クシュタール、セブン&アイの一部株主と面談-膠着状態の解消目指す
カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールが、セブン&アイ・ホールディングスの一部株主と面談したことが分かった。関係者が明らかにした。クシュタールは、買収に関する協議が膠着(こうちゃく)している状況を打開するため、セブンへの圧力を強めている。
複数の関係者によると、クシュタール創業者で会長のアラン・ブシャール氏が一部のセブン株主と面談し、買収に同意すべき理由について説明したという。面談の詳細が公開されていないとして、この関係者は匿名を希望した。セブンに圧力をかけるよう明確に促した訳ではないが、買収の利点を強調し、特にセブン-イレブンの日本での存在感や成長の可能性などについて語ったと、関係者の1人は明らかにした。
クシュタールは先週都内で記者会見を開き、ブシャール氏らが登壇した。デューデリジェンス(資産査定)で財務状況を把握できるようになれば、その結果を基に買収提案を強化できる可能性があると主張。敵対的手法は考えていないとも述べ、買収提案に対する世間や利害関係者の理解を得ようと試みていた。
クシュタールの広報担当者はコメントを控えた。セブンの広報担当者は、クシュタールとの協議を続けており、機関投資家とも直接対話していると述べた。個別の株主に関するコメントは控えるとした。
昨年8月に明らかになったクシュタールの巨額買収提案に対して、セブン側はクシュタールと米国内で両社の店舗網が重複していることから、米の独占禁止法に抵触する可能性がある点について懸念を示してきた。ただ、事実上の対抗措置だったセブン創業家主導の経営陣が参加する買収(MBO)計画が破談。セブンに対する外圧は増している。
「急ぐべきことではないが、もし1年後にまだクシュタールの提案を受け入れるか迷っているようなら、何かがおかしい」。M&Gインベストメンツのアジア太平洋地域株式運用責任者であるカール・バイン氏はこう話す。ブルームバーグの集計データによると、同社はセブン株を約1440万株(0.55%)保有する。バイン氏は「会社のオーナーシップの問題で長期間にわたって気を取られるのは、ビジネスにとって有益ではない」との見方を示す。
またM&Gはクシュタールとの面談には参加していないという。
クシュタール株とセブン株をそれぞれ約1%保有するアーチザン・パートナーズ・アセット・マネジメントは積極的な行動を取っている。セブンに対してクシュタールと「より深く」関わるよう圧力をかけた。また他の株主に向けて、セブンの取締役が相次ぎ辞任したことに関連し、経営陣の責任を追及すべきだと主張した。ブシャール氏と面談したかは不明だ。
親和性も
セブンが懸念している米独禁法抵触リスクへの対応として、クシュタールは米国内の一部店舗の売却に向けて買い手候補と予備的な協議をしていると7日に明らかにしていた。
また同社はデューデリジェンス(資産査定)に必要なデータにアクセスできていないと繰り返し主張している。13日の会見でも秘密保持契約を結んでデューデリジェンスができるよう、セブン側に求めた。
M&Gのバイン氏は、セブンが米国市場における最大の競合他社に財務データを開示することについて慎重になるのは当然だと理解を示し、規制上の懸念が払拭された後に、より深い議論が行われるのは理にかなっていると話す。
ただ、合併・買収(M&A)では企業文化の相性が重要で、「両社の企業文化では共通点の方が相違点よりも多い」と、セブンとクシュタールに親和性がある可能性を指摘した。
投資材料に乏しい
またセブンの株主は、クシュタールによる完全な買収を求めている訳でもなさそうだ。M&Gのバイン氏は「完全買収が唯一の道ではない」として、単独での成長や、クシュタールとの一部協業でも、企業価値の向上は可能との見方も示した。
「クシュタールと資本業務提携を行うなどして、アジアなどでの利益成長を目指してほしい」。約115万株(0.04%)を保有するコモンズ投信の伊井哲朗社長はこう話す。日本市場は成熟し、米国は独占禁止法の制限を受けるとみているためだ。コモンズ投信はクシュタールとの面談に出席していないとした。
いずれにせよ、セブンの企業価値は現在の時価総額より高いというのが株主の共通見解だ。セブン株が長期低迷から抜け出せないのは、明確な成長戦略を見当たらないことでもある。
コモンズ投信の伊井氏は「セブンもクシュタールも、投資家が納得できるような中長期的な成長戦略を提示していない」と指摘。投資判断の材料となる情報に乏しく、「もっと事業成長にフォーカスした話をしてほしい」と述べた。