〈あさイチプレミアムトークきょう〉料理人への道から俳優に 高橋文哉の心に刻まれた「仮面ライダーゼロワン」監督からかけられた言葉

高橋文哉(たかはし・ふみや)/2001年生まれ、俳優。おもな出演作にドラマ「最愛」、映画「交換ウソ日記」。公開待機作に映画「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」(24年1月公開)など[撮影/蜷川実花、hair & make up 大木利保(CONTINUE)、styling 丸山晃、costume LAD MUSICIAN、彼岸、NEEDLES、WOBURN WALK] この記事の写真をすべて見る

 29日放送の「あさイチ プレミアムトーク」(NHK総合・あさ8時15分)のゲストは、朝ドラ「あんぱん」の癒やし系・健ちゃんこと辛島健太郎役の高橋文哉が登場する。脚本家・中園ミホから明かされる「あんぱん」の裏設定とは? 過去に掲載された高橋文哉にまつわる記事を再掲する(この記事は「AERA dot.」に2023年10月10日に掲載されたものを再編集したものです。本文中の年齢、肩書等は当時のもの)。

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 ドラマ「フェルマーの料理」で、念願の料理人役に初挑戦する俳優の高橋文哉。デビューから4年。常に自分なりのやり方で、努力を重ねてきた。朗らかな話しぶりからは、探究心旺盛で、飾らない素顔が見えてきた。AERA 2023年10月9日号の記事より。

――10月20日スタートのTBS系金曜ドラマ「フェルマーの料理」で、数学的思考で料理の世界に挑む青年を演じる。調理師免許を持ち、料理人を目指していた高橋自身の人生とリンクする役柄だ。

高橋文哉(以下、高橋):コック服を着てお芝居ができることには純粋に喜びを感じますし、自分がかつて目指していた職業だからこそ、感じられる楽しさや嬉しさといったものがあるなと思っています。

 10代の頃、料理について勉強をしたり、アルバイトをしたりするなかで感じていたのは、「100人いたら100通りの包丁の持ち方やフライパンの振り方がある」ということ。中華料理店でアルバイトをしていた頃は、「あの人の塩の振り方は特徴があるな」「中華鍋の振り方が違うな」とよく観察していたんです。

「フェルマーの料理」で僕が演じる北田岳は、普段は内気な性格だけれど、数学や料理に対しては、天才的な思考でアプローチしていく役なので、岳が無駄なく完璧にこなしていく感じや、そうしたことを無意識に行っているお芝居を、料理を通じて学んだ経験を生かし表現していけることに楽しさを感じます。

俳優の道で生きていく

――料理人を目指していた自分が、俳優に挑戦する。大きな方向転換であり、覚悟を伴うものではなかったのか。

高橋:「料理の世界に進んでいたら、今頃自分は何をやっていたのだろう」と考えることはあります。

 僕が上京するのと同時期に東京にやってきて、修業を始めた友人のなかには、1年目で皿洗いをし、2年目で包丁を握れるようになった人もいれば2年目でも皿洗いを続けている人もいました。僕は俳優1年目で「仮面ライダーゼロワン」に主演させて頂いたので、そこで基礎を叩き込んでいったことを考えると、業界によって色は違っても、歩んでいるステップとしては同じだな、と。

「もし料理の道に進んでいたら、いまどんな立場にいるのかな」と想像することはありますが、「仮面ライダーゼロワン」の放送が始まってからは「この道で生きていきたい」と思うようになっていました。


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AERA 2023年10月9日号

――年上のスタッフや俳優に囲まれ、現場での経験を重ねてきた。掛けられた言葉で、強く印象に残っている言葉はどのようなものだろう。

「演じすぎるな」

高橋:掛けていただく言葉に日々刺激を受けていますが、「仮面ライダーゼロワン」の監督に最初に言われた「演じすぎるな」という言葉は、心に刻まれています。「こうした役だからこう演じよう」ではなく、「これはこの人に起こっていることだから、その感情だけを考えろ」という言葉が僕にはすごく腑に落ちたんです。そこからはずっと、極論を言えば、その役を背負っている僕がその場に存在していれば、役柄を通してしっかり感情を出せるようになるのではないか、と思えるようになりました。

 その頃は、自分自身が白紙だったので、色々な方が関わりメモ書きしてくださるような感覚がありました。皆さんがメモ書きしてくださったものを僕自身が体現していく。そんな感覚でしたね。

舞台挨拶を見て研究

――芝居の面で成長したと思えた作品は何か。そう尋ねると、ドラマ「最愛」(2021年)を挙げた。

高橋:塚原あゆ子さんが演出される作品に出演するのは3度目だったのですが、それまで演じてきた役柄とはまるで違いましたし、出演するシーンの量も比較にならないほど多い作品でした。でも、その現場でも先ほどの「演じすぎるな」「何もしなくていい」という言葉を掛けて頂いて。

 吉高(由里子)さんと二人のシーンをどう演じるべきか悩んでいる時に監督がさっといらして、「吉高さんの顔だけ見ていて」と。僕は、「わかりました」と答えながらも、そう言われてしまったことが内心は悔しくて。でも、実際にそのようにしてみたら、自然と涙がこみ上げてきたんです。何も考えないからこそ、相手が発する言葉を「役」として、一人の「人間」として受け止め、自分の内側を発信していくことができるようになる。初めて「心が繋がっているな」と思えて、救われたな、という気持ちでいっぱいでした。


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――質問に対し、淀みなく言葉にしていく姿が印象的だ。「白紙だった自分にメモ書きしてくれた」といった、美しい表現もこの人ならではのものだ。

高橋:常に思考を巡らせている、ということは大きいと思います。デビューしてから「このままではダメだ」と思ったんです。自分のことを自分が一番わかっていて、多くの人々に発信していかなければいけない立場にいるにもかかわらず、発信するだけの能力がないな、と。

 それこそAERAなどの雑誌に掲載されていた著名人のインタビューを読んだり、舞台挨拶の様子を見て研究したりしていました。「言葉選びが綺麗な人ってかっこいいな」と思いながらも、どうすればいいのかわからなかったんです。先輩方のインタビュー記事を読み、「こうして言葉にするんだ」と最初は真似ごとから始めて。言葉の意味自体を調べたりもしていました。それを繰り返していると、言葉が自然と入ってくるようになるんですね。取材などで「その表現、かっこいいですね」と言われ、「よっしゃ!」と心のなかでガッツポーズしていた時期もありますけれど(笑)、いまは自分を客観視しながら、自然と言葉を発することができるようになりました。

 自己満足ではありますが、評価していただけるようになると、周囲が求めてくださるものも自分の理想も高くなっていく。そうしたものを「ちゃんと超えていこう」という気持ちも芽生えるようになりました。

漢字を書くのが好き

――「書く」という行為も、好きなのだと言う。

高橋:学生時代は板書するのがすごく好きで。「漢字を10回書く」といった宿題も大好きでした。純粋に「漢字」が好きなのだと思います。文字を書いていると、一画一画が体に染み込んでいくような感覚があり、自分にとっては、自分の体に影響を与える行為だという認識があります。字から伝わるものって必ずあると思うので。

 割合としては少ないですが、セリフを書いて覚えることもあります。「フェルマーの料理」で言えば、数学に関するセリフは書いて覚えるようにしています。それらは、自分の知識として入れておくべきだと思うからです。「女神の教室〜リーガル青春白書〜」(23年)に出演した時は、法律用語が多かったため、「おそらくこの人物が一度はノートに書いたであろう言葉」として、僕もセリフをノートに書くようにしていました。

 とくに数学や法律に関する言葉は、登場人物たちも過去に勉強し、何度も書いてきたはずなので、僕も勉強する気持ちを持ってから言葉を発したい。「フェルマーの料理」に登場する料理は、器具を揃え、自宅で作ってから現場に臨むようにしているので、それと同じですね。

 今回のように自分とリンクする役に限らず、どんな役をいただいても「いまの僕にオファーしてくださる信頼が嬉しい」と思う瞬間があります。なので、崩した言い方になりますが“なんでも任せていいと思っていただける俳優”になっていきたい。「こいつに投げたら大丈夫だ」。そう思ってもらえるよう、色々な顔を持つ人間でありたいと思います。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年10月9日号

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