能で、同国が受け取るビザ数はごく年間約2000件程度—とごく一部だ。その結果、一部の韓国企業とその請負業者は、短期ビジネスビザ(B-1)やESTAを業務目的で利用する手段に頼っているという。これらのビザは、厳密にはビジネス会議や観光用で、就労は明確に禁止されている。
影響拡大の恐れ
米国移民当局は、ジョージア州の工場建設現場での摘発は米国法に則ったもので、労働者の搾取防止を目的としたと述べた。
韓国の聯合ニュースによると、韓国政府は、一定の行政手続きと米国当局との協議を経て、拘束された自国民をチャーター便で引き取る計画だ。
合法的なルートが限られ時間がかかる限り、さらなる移民摘発により、韓国が米国で着手した他のプロジェクトでも同様の実態が発覚する恐れがある。現代自動車が2025年から28年にかけて約束した210億ドルの設備投資や、韓華グループがフィラデルフィアの造船所拡張・近代化に投じる50億ドルも対象になりかねない。
ユージーン投資証券のアナリスト、リュ・テファン氏は「この事件は、合法的に資格を持つ熟練労働者の不足を悪化させ、人件費の圧力を高める可能性が高い。米国の主要建設プロジェクト全体で遅延やコスト増が生じるだろう。米国で労働力を調達・管理する企業の能力が、プロジェクト遂行の鍵となる可能性がある」と指摘した。
原題:Trump’s Made-in-USA Push Undermined by Hyundai Raid, Visa Flaws(抜粋)