実験をサポートし、成果の喜びを分かち合う
理研播磨地区(兵庫県佐用郡)にあるX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA(サクラ)」。そのビームラインの開発や理研内外の研究者の実験支援をしている姜 正敏 研究員に、この分野に興味を持ったきっかけや理研で働く魅力、やりがいを聞きました。
姜 正敏(カン・ジョンミン)
どのような支援、研究を行っているのですか。
SACLAで時分割結晶構造解析(Time-resolved serial femtosecond crystallography:Tr-SFX)を行う利用者の実験支援を行っています。Tr-SFXは、結晶中の分子の微細な動きを高い時間分解能で観察する手法です。これによりタンパク質の構造変化を生体に近い温度で観察できます。しかし、大量のサンプルが必要であることや、タンパク質を活性化するトリガーの制限があるといった課題があり、これらの課題解決を目指した研究も行っています。
この分野、結晶構造解析に興味を持ったきっかけは何ですか。
大学院生(2011~2017年)のとき、低エネルギー電子回折を用いた金属結晶の成長に関する研究をしていました。回折パターンから非常に多くの情報を読み取ることができることに魅了されたのが最初のきっかけです。
その後、2020年に理研で放射光を用いたコヒーレント回折イメージングの研究に取り組みはじめ、より強力で高いコヒーレンスを持つ光源で、タンパク質などの動的な構造変化を観察してみたいと考えるようになったのです。光には波の性質があります。コヒーレントとは、波の位相が揃っている状態、つまり、光の波の山と山、谷と谷がそろった状態のことです。
SACLAのX線自由電子レーザーは、非常に高いコヒーレンスを持ち、放射光の100万倍の強度(パルス当たりの光子数)を有します。これにより、これまでに見えなかった構造変化を観察することが可能になりました。
X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA(サクラ)」
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAserの頭文字を取ってSACLAと命名された。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1とコンパクトであるにも関わらず、0.1ナノメートル(nm、100億分の1m)以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を持つ。
理研で働く魅力は何ですか。
世界最先端の実験施設、SACLAを使ってさまざまな分野の研究者と分野横断的に協力しながら成果を出せること、そこにとても魅力を感じています。例えば、実験サンプルを供給するシステムの開発には、X線光学や機械設計、流体力学、構造生物学、データサイエンスなど、さまざまな専門分野の研究者や技術者が関わっています。
もう一つの魅力は、大規模な研究開発プロジェクトに参加できる機会があること。現在、世界最大の検出面積を持つX線検出器の開発プロジェクトに参加しています。
日々、心がけていることはありますか。
SACLAを利用する研究者の実験を、できる限りサポートすることですね。1回の実験で制御すべきパラメーターは非常に多く、SACLAのビームラインを使いこなすのは簡単ではありません。そのため、施設側からの信頼できる技術支援が、各実験の成功にとって不可欠なのです。実験が成功したとき、ともに喜びを分かち合える、それが私のやりがいです。
2024年12月19日公開 RIKEN People「Lighting the path for large-scale laser studies」より翻訳、再構成
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