明らかな異変。FC町田ゼルビアの守備崩壊はなぜ起きた?「頭を抱えなければならない事態」「対応が僕自身足りなかった」【コラム】
明治安田J1リーグ第28節、川崎フロンターレ対FC町田ゼルビアが8月31日にUvanceとどろきスタジアムby Fujitsuで行われ、町田は3-5で敗れた。不敗記録は止まり、勝利の方程式は崩れた。黒田剛監督就任後ワーストとなる5失点という悪夢はいかにして引き起こされたのか。(取材・文:大島和人)
止まった不敗記録。完成しつつあった「シン町田」を襲った悪夢
【写真:Getty Images】
FC町田ゼルビアの不敗記録が「13」でストップした。8月31日の川崎フロンターレ戦は3-5の打ち合いで、川崎の絡む試合ではよく見るスコアだ。逆にロースコア志向の町田にとっては「らしくない」試合展開だった。
不敗期間のスコアはこうだった。
(1)6/11(水)天皇杯2回戦 町田 2-1 京都産業大(Gスタ) (2)6/14(土)J1第20節 町田 2-1 湘南(レモンS) (3)6/21(土)J1第21節 町田 2-1 鹿島(Gスタ) (4)6/29(日)J1第22節 町田 4-0 新潟(デンカS) (5)7/05(土)J1第23節 町田 3-0 清水(Gスタ) (6)7/16(水)天皇杯3回戦 町田 2-1 富山(富山) (7)7/20(日)J1第24節 町田 1-0 東京V(味スタ) (8)8/6 (水)天皇杯準々決勝 町田 1-0 京都(Gスタ) (9)8/10(日)J1第25節 町田 2-0 神戸(Gスタ) (10)8/16(土)J1第26節 町田 3-0 C大阪(Gスタ) (11)8/20(水)J1第30節 町田 3-1 G大阪(Gスタ) (12)8/23(土)J1第27節 町田 0-0 横浜FM(日産ス)
(13)8/27(水)天皇杯準決勝 町田 3-0 鹿島(Gスタ)
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川崎戦で明らかな「異変」が起こったのは前半14分だった。ふわっとした浮き球を川崎のFWエリソンと町田のDF昌子源が競り合った。エリソンはヘディングに競り勝ち、こぼれ球に詰める。一度は昌子に身体を入れられたものの力強くボールを収めてシュートに持ち込んだ。シュートミスにより得点にはならなかったが、1点ものの決定機だった。
一度は昌子が八分二分くらいの優勢に持ち込んだコンタクトだった。それが相手ボールになり、シュートまで持ち込まれている。町田と昌子を見てきた中で初めての、あり得ない「やられ方」だった。
しかも、そんなシーンが一度二度ではなかった。3失点目はエリソンの突破にドレシェヴィッチ、昌子が翻弄され、中山雄太がカバーに来て空いたスペースで宮城天がフリーだった。4失点目はエリソンが自陣から力強くボールを運び、やはり昌子を振り切り、脇坂泰斗、山本悠樹がつないで最後はエリソンが押し込んだ。
伊藤達哉がエリア外からミドルを決めた川崎の先制点も、不思議な流れだった。伊藤と対峙した中山は突破とシュートのコースを切りつつディレイをする対応をしている。無理なシュートを打たせることも一つの狙いだろうが、その「無理なシュート」が決まってしまった。DFがコースを限定していたにも関わらず、シュートをGK守田達弥が止められなかった。
他の2ゴールも含めて、ボールの動きで崩されて数的不利になった形はなかった。これだけ分かりやすく「個の対決」が、結果に結びついた試合は記憶にない。
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5失点して敗れたあとに、敗因を饒舌に語る選手などいない。ただ、選手や監督のコメントを借りなくても、川崎戦の敗因はかなり分かりやすいものだった。まず1対1の劣勢からフィニッシュに持ち込まれたこと。もう一つはGKと3バックの連携が十分に取れていなかったことだ。
町田の3バック中央にはこれまで岡村大八、菊池流帆が主に配置されてきた。二人は「1対1のバトル」に無類の強みを発揮するタイプで、J1レベルのFWならば高さやパワーで負けることがない。しかし岡村は累積警告で川崎戦が出場停止で、菊池も負傷で不在だった。
右ドレシェヴィッチ、中央・昌子、左・中山の3バックは、鹿島に3-0で快勝した4日前の天皇杯と同じ並びだ。それぞれの能力が決して低いわけではない。
とはいえ川崎戦は重戦車系のエリソンに対して、明らかに分が悪くても、配置的に昌子がメインで対応せざるを得なかった。
さらにGK谷晃生も、菊池と同様に不在だった。
試合後の黒田監督は二人の欠場についてこう述べている。
「ケガが(二人にあって)、どうしても出られないような状況になってしまったことが一番の理由です。短期であれ、長期であれ、我々として頭を抱えなければならない事態ということは一つあります」
町田の不敗期間を振り返ると、谷の活躍で「勝ち点0、1が3になった」試合がいくつもある。そこには「DFとの連携」も大きく作用していたはずだ。GKは「DFがここは消してくれる」と信頼し、DFは「ここさえ切ればあとはGKが止めてくれる」と割り切って対応をする。町田の3バックにそういった「阿吽の呼吸」が揃い始めたことで、昨季は苦しんだ夏場に堅守を実現できていた。
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誰が出ても同じようにサッカーができれば理想だ。「誰かがいなかったから」という分析が、実際にプレーした選手に失礼な言い方であることも理解はしている。とはいえ谷が町田の守備にとって代えの効かない存在であることは断言していいだろう。谷の不在は「個人の不在」という以上に、GKと3バックの連携を狂わせていた。
現時点でクラブから菊池と谷の負傷についてリリースはなく、全治も不明だ。ただ、川崎戦は彼らの不在がはっきり影響した。そこはシンプルに事実だ。
試合後の昌子はサポーターへの挨拶に涙を浮かべて登場し、ミックスゾーンも引き止める記者に対して言葉を発しないまま通過した。とはいえ彼はチームのキャプテンで、左CBとして攻守両面の貢献が大きかったし、誰もが認める町田躍進の立役者だ。この1試合で彼の評価を云々するのはフェアではないだろう。
それにチームスポーツである以上「個人のミス」で終わらせてはいけないし、仲間がどうカバーできたのか?という視点も必要になる。ボランチの前寛之はこう口にしていた。
「ボランチとCBのリスク管理の形は、もう少し相手を見て柔軟に対応できたと思っています。エリソン選手が前半から嫌なカウンターの起点になっていたけれど、その前にボランチがスクリーンになって失点を防げたところはありました。分が悪いところを理解するのであれば、そこを消しに行かなければいけません。『DFライン、頼むよ』という簡単な解決には終わらせたくないし、試合の中で変化させていく対応が僕自身足りなかったです」
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とはいえ町田は川崎戦で、9月以降に向けてかなり難しい「宿題」を突きつけられた。町田は9月16日にAFCチャンピオンズリーグエリート初戦のFCソウル戦を戦う。アジアの強豪はJリーグ以上に前線に「強烈な個」を置いて、1対1の優位性を突いてくるスタイルが多い。町田DFはエリソンと同等以上のアタッカーと対峙することになる。
川崎戦は町田が天皇杯から中3日、相手は中7日の戦いだった。国際大会に参加するようになれば、「イコールコンディションではない戦い」が増えるし、そこに国境を超えた移動も入ってくる。
少なくとも6月から8月の13試合(川崎戦も含めると14試合)を見れば、今季の町田はかなり高いレベルの、内容が伴ったフットボールをしている。このままJリーグ、天皇杯といったタイトルを獲得しても私は驚かない。
一方で町田がJリーグを制するなら、「常勝軍団」を目指すなら、川崎戦のような状況を乗り切れるチームとなる必要がある。
それが容易でないことは大前提だが、今季の町田は「追いこまれた状況のごまかし方」が意外に拙い。川崎戦もエリソンをファウルで止めれば済む場面で、ファウルができなかった。
難局を乗り切る逞しさ、経験値が身について初めてJ1制覇の資格が手に入る。近年ならばヴィッセル神戸、川崎も乗り越えたハードルだ。コンディションが悪くても、主力が不在でも、せめて勝ち点1はもぎ取る展開に持ち込むーー。それが川崎戦から見えた町田の課題だ。
(取材・文:大島和人)
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