現実には存在しない物体の画像を2.5次元生成できるツール誕生(ギズモード・ジャパン)
先日、マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピュータ科学・人工知能研究所の研究チームは、「Meschers」というソフトウェアを発表しました。 これは、現実には存在しない複雑な物体を2.5次元で可視化できるものです。見た目的にユニークなオブジェクトを作れるだけでなく、将来的には幾何学、熱力学、さらには美術や建築の研究にも役立つ可能性があるそうです。この研究論文は『ACM Transactions on Graphics』誌に掲載予定で、SIGGRAPHカンファレンスで近日発表されるとのこと。 研究の第一著者でマサチューセッツ工科大学博士課程のAna Dodikさんは、Gizmodoへのメールで以下のように説明してくれました。 「不可能物体とは、現実には存在せず、私たちの知覚の中にしか存在しない構造です。 私たちの視覚はある程度それを理解できますが、曲げたり切ったりしない限り現実には作れません」 Meschers(名前の由来は「meshes」と、画家M.C.エッシャーを組み合わせたもの)は、「私たちの知覚と一致し、3Dではないにもかかわらず、なじみのある3D処理を行なえる」形で不可能物体を表現する方法を提供してくれます。
Meschersの開発では、Dodikさんの研究チームは、微積分や人間の視覚の仕組みを組み合わせました。 例えばペンローズの三角形のような不可能物体を見ると、私たちの目は「局所的一貫性」、つまり形の中で「理解できる部分」を探します。 この場合、3つのL字型の角はそれぞれ別々に見ると筋が通っていますが、全体としてつなげると矛盾が生じてきます。 このため、不可能物体を現実に再現するには、物体を切ったり曲げたりする必要があるのです。計算の上でも、この矛盾が距離の計算などの幾何学的処理に影響することがありました。 Meschersはこの問題を解決するため、全体の一貫性を大きく緩め、代わりに局所的に一貫している部分の再現に重点を置くことにしました。 また、このソフトは照明条件を変えることもでき、光の当たり方によって、不可能物体の奥行きの錯覚がより強く表れるようにレンダリングが可能です。論文によると、この出力は古典的な幾何学処理アルゴリズムの多くを、私たちの知覚直感に沿った形で適用できるそうです。
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例えばインポッシベーグルは、複雑すぎる表面上の2点間の距離を計算する幾何学研究に理想的です。また、曲面上での熱の広がり方を調べるのにも使えます。 さらに、Meschersはトーラス(ドーナツ型)をペンローズの三角形に変形させるなど、不可能物体を逆方向にレンダリングすることも可能です。これにより、アーティストや建築家がこうした珍しい形を自由に使えるようになります。 そして何より重要なのは、これは楽しく、かつ洞察のある数学のやり方でもあることです。 この研究の著者の1人Justin Solomonさんは、「MITの私たちの研究グループは幾何学データ処理(GDP)グループなので、この画像をマグカップに印刷してメンバー全員に配りました。グループのロゴにぴったりなんです」と話しています。 Meschersは一般公開される予定で、コードも間もなく配布されます。つまり、私たちも近いうちにインポッシベーグルを作れるんです。食べるためではなく、数学的な好奇心を刺激するために、ですけどね。
岩田リョウコ