【大河ドラマ べらぼう】松平武元役・石坂浩二さんにインタビュー「森下さんの脚本はダイナミック」「抹殺される自覚はあったと思います」「白黒テレビ時代から出演。大河撮影は留学みたい」
1960年代から大河ドラマに出演されている名優、石坂浩二さん。「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」では長い白眉毛を生やした松平武元(まつだいら たけちか)を演じて注目を集めています。石坂さんに、急展開を見せた第15回の撮影エピソードや大河ドラマへの想いについて語っていただきました。
抹殺される自覚はあったと思います
――松平武元はどんなイメージで演じられていますか。
石坂さん:次のお世継ぎになる人間につかえる老中で、保守の親分というイメージです。家康が作ったものを継承していくのが自分の仕事だと思っていたところ、貨幣経済を声高に叫ぶ田沼意次(渡辺謙さん)が出てきた。そんな新鋭と相対する役なので、権威を出すため手足などあまり動かさず、あえて古い芝居にしてセリフも昔風の話し方をしました。
――第15回で家基の死を巡り、武元と意次が共闘関係になるシーンが印象的でした。
石坂さん:長いシーンで、セリフも多かったので自分でも印象に残っています。まず、どう表現しようか謙さんと相談しました。謙さんは、意次はあまり怯えていない感じで武元の屋敷に来ると仰っていました。私は武元の気持ちを考えて臨みました。武元は、幕府が凋落するのを救ったのは意次で、彼に先見の明があることも当然わかっていたはずです。ただそれだけでなく、自分自身が去るつもりでいたと思うのです。家基が死んで自分の仕事がなくなり、一番力のある意次に譲ることも考えていたから、志は一緒だと言って彼に託したのだと思います。
――武元の最期も衝撃的でした。
石坂さん:武元はお世継ぎについて真剣に考えていた人なので、家基が死んだときにはかなりショックだったはずです。また、自分も巻き込まれている感はあったと思います。西の丸の家基が殺されたのですから、自分の存在価値もなくなった。ヘタすると、なんらかの形で自分が抹殺されるかもしれない。そんな自覚はあったと思います。
森下さんの脚本はダイナミック
――手袋を巡る展開、森下さんの脚本はいかがでしたか?
石坂さん:最初、武元は意次のことを脅し、焦らせているようでした。意次を不安にさせておいてから、武元は彼を家に呼び、昔の話をしたりして打ち解けていく。森下さんの作劇術を感じました。手袋の話が一気に解決に向かうかと思ったら、武元が死んでしまうのですから、15回はダイナミックな展開ですよね。一度スタジオに森下さんが来られて、「15回、楽しみにしていますからね!」とプレッシャーを残してお去りになりました(笑)。やばいなぁと思って一生懸命やりましたよ(笑)。
――渡辺謙さんとのシーンも多かったですが、撮影の合間に雑談などされましたか。
石坂さん:ほとんど阪神タイガースの話をしていました(笑)。二人とも阪神ファンなのです。私は慶應大学の先輩で、学徒出陣もされた別当薫さんが大学に復学して野球をされたときにファンになり、別当さんが阪神に入られたので、そのまま阪神ファンになりました。周りの出演者に野球好きがいないので、いつも二人で話していました。
白眉毛は自分の一部に
――武元の白眉毛も話題になりました。
石坂さん:台本に「あの白眉毛め」と書いてあったので(笑)、何か付けなければと演出の大原さんと相談し、大胆にやろうということになりました。かつら屋さんに作ってもらい扮装テストをしたら、前が見えなくて(笑)。少しずつ切って調整しました。
――反響はいかがでしたか。
石坂さん:一回目の撮影時、共演者の方は誰も何も言わなかったのですが、何回目かになって、しみじみ人の顔見て「眉毛そんなに長かったのですね」と(笑)。意外に気づかないようです。趣味の模型仲間からはおもしろいと評判でした。最初は邪魔だと思っていましたが、付けているうちに眉毛もかつらと同じく自分の一部になってきて、不自然さがなくなった気がします。最後は記念に白眉毛が欲しいと思うほどになりました(笑)。
大河撮影は留学みたい
――1960年代から大河ドラマに出られていますが、石坂さんにとって大河ドラマはどんなイメージですか。
石坂さん:白黒テレビ時代から出ていますが、機材の進歩によって撮影現場はだいぶ変わりました。『天と地と』に主演で出ると公表されたとき、記者会見したり周りからいろいろ言われたりして、やはり大河には大変なイメージがあります。大河の撮影では、芝居のやり方や相手との間の取り方など、いろいろ教わり勉強になりました。一年以上も同じ役を演じるので、当時は大河学校に留学するような気持ちで勉強しました。
――今回は14年ぶり、12作目の大河ドラマご出演でした。
石坂さん:「べらぼう」は大河ドラマとしては初めての時代で、町人を描くのもおもしろいなと思っていたのですが、残念ながら幕府側の役でした(笑)。私は絵が描けるから、たぶん絵師かと思っていたのです。だから、少しがっかりしました(笑)。
――どんな絵師をやりたいと思われたのですか?
石坂さん:人間的に一番好きなのは北斎。北斎親子がとても好きなんです。ただ、北斎の晩年まで蔦重は生きていないので、よく考えたら出る機会が少ないのですよね。江戸時代の浮世絵師では渓斎英泉(けいさい えいせん)も好きです。歌麿など、これからドラマで絵師が出てくるのが楽しみです。
石坂浩二(いしざかこうじ)さん 1941年生まれ、東京都出身。慶應大学在学中にドラマ『七人の刑事』でデビュー、卒業後劇団四季に入団。主な出演作は、映画『犬神家の一族』、『ビルマの竪琴』、ドラマ『やすらぎの刻~道』など多数。大河ドラマは『天と地と』『元禄太平記』『草燃える』で主演。
(ライター・田代わこ) <あわせて読みたい>
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